第51話 ツノ族化した仲間
西の森に集結した38人のツノ族たち。
今回は途中で止まらずに、集落の目の前まで一気に進んできた。
西側の森は伐採が進んでおり、結構な広さのスペースがある。当然、大量に積まれた丸太材もあるわけで……。
ツノ族たちはソレを手に取り、出入口以外の三方に別れて移動を開始。数名のグループごとに統率の取れた動きを見せる。
(コイツら、なんで入り口を探さない? いきなり防壁を破るにしても、入り口側だけを避ける意味があるのか?)
この世界に転移してすぐの襲撃。あの時を除いて、打ち漏らしたツノ族は誰ひとりいなかった。ここの状況なんて絶対に知らないはず。にもかかわらず、まるで出入口の場所を把握しているかのような――。
「おいアキフミ、アイツらこっちに来ないぞ!」
これまでと違う展開を前にして不安を感じたのだろう。出入口で待機していたエドが慌てて駆け寄ってくる。
「エド、心配するな、防壁だってそう簡単には壊れない。何度も検証したから知ってるだろ?」
「いや、まあそうだけどさ」
現状、東西南北それぞれに、5人の男たちを配置している。子どもは族長宅へ避難済みだし、戦える女たちも煮炊き場で待機中だ。
仮に防壁が破られたとしても、戦力的にはこちらが上、人的被害は最小限で抑えられるだろう。
(とはいえ、数は減らしておくべきだな)
このまま待っていても状況は変わらない。すぐに小春たちを招集して、こちらから打って出ることを伝えていく。
――と、いよいよツノ族たちの攻勢がはじまったらしい。集落のあちこちから「ドッ、ドッ」と鈍い音が聞こえてくる。防壁は多少揺れているが、へし折れたり傾いたりはしていない。
「ってわけで、ジエンは防壁周りを、アモンは出入口の確保を頼む」
「うむ、おまえたちこそ気をつけろよ」
「相手の戦力は分散してるし、こっちは精鋭揃いだ。油断さえしなけりゃやられることはないさ」
迎撃部隊は俺を含めて14人。小春と夏歩と冬加に加えて、エドたち10人のニホ族が志願している。まずは北側の集団を、それに続いて西、南の順で各個撃破して回るつもりだ。
「それと健吾、南側にいたのは洋介で間違いないんだな?」
「ああ、さっきこの目で確認してきた。ツノは生えてたが……アレは間違いなく洋介だった」
「わかった。健吾たちは南側の防壁を監視してくれ。洋介に動きがあったら、壁越しに報告を頼む」
黙って頷く健吾たち。
彼らも戦う意思を見せたが、今回は遠慮してもらった。敵側にも日本人がいるので、見分けのつかないニホ族たちが混乱してしまうからだ。乱戦状態の最中、いちいちツノの有無を確認してるヒマはない。
「よし、行動開始だ」
みんなの顔を見回したあと、一斉に外へ飛び出す。
北側にいたツノ族は15人。大半は丸太を抱え、防壁の破壊に専念している。となれば当然、武器など持っているはずもなく――
接敵さえしてしまえば、あとは一瞬で片が付いた。
「アキフミ、西のヤツらが丸太を捨てたぞ! 全員、そっちに向かうつもりだ!」
とここで、防壁の内側からジエンの声が届く。どうやら西側のツノ族が俺たちに感づいたらしい。
相手から向かってくるなら好都合というもの。このまま北側で応戦すれば、南にいるヤツらは気づかないだろう。
「みんな、聞いてのとおりだ。ここに引き付けるぞ」
「わかった!」「りょーかいっ」
案の定、応戦している最中に増援が来ることはなかった。西側にいた12人も、強化されたニホ族の相手にはならない。極太こん棒の一撃により、次々と倒されていった。
「よし、次で最後だ。いったん集落に戻るぞ」
「なんだよアキフミ、このまま全部やらないのか?」
さっきも説明したはずだが……。エドは興奮しているのか、洋介の存在を忘れているようだ。
「すまんエド、知り合いがひとり混じってるんだ。できれば生かしたまま捕まえたい」
「あー、そういえばさっき言ってたな。けど、ツノ族になってるんだろ? 捕まえたところでどうするんだ?」
「理由はあとで説明するよ。とにかく戻ろう、話はそれからだ」
相手の戦力が激減した現状、あとはどうとでも対処できる。防壁の強度がどれほどなのか。ツノ族は違う動きを見せるのか。そのあたりも含めて観察をしたい。まずはそのことを伝えて集落の中に戻った――。
集落の南側では、いまだに打撃音が鳴り続けている。
が、防壁はほとんど無傷のまま機能していた。所どころに控え杭が立てかけてあり、以前よりも頑丈な作りになっている。
「健吾、コレはおまえらがやったのか?」
「ああ、問題はなさそうだったが、念のためにな。悪いが勝手にやらせてもらったぞ」
「そうか、こっちも粗方は片付いた。あとは目の前の11人だけだ」
出入口の警備を数名に任せ、主要な面子が集まったところで現状を報告しあう。
現在、こちら側の被害は一切なし。負傷者はもちろんのこと、施設の損害も見られなかった。
あえて挙げるとしたら、南側の防壁が多少傾いてきたくらいか。何度も打ち付けられたことで、壁の天辺が数センチほど倒れてきたらしい。すでに補強が施されて元どおり、それ以降はビクともしなくなった。
「それで先輩、洋介さんの捕獲……いえ、救出はどのように?」
「そうだぞアキフミ、捕まえる意味を早く教えてくれよ」
小春の問いに続いてエドが催促する。俺は健吾をチラッと見たあと、ありのままを話すことにした。
「洋介はついさっきツノ族になったばかりの貴重な存在だ。いま捕まえてる2人もそうだが、ツノ族化したあとの生態を詳しく知っておきたい」
・ツノの長さが違うことに意味はあるのか
・ツノ族化したあとの身体変化はどうなのか
・モドキの内臓以外は食べないのか
・あわよくば元の体に戻れないか
ほかにも意思の疎通だったり、所持している地図の変化など、細かいことを伝えていく。
「なるほどたしかに……。洋介さんのツノ、かなり短いですもんね。ツノが徐々に伸びて完全体に、なんてことも?」
「内臓を摂取することで伸びるのか。それともほかの要因があるのか。元に戻す方法を含めて検証するつもりだ」
防壁の隙間から見える洋介は、額に生えたツノの長さが3センチほどしかない。これまで見てきた中でも断トツの短さだった。
「ただし、元に戻らなければ諦めてくれ。健吾たちと仲違いしようとも、逃がすつもりはない」
最後に健吾たちの目を見ながらそう言い切る。
黙ってうなづく者、下を向いて落胆する者、反応は様々だったが反論できるヤツはひとりもいなかった――。
『おまえの仲間がツノ族になっても同じことができるのか?』
そう聞かれたらどうしようかと、俺は内心焦っていた。
それから20分は経っただろうか。外にいるツノ族たちの表情は疲労感に満ちている。防壁を打ち鳴らす音も、ずいぶんとまばらだ。
途中で諦めるなり、出入り口から攻めてくるなり、なんらかの変化があると思ったが……ヤツらは同じ行動を繰り返すだけ。そろそろ頃合いだと判断して、ひとりも討ち漏らすことなく事を終えた。
最終的に捕獲したのは、ツノ族化した洋介と、純粋なツノ族の男1名。すでに捕まえたヤツらと一緒に、住居の一室で監視することになった。
◇◇現時点における集落の人口と内訳◇◇
<総人口:79名>
<ニホ族:61名>
男性21名 女性20名 子ども20名
<日本人:18人>
男性7名 女性11名(秋文たち含む)
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