第89話 鬼の討伐(その1)

 それから3日後、調査を続けていた俺たちに絶好の機会が訪れる。


 午前の狩りに出ていた鬼は3組。各々2体ずつに分かれ、別行動をとっていたんだ。


 しかも都合の良いことに、それぞれの間隔はさほどひらいてない。かと言って近すぎもせず、スーパーとの距離もそこそこ離れている。相手の力量を知るのはもちろんのこと、間引きには持って来いの状態だった。


 あれから鬼の総数は変わらず、全部で25体のままを維持している。これ以上増える前に決着を――そうならずとも、戦力は少しでも削いでおきたい。



 そう判断した俺たちは、予定どおり3班に分かれ、一旦、スーパーの北側に大きく迂回していた。お互いの位置を地図で把握し、俺たちの班が動き次第、一斉に襲い掛かるという目論見だ。


「ふたりとも準備はいいか?」


 俺は声を潜め、同じ班の明香里と真治に声をかける。


「うん、ほかの班も配置についたよ」

「問題ない。いつでもいけるぞ」


 ふたりとも気負った様子は見られない。息もしっかり整っている。普段は暴走気味の明香里もそうだし、今日が初陣となる真治もかなり落ち着いて見える。


「俺が2本ヅノを受け持つからな。ふたりは1本のほうを殺ってくれ」

「りょうかいっ」「わかった」


 ゆっくりと頷くふたり。俺も武器を担いで標的に目を向け直す。


 相手との距離は約50メートルほどだろうか。木々の合間にいる鬼を捉え、一度深呼吸をして目を閉じる。


「っ、いくぞ!」


 合図と同時、2本ヅノに向かって全力で突っ込む。と、相手もこちらに気づいたようで、無手の状態のまま襲いかかってくる。俺の隣には明香里がいて、それを追うように真治が続く。


(できれば一発で仕留めたいところだ、が――っ)


 「ゴッ」とも「グシャ」とも聞こえる音。鬼に最接近した俺は、タートルメイスを勢いよく振り下ろした。


「ンガッ」


 鬼はとっさに腕を上げていたが、攻撃を防ぐには至らなかったようだ。亀の甲羅は両腕を潰し、脳天への一撃を見事に成功させる。


 その場でフラフラと呆ける2本ヅノ。絶命とはいかないまでも、相応のダメージは負っているらしい。白目をむいて崩れ落ちると、立ちひざの状態で失神した。


 俺はすぐさま背後に回り、鬼の首をひねって止めを刺す。


「秋文! こっちも終わったぞ!」

「追加で2体向かってくるよ!」


 ふたりに視線を向けると同時、真治と明香里の声が飛び込んでくる。真治は倒れた鬼の確認を――明香里は地図に目を落としていた。俺は明香里のほうへと駆け寄り、すぐさま地図をのぞき込む。


「夏歩のところはさっき仕留めてたよ。小春さんの班は……あっ、こっちも大丈夫みたい」


 目の前で点が消えるのを確認。ほかの班にも2体の鬼が近づいているようだ。


「スーパーに残ったのは13体か。ボスが動いてなきゃいいけどな」

「どうする? 作戦どおりでいいんだよね?」

「ああ、森で次のヤツを迎え撃つぞ。速攻で倒して合流する」


 とくかく数を減らすことが最優先。一斉に襲ってこないだけでも御の字だ。打ち合わせどおり、こっちからも距離を詰めていき、ほかの班よりも早めに接敵する。


「いたぞっ。両方とも1本ヅノだ!」


 真治の掛け声から数秒。先ほどと同じように、俺が1体を受け持って対峙する。今度は素手のまま飛びかかり、相手の攻撃を受けつつ打撃を与えていった。



 第2陣を始末してから数分後――


 追加の鬼をすべて討ち取り、全員が森の中で合流を果たす。


 いまところ負傷者はおらず、鬼はそれ以上の動きを見せていない。スーパーの敷地に陣取ったまま、建物内の一画に留まっている状態だ。これがボスの指示なのか、はたまた鬼の習性なのか……。


 なにはともあれ、みんなで情報を整理しながら休息をとっている。


「わたしの感覚だと、少数ならイケる感じですね。ツノ族よりは断然強いですけど……夏歩ちゃんのほうはどうだった?」

「んー、ツノが2本のヤツは相当強かったよ。覚醒前の大猿、ってのは言い過ぎだけどさ。それに近い感じがしたかな」


 小春の言葉に続いて夏歩が意見を述べる。


 これまでに倒した鬼は12体。その大半が1本ヅノで、2本のヤツは2体しかいなかった。俺が最初に殺った1体に加え、夏歩がもう1体を仕留めている。


「お兄さんはどんな感じだったの? 2本ヅノとやったんだよね?」

「……いや、どうだろ。なにせ一瞬だったからな。1本ヅノは小春と同じ感覚だ。ここにいる面子なら問題ないだろう」


 申し訳ないが、2本ヅノに関してはよくわからない。油断しまいと速攻で仕留めたものの、もう少し粘れば良かったと後悔している。それでも一応、『大猿よりは見劣りする』ってのが正直な感想だ。


「私からもいいですか?」


 そう言いながら軽く手を挙げた昭子。彼女は夏歩の戦闘を見ていたらしく、ツノの本数による違いを述べはじめた。


「まず、ツノの本数による実力差は確実にあります。さらに言えば、ツノの長さによっても微妙に違う印象でした」

「あれ、そうだっけ?」

「2回目に来たヤツら、ツノが長かったでしょ。同じ1本ヅノでも強かったし、やたらと粘ってたよ」

「あー、言われ見ればそんな気も……」


 記憶をたどる夏歩をよそに、昭子はなおも話を続ける。


「1本ヅノならここにいる全員が倒せます。ただ、2本ヅノは長さにも注意を。1対1ならともかく、複数を相手にするのは避けたいです」


 彼女曰く、個体によって動きが違ったらしい。とくに俊敏性と耐久力に大きな差があるようだ。「夏歩が倒した個体は2本目のツノが短かった」と、再度注意を促している。


「そういや、俺が殺ったヤツも短かったな。片方は3センチくらいしかなかったぞ」

「残りの数は13体。しかもほとんどが2本ヅノのはずです。できれば1対1に持ち込みましょう」


 敵の数はこちらと同数。倒した人から援護に回り、最後に全員でボスを倒す、ってのが昭子の提案だ。それを足掛かりにして、標的や陣形など、具体的な対策を練っていった――。


「では、ボスの相手は秋文さん、お願いします」

「ああ、任せてくれ」

「そのまま倒せるのが一番ですけど、いきなり覚醒を余儀なく……なんてケースもありますからね。みんなはそのつもりでバックアップを」

「「了解っ!」」


 昭子と小春を中心にして、何パターンもの事態を想定。俺たちはいよいよもって本陣へと乗り込む。







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