第43話 ニホ族の強化
縄文時代にきてからちょうど40日目
あれから1週間――
ジエンの集落を中心として、南側の海辺、西にある健吾たちの洞穴、北にあるアモンたちの集落と、10km範囲の地図を開放。残すは東側の探索だけとなっていた。
残念なことに新種は発見できなかったが、既存のモドキを見つけて狩りにも成功。あえて一撃では仕留めず、乱戦に持ち込んで戦闘経験を積んでいる。
ちなみに、この世界では希少種なのか、ハイエナだけは1匹も見つけられなかった。
そんな今日はあいにくの雨模様、探索は中止にして休息をとることに。俺たちは族長宅に招かれて、ジエンやアモンたちと一緒に昼食をいただいていた。
「ナギさん、あれから体調はどう?」
「まったく問題ないわ。むしろ以前よりも良くなったくらいよ」
「そうか。ほかのみんなも平気そうだし……ホント、上手くいって良かったよ」
この1週間のうちに、ジエンたちニホ族の強化もひととおり済ませている。ある程度予想はしていたが、誰ひとりとしてツノ族化することはなかった。すでに子ども以外の全員が『2つ』の能力を獲得している。
「先輩、はいコレ。昨日までの結果をまとめておきました」
「おっ、そりゃありがたい。折角だし、みんなで確認しとこうか」
小春が渡してくれたメモには、ニホ族たちの検証結果が丁寧にまとめられている。それをひとつずつ読み上げて、ジエンたちにも再確認してもらう。
<ニホ族の能力取得について>
1.日本人とは違って、ハイエナ肉を食べる前は、どのモドキを食べても無影響。身体に異常は見当たらないが、能力も発現しなかった。
2.ハイエナ肉を食べた場合、その後に食べた2つの能力を取得可能。3つ目以降はいくら食べても無駄だった。
3.獲得した能力の度合いは俺たちと同等、人外の力が身につくわけではない。よほど感情的にならない限り、日常生活においても上手く制御できている。
4.ニホ族が得た能力は様々で、最も多いのは『猪とアルマジロ』、それに次いで『馬と狼』『馬とアルマジロ』の組み合わせが大半を占めた。
ここからは推測となるが……本来、ニホ族は能力を得られる肉体構造ではなかった。それがハイエナ肉を食べたことで「体が作り替えられたのでは?」と考えている。
一方、俺たちの場合は、最初の世界に転移した時点で、肉体が変質したのではないだろうか。視力もはじめから上がっていたし、ナニカをいじくられた可能性が高そうだ。
「現状わかっているのはこんなところだな。ジエンたちもわかってると思うが、モドキの内臓だけは食べないでくれよ」
「ああ、どのみちこれ以上食べても意味はないのだろう? 無理してモドキを狩る必要もあるまい」
「まあそうだけど、とにかくみんなにも徹底させてほしい。強くなったジエンたちがツノ族になったら対処できんぞ」
「任せろアキフミ、必ず守ると約束しよう」
ジエンは真剣な顔つきだったが、それでも一抹の不安がよぎる。なにせこの男、モドキを勝手に食べた前科持ちなのだ。
(あとでナギさんからもキツく言ってもらおう……)
話が一区切りしたところで、入り口のほうからビチャビチャと足音が聞こえてくる。
どうやら誰かが駆け寄ってきたようで――、入り口から顔をのぞかせたのはエドだった。手には極太のこん棒を握っており、そのままズカズカと進んで俺の隣に座った。彼は満面の笑みを浮かべてご満悦の様子。ひとまず緊急の案件ではないだろう。
「アキフミ、どうだコレ! おまえのより太くて固いだろ!」
「お? おお……いいんじゃないか?」
自慢げにこん棒を披露するエドは、完成した武器を使いたくて、狩りのお誘いにきたらしい。
実は最近、集落の男たちの間で、空前のこん棒ブームが巻き起こっていた。自分たちの筋力が上がったこと、そして俺たちの訓練に興味を持ったこと。この2つがキッカケとなって、誰からともなく作り始めている。
「すまんエド、明日は東の探索をする予定なんだ。もうしばらく待ってくれよ」
「っ、ならオレも連れてってくれ! ジエンもそれでいいだろ?」
「……まあいいだろう、許可しよう」
東側には別の集落があるらしく、明日はジエンと一緒に訪問しようと考えていた。たしかに戦力は多いほうが助かるし、族長の許可があるなら拒否する理由もない。
結局この日は雨が降り続き、俺は男たちに混じって、こん棒づくりに精を出して過ごした。
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