第86話 合同会議

 駅に住むことは全員が了承済み。拠点の性能については明香里たちから聞いているようだ。すでに荷運びは終わり、朱音たちとのやり取りについても合意を得ている。


 これまでどおり、野菜と肉の物々交換を継続。それに加えて、定期的に交流することも決まった。


 住もうと思えば今日からでも可能だし、実際、小春たちはそのつもりでここへ来ている。残る問題と言えば、スーパーにいる鬼の対処くらいだ。この際、桃子たちのことは置いておこう。



「先輩は鬼の殲滅を考えてるんですよね?」

「ああ、みんなと合流するのを待ってたんだ。アレは早めに対処したほうがいいと思う」

「そうですか。一応、理由を聞かせてもらえます?」

「ああ、それなんだが――」


 今後の生活を考えた場合、ずっと放置したままにはできない。どこで接触するかはさておき、いずれは対峙することになるだろう。俺はそう前置きをしてから具体的な理由を説明していく。


『鬼が人を襲うこと』

『集団の規模が徐々に増えていること』

『スーパーにある物資を手に入れること』


 さらに付け加えるなら、『小学校の安全確保』ってところか。それこそ毎日のように懐いてくれば情も沸いてしまう。正直な話、ここにいる子どもたちのことが気がかりだった。


 そうでなくとも、小学校に被害が及べば野菜の確保が難しくなる。鬼に手を出す理由づけにはじゅうぶんだろう。



「なるほど、そういうことなら賛成です。やりましょう!」

「私も賛成! 鬼に勝てるか試したい!」

「そのうちこっちに来るかもだし、なるべく早いほうがいいよね」


 小春に続き、夏歩と冬加のふたりが答える。


「オレたちも賛成だ。医薬品が手に入るのもいいよな」

「私たちも異論ありません」


 今度は健吾と昭子が代表して賛同の意を示した。


「そうか。なら明日から偵察を始めよう。朱音たちもそれでいいか?」

「もちろんよ。私たち3人も参加させてちょうだい」


 朱音は力強く答え、隣にいる真治と理央もやる気を見せている。その意気込みはありがたいし、レベル7となった今なら戦力になるだろう。


 ただそれでも、彼女らの意思を汲むことはできなかった。


「悪いがそれはできない。朱音たちは学校で待機してくれ」

「おい、なんでだよ! おれたちだって戦えるぞ?」


 身を乗り出してテーブルに手を突く真治。珍しく血相を変え、凄んだ表情で俺を見つめる。


「それはわかってるよ。だけどここを空けたらマズいだろ? 鬼を打ち漏らすこともあるし、桃子たちへの警戒も必要だ」

「っ、たしかにそうだが……」


 一網打尽にできればいいが、鬼がばらけてしまうケースだって考えられる。そうなった場合、一番危険なのはこの小学校だ。彼らには、いざというときの防波堤になってもらいたい。


 ――と、まあこんなのはただの誤魔化しだ。本当の理由は別にある。


 ほんとは口には出したくなかったが、このままでは納得しそうにない。俺はそう結論付け、思いのままを伝えることにした。


「おまえら、ツノ族とやり合ったことないだろ? ぶっちゃけ、いきなり鬼を殺せるとは思えない」

「…………」

「足手まといを連れていくつもりはない。そのせいで、ほかのヤツラが怪我をするからな」


 厳しい物言いではあるものの、人型を殺すには相当な覚悟が必要なんだ。アレを経験してるかどうかで、動きに雲泥の差が出てしまう。一度は交戦している健吾たちならともかく、彼らには荷が重すぎるだろう。


「ならせめて……、せめておれだけでも同行させてくれ。絶対、足手まといにはならない。頼む!」


 真治は執拗に食い下がり、一向に譲ろうとはしなかった。「ここで殺っとかないとダメなんだ」と、相応の覚悟を決めているようだ。結局は俺のほうが折れ、真治だけは連れていくことになった。


 これで最終的な参加者は13名。俺や小春たち4人と健吾たち4人、明香里たち4人に加えて真治が参戦することに決まる。朱音と理央は小学校の防衛をしつつ、ほかの能力者たちの取りまとめを行う。


 なんにせよ、まずは様子を見ることになり、拠点の整備をしながら少人数での偵察を開始。鬼の数が増えるようなら前倒しで決行する手筈だ。



「あの、話は全然変わりますけど――」


 重苦しい空気を緩和させるためなのか。話が済んだところで、隣にいる小春が問いかけてくる。こうして気遣いのできるところは半年経っても変わらないようだ。


「先輩って、うちの会社には寄ったんですよね?」

「ああ、もちろんだ。俺と小春のデスクもきっちり調べたぞ」

「じゃあ、わたしの書置きって読みました? 現状とか居場所を書いておいたんですけど……」

「え、そうなの? 俺が行ったときには何もなかったけどな」


 どうやら手掛かりを残してくれたらしい。


 それが無くなったということは、おそらく誰かが……というか、桃子たちが隠したんだと思う。決めつけは良くないけれど、俺が別行動だったことを知っていたのかも。


「くそっ、またあの女の仕業か……」

「え、小春?」


 まるで別人かのごとく、ドスの利いた声でつぶやく小春。彼女は不機嫌な態度を隠しもせず、桃子を犯人だと決めつけていた。


 再び場の空気が重くなると、誰からともなく廊下に退散。真治もすっかり毒気を抜かれ、俺の肩に手をかけたあと逃げ出した。


「じゃ、じゃあ俺も行こうかな……」


 席を立とうとしたものの、小春に袖を引かれて着席。それから30分ほど拘束され、彼女の愚痴を延々と聞く羽目になった。

 

(前言撤回。やっぱ半年も経つといろいろ変わるようだ……)

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