第85話 再会の日
それから4日後の午後――
俺は小春たちとの再会を控え、校門の前で待機していた。ここには門番役の理央に加え、真治と朱音の姿もある。
予定どおりの行路ならば、遅くとも今日の昼過ぎには到着するはず。俺ははやる気持ちを抑えきれず、覚醒を繰り返して何度も気配を探る。
(……まだ反応はないか)
ここ数日をかけ、南側の魔物はしっかりと間引いてある。道中で絡まれる心配はまずないだろう。よほどのトラブルがない限り、予定が狂うことはないはずだが……。
「おい、ひとまず落ち着けって」
俺の態度を見て察したのか、真治が肩に手を掛けてくる。
「荷物だって多いだろうし、多少は遅れることもあるさ」
「……まあそうだな。気長に待つしか――っ!」
そう言いかけたところで、南のほうから複数の反応を探知する。
その数は11。この匂いはまさしく小春たちだ。健吾や明香里たちの気配もあり、全員がトンデモない速度で近づいてくる。
さりとて彼女らの周りに反応はない。なにかに追われているだとか、危険が迫っているようには思えなかった。
「すまん理央。門を開けといてくれないか」
「ん? べつにいいけど……なにかあったの?」
「いや、そうじゃないんだけどさ。あいつら、もの凄い速度で向かってるんだ。万が一もあるから頼むよ」
「そうなの? わかったわ」
小春たちの身体能力は相当なものだ。門くらいは平気で飛び越えるだろう。それは承知しているものの、一応、念のために願い出ておく。
それから数分後、小春たちの反応は目と鼻の先まで近づいてきた。
覚醒は切れてしまったものの、間もなく森を抜けてくる頃だろう。こちらは門扉を開けた状態で待機。真治たちは門のそばで――俺は敷地外へと陣取った。
それほど心配はしていないが、何事も油断をすべきではない。戦闘状態に入ることを見越し、武器を構えながら森を見つめる。
と、次の瞬間――
森の切れ目に小春の姿を発見。俺を見つけた彼女はさらに速度を上げ、勢いよく走ってくる。……いや、これは「勢いよく」なんてもんじゃない。馬モドキの効果を全開にして、俺に襲い掛かってくる感じだった。
そのままの速度で飛び込んでくる小春。俺は武器を投げ捨て受け止めたのだが……勢いあまって7メートルほど後ずさり、敷地内に入ったところでようやく停止した。
そんな衝突事故みたいな再会を果たし、小春を抱きしめたまま声をかける。
「小春、ひさしぶり。会いたかったよ」
「……っ」
彼女はなにも言わず、俺の胸に顔をうずめている。背中に回した腕に力を込め、むせび泣いていることが見て取れた。
俺にとっては数週間ぶりでも、彼女にしてみれば半年ぶりの再会なのだ。同僚として仲間として……さらには異性として、いろいろと思う所があるんだと思う。
それは小春の態度を見れば明らか。さすがに勘違いという線は捨ててもいいだろう。
――ふと顔を上げると、ほかの面子も勢ぞろいしていた。ひとりも欠けることなく、俺の顔をまじまじと見つめている。健吾と洋介は軽く手を上げ、美鈴と麗奈がそれに寄り添う。
「お兄さん生きてたんだねっ」
「ずっと探してしてたんだよ……!」
夏歩と冬加が駆け寄ってきながら、うるうると涙腺を緩める。
「ふたりとも元気そうでよかった。また会えてうれしいよ」
笑い泣きするふたりにそう答え、仲間たちとの再会を喜び合った――。
それからしばらくして、一向に離れようとしない小春をよそに、ほかの連中は校長室へと移動。みんなの姿が消えたところで、ようやく彼女が顔を上げた。
「……大丈夫か?」
「はい、もう平気です」
涙目でほほ笑む小春は実に魅力的だった。このまま告白してしまおうかと、おっさんはついつい色めき立つ。周囲に野次馬さえいなければ、確実に実行していたことだろう。
どこから嗅ぎつけたのか、校舎の窓にはたくさん子どもたちが――。さっきから「亀おじ亀おじ」と、俺を指さして騒いでいるのだ。さすがにこの状況で言えるほど肝は座っていなかった。
「……俺たちもそろそろ行こうか」
「ですね……。っていうか、亀おじって先輩のことですか?」
「ああ、残念ながらな。コレのせいでそう呼ばれてる」
「なるほど、それで亀おじですか……あははっ」
俺がタートルメイスを拾い上げると、小春は子気味よく笑った。
「そういや小春、荷物はどうした? たしかみんなも手ぶらだったよな」
ふたりで校舎に向かいながら、誤魔化すように話題を変える。
「あ、荷物なら駅に置いてきましたよ。拠点を移すって聞きましたので」
ここに来るのが遅れたのはソレが理由だったらしい。粗方の引っ越しは済ませたようで、住んでいた小学校は放棄してきたと言っている。
「一応、提案をしておいたが……みんなはそれで納得してるのか?」
「はい。あそこは物資も少ないですし、とくにこだわりはありません」
周りに建物はなく、生活用品を集めるのにも難儀したらしい。野菜も家庭菜園規模に留め、こことの物々交換に頼っていた。
こうして俺が見つかった以上、あの場所に留まる理由はない。むしろ駅に住むことには前向きのようだった。
「まあ、先輩と一緒ならどこでもいいですよ?」
小悪魔っぽく微笑む小春は、そう囁きながら寄り添ってくる。校長室に入っても離れることはなく、みんなに冷やかされつつ話し合いの場に加わった。
◇◇◇
主要メンバーが集まる校長室。
俺と小春、朱音と昭子の4人が席につき、ほかは立ち見のままテーブルを囲む。それぞれの自己紹介に続いて、これまでの経緯を詳しく聞いていった。
みんなは異世界から戻ったあと、電車は駅まで進んで停車。それと同時に景色が変貌する。とくにこれといった兆候はなく、一瞬で様変わりしたらしい。
車内にいた人数はおよそ200人。これには日本行きを選んだ人も含まれ、縄文時代を生き残った人数は未知数とのこと。誰からともなく下車すると、すぐに何組かの集団が形成され始める。
そこで頭角を現したのは桃子たちの勢力だった。能力者ばかりを80人ほど集め、俺が立ち寄ったビルへと向かっていった。
「しかもあいつ、アタシらの高校を占拠したんだよ?」
声を荒げたのは冬加だ。数日後に立ち寄った際、高校でひと悶着あったらしい。そこで桃子と不可侵条約を結ぶ。
「あー、俺も高校で会ったよ。いまは60人くらいで住んでるらしいぞ」
「どうせ女王様気取りだったんでしょ?」
「どうなんだろうな。俺も速攻で追い出されたからよくわからん」
まあ、桃子のことはさておき――。
朱音たちの集団は小学校へと移動。残る乗客も散り散りになり、駅に留まったのは約40人となる。その後、彼らがどうなったかは不明。2週間後に立ち寄ったときにはもぬけの殻だった。
「そういや、明香里たちと知り合ったのは初日なんだよな?」
「うん、速攻で仲良くなったよ! ねっ、明香里!」
俺の問いに答えたのは夏歩だった。隣にいる明香里とハイタッチを交わし、仲の良さをアピールしている。
「話には聞いてたけど、ずいぶん打ち解けてるんだな」
「まあ、最初はちょっぴり疑ったけどね。話も合うし、地図の色も青いし、私は一緒に暮らしたいなぁ」
初日に互いの経緯を知り、それから2週間ほどは公民館で共同生活を開始。家族を探すために別れたものの、数か月後に再会して現在に至る。
調停者のことや、選ばれた千人のこと。森の主を倒したことなんかも打ち明け、俺の能力以外はすべて開示してあるようだ。
「俺も4人は信用できると思う。話はついてるみたいだし異論はないよ」
地図の色が変わったのは夏歩だけでない。俺も含め、ほかのメンバー全員が青色の表示。今更とやかく言うこともなかった。
みんなの過去が知れたところで、明香里たち4人の合流が確定。話題は拠点のことへと移っていく。
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