第52話 集落の改修計画

 健吾たちを保護してから3日、度重なる襲撃もようやく鳴りを潜めたらしい。


 これで終結となるのか、それともまだ続くのか。いずれにしても、平穏な日常を取り戻しつつあった。近場に限定しているが、動物狩りや海での漁も再開している。


 それとこの3日間は、毎日のように対策会議を開いていた。今日も今日とて、朝から族長宅に集まって具体策を煮詰めているところだ。


 進行役の小春がメモを見ながら話を進めていく。


「では、捕虜にした人たちのことから報告します」


 捕虜の4名については、24時間体制で監視を続けた。日を増すごとに弱ってきたが、それと同時に良さげな変化も起きている。


 これまでにわかったことは以下のとおりだ。


・俺たちと同じ食事を用意したが、水以外はひと口も食べようとしない

・この3日間、一度も排泄行為をしていない

・ツノ族の男はツノが徐々に黒ずんできた

・日本人3名のツノが徐々に短くなっている


「ツノの縮小は1日で約1センチです。洋介さんに至っては、もうほとんど消えかけています。おそらく今日の昼ごろには完全に無くなるかと」


 ずっと監視をしていた健吾曰く、会話はおろか、自分たちの言葉にも無反応らしい。それでも「ツノが消えればもしかして」と、淡い期待を抱いているようだ。いまも嬉しさ半分、不安半分という感じの表情を見せている。


 結局、この件に関しては誰も発言しないまま粛々と進む。慰めの言葉をかけたところで、ダメだったときの落胆が大きくなるだけ。場の空気を読んだ小春が、議題を移して進行していく――。


「では次に、集落の改修計画についてです。各班の割り振りが決まったので説明しますね」


 いつになるかは不明だが、俺たちはいずれ帰還の日を迎える。ニホ族だけで生きられるよう、集落の防衛力を上げておきたい。

 戻れなかった場合も想定しつつ、防壁の拡張や食糧調達など、集落の全員に役割を振って行動する。


「作業の分担は全部で4つ。各班には、リーダーと地図の監視をつけます。では最初に集落の整備から順に――」


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<集落の整備班> 50名

リーダー:ジエン 地図の監視:小春

主な役割は防壁の拡張と住居の増築

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 防壁は二重構造を採用し、現存する防壁の外側に、もうひとつの防壁を建設する。なお、防壁間のスペースは20メートルほどを予定している。


 住居は竪穴式住居を6つ増築。あくまで防壁工事を優先して、余裕ができたらさらに増やす計画を立てた。


「わたしが地図の監視役を、ジエンさん主導で建設を進めます。ジエンさん、よろしくお願いしますね」

「ああ、こっちこそよろしく頼む。コハルが一緒なら心強い、いろいろと助言してほしい」


 族長のジエンが集落に残り、俺たちのなかで最も器用な小春、彼女がサポート役についた。総勢50名と人数は多いが、このなかには20人の子どもが含まれており、土器の生産や伐採後の枝打ちを任せるつもりだ。


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<食糧の調達1班> 8名

リーダー:エド 地図の監視:夏歩

主な役割は狩猟と採取

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 お次は日々の食糧調達。第1班は、森での動物狩りと植物の採取を担う。普段から仲が良く、戦闘力も兼ね備えたふたりがタッグを組んでいる。


 あくまで動物狩りをメインとするが、モドキも見つけ次第狩る予定だ。モドキの肉は腐らないので、保存用としても重宝するだろう。


「カホ、一緒にモドキを狩りまくるぞ!」

「おっけー、任せといて! ガンガン狩っちゃうよ!」


 備蓄が増えるのはありがたいが……頼むから大猿と主には手を出さないで欲しい。


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<食糧の調達2班> 12名

リーダー:ムンド 地図の監視:冬加

主な役割は塩の生産と漁業

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 3つ目は南の海で塩を生産する班だ。ほかにも魚を獲ったり貝などを採取する。


 集落の人口が増えたため、塩の確保はかなり重要な要素となる。再び襲撃に遭った際、長期にわたって籠城する場合もあるだろうと、人員を少し多めに割り振っている。


「ムンドさんよろしくね」

「ああ、こう見えて泳ぎは得意なんだ。漁のことはワシに任せてくれ」

「あー、そういえば東のほうにも海はあるんだっけ」

「ワシらの主食は魚だった。子どもたちの好物だし、たっぷり食わせてやりたい」

「なるほど、じゃあ頑張らないとだね!」


 部族の大半を失ったムンドは、それでも気丈に振舞っている。子どもたちを救えたことが、唯一の支えになっているようだ。すぐには割り切れないだろうけど、少しずつでも馴染んでくれたらと思っている。


 ここからは余談になるが、海で行動する際の『全武装パージ』は全面禁止となった。冬加は気にしないと言ったけど、余計なモノをぶらつかせるのは、いろんな意味で良くない。


 未遂に終わったとはいえ、彼女は過去に襲われた経験がある。小春の提案により、「せめて下だけは身に着けてください」となった。


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<周辺の調査班> 8名

リーダー:アモン 地図の監視:健吾

主な役割はハイエナ探しと大猿の生態調査

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 そして最後は、アモンと健吾の調査班だ。健吾たち日本人はもちろんのこと、ニホ族の子孫を強化するため、ハイエナモドキの肉を確保したい。


 親の得た能力が子どもに継承されるのか。それとも1代限りの強化なのか。それがわかるのはかなり先の話となる。少なくとも、俺たちがここにいる間に判明することはないだろう。


 大猿の行動範囲や移動ルートなど、討伐に向けての下調べも含めて調査してもらう予定だ。


「アモンさん、よろしくお願いします」

「ああ、とりあえずオレのいた集落の周辺を探ってみよう」

「秋文たちがハイエナを見つけたのは、アモンさんが住んでいた北側でしたね」

「それを見越して選ばれたのだろう。森の案内は任せておけ」


 ――と、すべての担当が発表され、最後に俺の順番が回ってくる。昨日の時点で決定していたことだが、改めて小春の口から告げられた。


「予定どおり、秋文さんには集落の警備をお願いします」


 はじめは大猿の調査を志願したのだが、ジエンたちの強い要望でこの立場に収まった。


 基本は集落で待機しつつ、どこかの班に異変が起きた場合、増援として動く手筈だ。集落の最大戦力として、外敵の排除を――とくに対人戦での活躍を望まれている。


「自分ひとりでどうこうできるとは思ってないが……任されたからには全力を尽くすよ。各班の手伝いもするから遠慮なく言ってくれ」


 ぶっちゃけた話をすると、みんなから信頼に少なからず愉悦を覚えている。だからどうしたという話だが、せいぜい期待を裏切らないように立ち回るつもりだ。


「では、本格的な作業は明日から開始します。今日の午後は、各班で集まって段取りを決めてください」


 最後に小春が締めくくったところで会議はお開き。しばらくは余談が続いて「そろそろ昼食の準備を」と、席を立ったときだった。


「おいみんな! すぐに来てくれ!」


 健吾の仲間が族長宅に駆け込んでくる。


 その表情は非常に明るく、不吉な報告でないことはすぐに察することができた。


 それもそのはず、どうやら洋介の意識が戻ったらしく、「ツノも完全に消えた」と捲くし立てている。





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