第83話 明香里と昭子と大輝と龍平

「ねえ秋文さん。わたしたちを仲間に入れてくれない?」

「ん、仲間ってアレか? 俺と共同生活するってことか?」

「うんうん。秋文パーティーに入れてほしいの」


 わざとなのか天然なのか。上目遣いで俺を見つめる明香里。隣にいる昭子まで似たような視線を送っている。たぶん昭子のほうは狙ってやっているのだろう。


「ちなみにそれって、小春たちには話したのか?」

「もちろん! 秋文さんを見つけ次第合流しようって、全員の了承は得てるよー」

「そうなのか。……すまん、ちょっとだけ考える時間をくれ」

「どうぞどうぞー」


 さて、この提案はどうなんだろう。4人の態度からして、冗談で言ってるようには思えない。もちろん罠という線もあるが……そもそもそれを仕掛ける理由がない。


『内部分裂を狙ってる?』

『もしくは俺の知らない目的が?』


 いや、それにしたって手が込み過ぎだ。そんな理由であるならば、とっくの昔に動いている。半年も待つ意味はないし、そもそも俺と会うことなんて想定外だったはずだ。


 それに小春たちがいいと言うくらいだ。悪いヤツらではないのだろう。そこそこ長い付き合いのようだし、さして問題ないように思える。


 なにより彼女らの実力は相当なもの。おそらく異世界経験者の中でもトップクラスだと思う。味方になれば頼もしく、敵に回れば厄介極まりない。ここで仲違いをするよりも、共に暮らすメリットのほうが大きい。


「なあ。一応、目的……というか理由を聞いてもいいか?」

「あ、なら私が説明します。明香里だと曲解されかねませんので――」


 そう答えたのは昭子だ。しょんぼり顔の明香里をよそに、淡々と丁寧に語ってくれた。


・最初は自分たちが主役だと思って行動していたこと


・巨大熊討伐で足踏みをして、自分たちの限界を感じたこと


・主を倒した存在を知り、その人たちの性格が気に入ったこと


・変わり果てた日本。そこでどう立ち振る舞うかを話し合ったこと



 どうやらこんな流れで結論に至ったらしい。同年代の夏歩や冬加ともウマが合うようで、ずいぶんと前から決めていたんだと。


「要するに『勝ち馬に乗ろう』ってことです。私たち、秋文パーティーが主役だと考えてます」

「なるほど。主役かは知らんけど、理由はだいだいわかった」

「物語で言うところのサブキャラ。お助けキャラとも言いますけど、このポジションが一番おいしいんですよ」


 俺についていけば『なにかが起こる』と、昭子は確信めいた表情で語っていた。



 それからややあって、俺自身は一緒に暮らすことを了承。小春たちと合流してから改めて話し合うことに――。


 ときおり雑談を交えながら、駅に拠点を移すことや、電車が破壊不能で強固なこと。西にあるスーパーに鬼がいることなんかを話していった。


「うわっ、鬼がいるのは聞いてたけど……そんな近くにいるんですか」


 驚いて声をあげたのは大輝だった。普段は口数が少ないのか、これまでほとんど話さなかったが……。『鬼』という単語を聞いて過剰な反応をみせていた。


「そういやおまえら、運び屋なんだよな。移動中、一度や二度は遭遇してるだろ?」

「いえ、僕らは一度もないですよ。南方面は比較的安全ですし」


 小春たちの拠点――というか南方面一帯は、魔物の数が少なく、鬼を見かけたこともないそうだ。大猿や森の主はもとより、取り残された人間すらほとんどいないらしい。


「魔物が少ない理由はわかってるのか?」

「ああ、それはですね――」


 森の植生やニホ族の集落跡から察するに、縄文時代の地形が丸ごと日本へ転移したと思われる。ニホ族はいないものの、モドキやボスは一緒に転送されたのではないか。


 そして南の一帯にいる動物モドキ。大猿や森の主を含めてだが……縄文時代にいた段階で、俺たちが狩りまくっていた。そのせいで魔物の数が少ないのではないか。


「って感じのことを小春さんが言ってました」

「あーたしかに、それはあり得そうな話だな」

「人とも遭遇してませんし、建物自体ほとんどありません。そのあたりも関連してると睨んでるそうですよ」


 なにかと察しのいい小春のことだ。あながち間違いではないのだろう。この世界に残された人、そしてどこかへ消えてしまった人。建造物を含め、なんらかの法則性がありそうだ。



 ――と、話題が尽きることはなく、時間はあっという間に過ぎていく。


 4人の人となりも知れ、悪いヤツじゃないこともわかった。今後一緒に住むことになれば、話す機会はいくらでもあるだろう。交流会はお開きにして、今日のところは別れることになった。


 小春たちのいる小学校は、ここから歩いて2日の距離。明日の運搬を済ませたのち、この4人が現地へ向かってくれる予定だ。


「なあ明香里、俺も着いて行っちゃダメなのか? できれば早く会いたいんだが……」

「んー、べつにいいけどさ。世話になってる小学校は大丈夫なの?」

「仲間が見つかり次第、去ることは伝えてあるぞ」

「でもいきなりはマズくない? 駅に拠点を移すなら今後も交流するでしょ。ぶっちゃけ、野菜の供給源とか貴重だよ?」


 まあたしかに、明香里の言うことには一理ある。


 魔物は間引き途中だし、西にいる鬼は放置したまま。今後の交流を考えた場合、唐突にいなくなるのは不義理に過ぎる。ハイエナ狩りで株が上がっている現状、良好な関係のまま別れたいところ――。


「たった5日の辛抱だし、その間に身支度をしといたら?」

「……そうだな。そのほうが良さそうだ」


 結局、俺は残ることになった。5日後の朝、朱音たちの小学校で合流する予定だ。一応、俺と会った証拠として運転免許証を渡しておく。


「じゃあ、みんなによろしく伝えてくれ」

「もちろん! って言っても、明日また会うことになるけどね」

「まあそうだよな。じゃあまた明日、今後ともよろしく頼むよ」


 こうして新たな仲間が加わることに――。明香里たち4人と握手を交わして立ち去った。


『謎の高校生たちの正体』

『調停者と呼ばれる存在』

『千人の選ばれし日本人』


 今日の調査は大収穫におわり、また一歩、この世界の真理に近づいた気がする。


 



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