第45話 探索の完了と大猿対策
ムンドの集落を訪れたあと、さらに2日をかけて東の探索を終えた。
これで地図の開放はすべて完了、周囲10kmの範囲は丸見えの状態となった。ツノ族の襲撃も早期に発見できるし、ほかの日本人に先手を打たれることもない。
そんな今日は一日休みをいれて、近辺の情報整理をする予定だ。朝食を済ませてすぐ、自分たちの家にもどって資料をまとめていく。
<周囲の地形と特徴>
『北方面』
・地形のほとんどを森が占めるも、木々の密度はそれほどでもない。
・歩いて2時間の距離にアモンの元集落がある(約8km)
・生息するモドキはアルマジロや馬など多種多様。ほかの方角に比べて最も種類が多い。ハイエナを見つけたのも北側の一度のみ。
・北へ10km進んだ先も、幅8m・水深70cmほどの川が続いている。
『南方面』
・川沿いを10分も歩けば海がある。森の密度は穏やかで、かなりの速度で走り抜けることも可能。
・海は魚介類が豊富で、塩の採取場所として利用している。
・生息するモドキは兎と鹿がほとんどを占める。が、数は多くない。
・いまのところ、海中でモドキを見たことは一度もない。
『東方面』
・地形の大半は森が占める。木々の密度はかなり濃く、全速力で走り抜けることは難しい。
・ジエンの集落から歩いて1時間の距離に竹林地帯を発見。種類は日本のものと大して変わりない。
・歩いて3時間、ジエンの集落から真東の位置にムンドの集落がある。人口は32人、男女比は半々で子どもは8人。見た目や身長はジエンたちと同じくらいだった。
『西方面』
・森の密度はそれなりで、走ることも可能。西へ向かうにつれて木々はまばらになっていく。
・歩いて3時間程度の距離に健吾たち日本人集団の拠点(洞窟)がある。
・総人口は18人、成人男性10人と成人女性が8人の構成。年齢層は20代~40代で、子どもや老人はひとりもいない。
・すでに防壁は完成しており、数日前、健吾や洋介を含めた5人が集落に訪れている。残念ながら、未だにハイエナは発見できていない。
「――っと、概ねこんなところか?」
「ですね。あとは共通事項がいくつか、という感じでしょう」
小春はそう言いながら、自分がまとめた用紙を差し出してくる。彼女のメモには、周辺にいる動物や食材のことが書かれていた。
通常の動物のほか、果実や木の実などは全域で採取可能。木の種類は多種多様ながら、地域による偏りはほとんど無いようだ。
それと大猿や森の主は、南以外で数体見つけている。もしかすると同じ個体かもしれないが、大猿は全部で6体、森の主は2体確認した。
「ところでお兄さん。モドキ肉の効果って次で最後だけど……新種を見つけ次第食べちゃうつもりなの?」
「ああ、そのことなんだけどさ」
これまでの検証から推測すると、最大で7種類までの能力を得られるはず。あるいはもっとイケるかもしれないが……ひとまずその可能性は置いておこう。
現在、俺たちが取得した能力はハイエナをのぞいて6種類。すなわち、残り1種類の効果しか得られないことになる。新種を見つけて試すのもいいが、いまはどうしても食べてみたい肉があった。
「どうせなら大猿で試したいと思ってるんだ」
「あー、それはアリかも。あの見た目だし、相当すごい能力がありそう」
「筋力や耐久力、跳躍力なんかも上がりそうだよねー」
夏歩や冬加の言うとおり、ほかのモドキとは一線を画す効果があるだろう。もしかすると、複数の効果を一気に入手できるかもしれない。
「新種もなかなか見つからないし、最後の1つは大猿用に残しておこう」
「わたしもそれが良いと思います。新種の肉は保存しといて、大猿のあとに食べてみればいいですもんね」
みんなが納得したところで、話題が大猿狩りのことに――。冬加が身を乗り出して話しだした。
「ねえ、おじさん。大猿討伐のことって、ジエンさんたちにも話してあるんでしょ?」
「ああ、彼らの協力も取り付けてある。男たちは全員手伝ってくれる」
「そっか、それで勝算は?」
正直なところ、今の戦力ならイケると思っている。
俺が最初の標的になり、耐えているうちにほかの連中が――と、極めて単純な戦いを挑む予定だ。
落とし穴とか、縄で拘束する案も出たが、あまり効果があるとは思えない。しっかりと地上で迎え撃つのが一番安全で事故が少ないだろう。
これは慢心なのかもしれないが……、自分が捕まって死ぬという未来は想像できなかった。
「もしお兄さんがやられたら……次は私が受け持つからね」
「ああ、夏歩の順番が来ないように死ぬ気で頑張るよ」
仮に俺がやられたときは、次の標的は夏歩に、それでもダメなら小春、冬加の順で引き受けることを決めている。彼女らも相当な自信がついたようで、臆することなく決断していた。
「とにかく訓練を続けよう。帰還までの日数も変化してないし、慌てて狩る必要はない」
「はい、できるだけ万全の状態で挑みましょう」
こうして俺たちは、次の目標に向けて本格的に動き出していた。
その日の午後――。
暇を持て余していた俺たち4人は、ニホ族の男たちに混じって戦闘訓練をはじめていた。
ぶっちゃけ休みにしたところで、とくにやることがない。むしろボケッとしているほうが落ち着かないまである。外から聞こえてくる男たちの掛け声を聞くと、体がウズウズしてくる始末だった。
「カホ、今度はオレとやろうぜ! もちろん手加減なしだぞ!」
「おっけー! 今日もボコボコにしちゃうからね!」
俺が小春と冬加を相手にしている隣で、エドと夏歩がいつもの煽り合いをはじめる。
手加減なしというのも比喩ではなく、かなり本気の殴り合いを毎日繰り返していた。
お互い急所こそ避けているが、こん棒を使用したガチバトルだ。もしアルマジロの効果がなかったら、骨の2~3本は平気で折れているだろう。
「よそ見してると危ないです、よっ!」
夏歩たちに目を向けた隙を狙って、俺の正面にいた小春がこん棒を突き出す。と、それに合わせて冬加も襲い掛かってくる。
俺は素早く後ろに下がり、ギリギリで攻撃を回避。なおも攻め続けてくるふたりを相手に、できるだけ短い移動距離でこん棒をいなしていく。
「おじさん! そんなんじゃ捕まっちゃうよ!」
今やっているのは、対大猿用の回避訓練だ。4本腕の攻撃を想定して、ふたり同時に相手をしている。極力その場を動かず、相手を正面に固定するような動きを意識する。
とにかく大猿に捕まらないこと。そしてほかの連中を巻き込まないこと。標的の俺が耐えれば耐えるほど、狩りの成功率は上がるはずだ。
それから1時間、誰からともなく休憩を取り始めた頃、地図の変化に気づいた小春が声を掛けてくる。
「先輩、ムンドさんたちがこっちへ向かっているみたいですよ?」
「おっ、マジか。思ったより早く来たんだな」
小春の地図をのぞき込むと――、
東の森方面、ここから約4kmの距離に12個の黄色い点が表示されていた。
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