第74話 レベル7の能力者

 桃子を含めた8人は、全員、異世界で見知った顔ばかりだった。


 そんな彼女は門番の彼を手招きすると、俺を放置したまま事情聴取を始める。


(大した情報は流してないが……)


 少なくとも、俺の記憶がないことはバレるだろう。あとは小春たちを探していることも。桃子たちとは別の車両だったけれど、俺があの場にいなかったことを知っているのだろうか。


 いずれにせよ、また一つ情報が増えた。桃子がここにいる以上、小春たちだって戻っている。魔物や鬼の存在があるとはいえ、彼女らが生存している可能性はグンと上がった。



 やがて事情聴取も終わったようで、桃子が仲間を引き連れて近づいてくる。やけに自信ありげな顔で、俺の目の前まですんなりと迫る。


「ねえ、嘘までついて何のつもりかしら。こっちでも不介入で決着したはずよね?」

「待ってくれ。記憶のことなら本当だ。不介入ってのも覚えがない」


 覚えてないというより、そもそも知らなかったんだが……。その当時、俺はいなかったわけだし、ほかの誰かと約束したのだろう。できればそのあたりの経緯を探りたいところだ。


「……まあいいわ。それで? 今さらなにしにきたの。あの子たちと一緒に占領でもするつもり?」


 桃子の発言に合わせ、周りの連中が武器を構える。


 どう考えても冗談には見えず、本気でやり合う姿勢を露わにしている。とてもじゃないが話し合いに応じる雰囲気ではない。何を言っても聞いてもらえないだろう。


「やり合う気はまったくない。ここにはたまたま立ち寄っただけだ。すぐに出ていくよ」

「そう。ならそうしてくれるかしら」


 彼女らにとってみれば、俺の存在は異物でしかない。自分たちより強いチカラは毒にしかならないのだろう。せっかく築いたコミュニティに不和を与えるだけだ。


『これ以上得られるものはない』


 そう判断した俺は、きびすを返して早々に立ち去る。門番の彼に感謝を伝え、森の中へと入っていった――。



◇◇◇


 桃子に追放されたあと、俺は小学校の方角に足を向ける。ビルから見た感じだと、ここから15分程度の距離だったと思う。


(あの様子。こっちで小春たちと接触してるよな)


 対話こそできなかったものの、一応のヒントは提示されている。


 短い会話のなかで「こっちでも不介入」「あの子たちと一緒に」と、桃子はたしかに言った。


 こっちに来てから話し合ったのは確定。そして「あの子たち」という言い回しは女性――しかも複数を意味する言葉だ。一般的な解釈をするなら小春たちを指す言葉だろう。


 接触した時期はわからずとも、日本に来てから遭遇したのは確かだ。ともすれば、小学校で暮らしている可能性が高い。先に嗅覚強化を使うか迷ったが……万が一に備えて温存することに決めていた。



 道中で遭遇した2匹の鹿モドキ。それをズルズルと引きずりながら目的の小学校へと到着する。


 校門の前には2人の女性が立っており、どちらも私服姿で、年齢は20代後半に見える。


「突然現れて申し訳ない。中に入れてもらうことは可能だろうか」


 森の中から登場する怪しげなおっさん。まあ俺のことなんだが……こちらを見ながらいぶかし気な視線を向けられる。


「あなたひとり? ここへ来た目的は?」

「俺ひとりだけだ。ここには人を探しに来た。向こうで――異世界で一緒だった仲間を探している」


 それとなく異世界経験者であることを伝え、相手の返答を静かに待つ。


 俺と鹿モドキを交互に見る2人の女性。コソコソと話し合った後、1人はすぐに駆け出していく。そのうち上役が……もしくは戦闘部隊が登場するのだろう。


 この場に残った女性、名前は理央りおというらしい。彼女から自己紹介を受けたあと、名前や身元などの簡単な質問を受ける。


 俺はここ半年の記憶がないこと。高校に立ち寄って追い出されたこと。桃子たちとは面識があることも伝えた。


「信じるかはべつとして、だいたいの素性はわかったわ。ついでにもうひとつ質問していい?」

「問題ない。なんでも聞いてくれ」

「あなたの能力を教えてほしいの。異世界経験者なら持ってるでしょ?」


 ここへ入るためには、能力を公開する必要があるらしい。自己申告となるため、あまり意味はないと思うが……ルールというなら仕方ない。こうして魔物を狩っている以上、ある程度の開示はすべきだろう。


 後々バレるリスクを避け、巨大熊のことだけを伏せることに――。


「鹿、兎、アルマジロ、猪、馬、狼、大猿。これでいいか?」

「ちょ、待って嘘でしょ……あなたレベル7なの!?」


 みるみるうちに顔色を変える理央。最後は口をポカンと開けて固まっていた。正直な気持ち、かなり自尊心が満たされている。こうも驚かれると悪い気はしない。


 ちなみにレベルというのは、モドキ能力の保持数を指す。俺の場合、7つの能力を持っているので『レベル7』というわけだ。どういうわけか、ハイエナについてはカウントしないようだ。


「話には聞いてたけど……レベル7、本当にいるのね」

「俺の仲間も同じなんだが、ここに住んでたりしないかな?」

「居るわけないよ。居たらどんなに楽だったか……」


 あくまで想像でしかないけれど、魔物の脅威で相当ツラい目をしているはず。彼女の口ぶりから察するに、おいそれとは外に出られないのだと思われる。


 理央の話に合わせるなら、最低でもレベル3、できればレベル5は欲しいところだ。猪とアルマジロ、それに馬モドキの能力は必須だと感じていた。



 しばらく苦労譚を聞いていると――、


 5分もしないうちに伝令役の女性が戻ってくる。


 理央と言葉を交わした後、そのまま中へと招き入れてくれた。てっきりひと悶着あると思っていたら、いきなり代表者と合わせてくれるらしい。


「あっ。今さらだけど、よかったらコレどうぞ」


 途中で狩ってきた鹿モドキを渡し、校舎の中へと案内してもらう。


 意外とすんなり入れてもらえたが……今はこれが罠でないことを祈るばかりだ。



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