第82話 謎の高校生
家に招かれた俺は、公民館の一室で4人組の男女と向きあう。
どうやらここは給湯室のようだ。8畳くらいの間取りには、簡易な調理台やテーブルが置かれている。
「じゃあ、まずは自己紹介からだね」
どうやらこのメンバー、主導権は
「わたしは明香里。一応、ここのリーダーをやってます。あっ、歳は17ね。みんな同じ高校の同級生だよ」
活発そうで明るい性格。少しあどけない顔立ちだが、容姿はかなり整っている。割とグイグイくるところが初期の夏歩を彷彿とさせる。高校は2駅先にあるようで、夏歩や冬加とは別の学校みたいだ。
「で、こっちが
「昭子です。よろしくお願いします」
優し気な声に奥ゆかしい態度。明香里とは正反対で、歳の割には大人びて見える。一度も目を逸らさず、毅然とした感じで受け答えをしている。おそらく勘違いだと思うが、値踏みされているようで少し怖い。
「男2人は高校からの付き合いよ」
「はじめまして、
「んで、オレが
ふたりとも体格は標準的。さっき見た感じ、身長は170センチを少し超えるくらいか。
大輝は礼儀正しく真面目な印象。イケメン顔も相まって、好青年という言葉がよく似合いそうだ。緊張しているのか、あまり俺のことを見ようとしない。とはいえ、陰キャラというわけではなさそう。
龍平のほうは砕けた話し方で、少しテンションが高いイメージ。チャラいというより悪ガキといった感じだろうか。馴れ馴れしさはあるものの、さして悪い気はしなかった。
「縄城秋文、歳は35だ。今は近くの小学校に身を寄せている」
互いの自己紹介が済んだところで、明香里の問いかけが続く。
「小学校って、駅の北にあるとこ?」
「たぶんそれだ。10日ほど前から世話になってる」
日本に戻ったら半年経っていたこと。小学校に滞在しながら魔物狩りをしていること。運び屋と呼ばれる存在を待っていることを伝える。
「なるほどなるほど、そういう感じかぁ。ちなみに帰還が遅れた理由は?」
「……おそらくは『観測者』のせいだ。俺だけ変な空間に呼ばれてな。しばらくの間は隔離状態だった」
適当に誤魔化そうかと一瞬だけ迷った。けれど、隠したところで大した意味はない。新たな情報が掴めるかと思い、俺は正直に打ち明けた。
「観測者、なるほどそういう……。それが帰還特典だった可能性が高いわね。だとすれば、森の主に止めを刺した人限定ってことに――」
そう答えたのは昭子だ。俺の目を見据えて淡々と考察をしている。
きっと彼女は、このチームのブレイン役なのだろう。知的な見た目どおり、鋭い洞察力を持っているようだ。
「なあ。それって、オレたちが会った調整役とは違うのか?」
「龍平、調整役じゃなくて『調停者』よ。いい加減まともに覚えなさい」
冷ややかな目で龍平を睨む昭子。突っ込まれた龍平は、頭をガクリと下げて大げさに項垂れる。それを見て笑う明香里と大樹という構図。おそらく毎度お馴染みのやり取りなのだろう。
それにしても、昭子が発した『調停者』とは何者なのか。それとなく問いかけて詳しい内容を聞いてみたところ――。
「なるほど、やっぱり事情を知った上で下車したのか。ようやくあのときの謎が解けたよ」
想像していたとおり、彼女たち4人は超常の存在に出会っていた。
日本から転送された直後、なにもない荒野に送られて『調停者』と呼ばれる存在と会合。これから起こる現象と、異世界に送る目的を知る。
最初の世界で自分たちを強化すること。そして次の世界に渡り、ツノ族やモドキを倒すこと。可能であればニホ族を保護してほしいと頼まれた。
その空間に呼ばれたのは1千人。調停者の話によると、『日本全土から選りすぐった候補者』として召喚されたらしい。
学生は自分たちだけで、それ以外は20代から40代の男女。グループだったり単身だったりと、これと言った統一性はなかったようだ。最後に地図の説明を受け、帰還特典のことを聞かされて終わる。
「信じてもらえるかわからないけど、他者に伝えられないよう制限されていたんです。言えなくてごめんなさい」
「いや、それは問題ない。それよりさっき言ってた『帰還特典』ってのを教えてほしい。なにか貰える予定だったのか?」
俺が観測者に会ったあと、地図は消えていたし、所持品もすべて元通りだった。質問に答えてくれたくらいで、なにかを貰った覚えはまったくない。帰還特典とはなにを指すのだろうか。
「そこまではわかりません。具体的な話は聞けませんでした」
「そうか、ならいいんだ。教えてくれてありがとう」
結局、帰還特典については不明。されど中々に有益な情報だった。
きっと調停者に選ばれた千人こそ、森の主討伐の主役だったのだろう。俺が会った監視者も、似たような話をしていた気がする。モヤモヤしていた疑問が晴れ、スッキリとした気分だ。
それから少し雑談を挟み、頃合いを見て小春たちとの関係を聞いていく。
どうやら知り合いというのは本当のようで、かなり以前から交流をしているらしい。小春はもちろん、夏歩や冬加、健吾たちも一緒に生活しているとわかった。
彼女らの言葉をまとめると、概ね以下の流れとなっている。
日本への帰還直後、俺の姿がないことに小春たちが大騒ぎ。「なにか事情を知っているのでは」と、4人に話しかけてきたそうだ。ほかの乗客が散り散りに去っていくなか、互いに情報交換をはじめる。
一旦は別れたものの、3か月ほど経ったところで再会。小春たちは地元に戻り、家族を探し歩いていた。――が、結局はひとりも見つからず、捜索は打ち切りとなったらしい。
ただ、家族とは別の収穫はあった。南にある海に向かう途中、ムンドの集落跡地を発見。さらにはアモンの集落まで見つけたんだと。
縄文時代の地形に酷似しており、ふたつの集落まで発見。ニホ族はいなかったものの……日本と異世界、2つの世界が混ざり合ったと確信を得る。
そこで思い立ったのは、俺がジエンの集落に取り残された可能性だ。ジエンたちと一緒に暮らしていると考えた。
残念ながら集落は見つからず、ジエンや俺の姿はなかった。該当する場所には小学校が残っていたらしい。俺が近くにいるかもと、小学校で暮らしつつ捜索範囲を広げていった。
「じゃあ今もその小学校に?」
「うん。この前会ったばかりだし間違いないよ」
小春たちと交流を始めたのは2か月ほど前のこと。俺のいる小学校から野菜を調達。小春たちのところへ運び、魔物肉をメインに運送役を続けていた。
「んん? ってことはお前らが『運び屋』なのか?」
「そういうこと! 明日小学校に行く予定だよ」
「そうか。もっと早くに来るべきだったな……」
思いがけない展開に、嬉しいやら残念やらで複雑な気持ちになる。
それにしてもコイツら、なんで運び屋なんてしてるんだろう。さっき聞いた話では、4人ともレベル7の能力者だった。少人数とはいえ、魔物はいくらでも狩れるはず。わざわざ面倒なことをする意味がわからない。
「なあ、なんで運び屋なんてしてるんだ? おまえたちなら余裕で暮らせるだろ?」
「あーそれそれ! そのことを話したかったんだよ!」
どうやらちゃんとした理由があるようだ。明香里が前のめりになって声を荒げた。ほかの3人も居住まいを正し、真剣な顔で俺を見つめている。
「ねえ秋文さん。わたしたちを仲間に入れてくれない?」
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