第42話 能力の取得上限
それから30分ほど経ったころ、ようやく洋介が戻ってきた。
両手に持った木の板には、結構な量の焼き肉が盛られている。俺たちが渡した量よりも明らかに多い。
「健吾、とりあえず全部焼いてきたぞ。こっちから順番に、アルマジロ、馬、狼、猪、兎、鹿だ」
「おー、悪いな。助かるよ」
どうやらハイエナだけじゃなく、保管しておいたほかの肉も持って来たらしい。ずいぶん時間がかかると思ったが……なるほど、一気に試そうというわけか。
「なあ秋文、おまえならどれを食う? 優先順位を聞かせてくれ」
「んー、優先順位か……」
現在、健吾が持つ能力は兎と鹿、それに猪の3つだ。これに加えるとしたら――。
「能力がいくつ増えるかにもよるが……まず優先すべきはアルマジロだろう。次に狼、馬、猪の順番だな」
「そうか、じゃあそれにしよう」
俺の意見に悩むことなく、健吾はいとも簡単に決めてしまう。悪くない選択だと思うが、責任は持てないとだけ付け加えておいた。
その後はハイエナ肉を筆頭に、1種類ずつ食べては検証を繰り返す健吾。次第に人が集まってきて、ついには全員で見守ることに。次々に成果を出す健吾を見て、日本人たちは色めきだって様子を伺う。
「おい秋文、こりゃスゲーわ。おまえたちのおかげでずいぶん希望が見えてきたぞ」
「そうだな、俺たちもいろいろ知れて助かったよ」
検証の結果、健吾はアルマジロと狼の能力を取得、ただし3番目に食べた馬モドキの効果は現れなかった。
また、前の世界で食べたことのある猪に加え、兎と鹿モドキの効果がさらに向上していた。
現時点で判明したことをメモにまとめて、この場にいる全員で確認していく。
まず、ハイエナ肉を食べてない状態で獲得できる能力は3つまで。これは昨日の時点で確定していることだ。それがハイエナ肉を食べることで獲得上限が2つ上昇、計5つの能力を取得可能となった。
「でも秋文、おまえたちは6種類の能力を持ってるんだろ?」
「ああ、俺たちは前の世界でもハイエナを食べたからな。たぶんそれが影響してるんだと思うぞ」
俺たち4人は前回と今回の両方でハイエナ肉を食べている。初期の上限3つに加え、前の世界で2つ、この世界で2つ、両方合わせると7種類まで能力を得られるのだろう。
現在、ハイエナをのぞいて6種類の能力を所持しているので、残りは1つだけということになる。
「なるほど、無理してでも狩っとくべきだったか……」
「いや、それで死んだら意味がないだろう」
「まあそうなんだが……最悪、死んでも生き返れたんだろ? だったら無茶するのもありだと思ってな」
「それはどうだろうな。案外、死んだヤツらの能力はリセットされてるかも知れんぞ?」
死亡したときのリスクが皆無、なんてことがあるのだろうか。なんらかの弊害がでているような気がしている。
「うわっ、それマジかよ?」
「いやすまん、今のは適当に言っただけだ。何の根拠もない話だ」
「……そうか、まあ死を体験したいとは思わん。話を続けてくれ」
次の考察は前の世界で取得した能力についてだ。
前回の世界で得た能力は、この世界でもう一度食べれば、能力がさらに向上する。ただし、この世界で初めて得た能力は、その後、何度食べても変化しなかった。
「1つの世界で1度きりってわけだな」
「だと思う。俺たちも何度か試したが、能力が上がったのは初回の一度きりだったよ」
ちなみに、2段階目の能力向上は効果が薄い傾向にある。俺たちもそうだったが、健吾にも劇的な効果は現れなかった。
「なんにしても、どの肉を食べるかは吟味が必要だな」
「のわりに、健吾はアッサリ決めてたじゃないか。今さらだけど、ほんとにアレで良かったのか?」
「むろんだ。おまえが選んだなら間違いないだろ?」
「おい、さっきも言ったが責任は持てんぞ。何を食うかは自分たちで決めてくれよ」
「わかってるって。本人の意思を尊重するつもりだ」
モドキ肉の考察を終えたあとも、ハイエナ狩りへの協力や、ニホ族のことを中心に交流を深めていった――。
◇◇◇
その日の夕方、集落に戻った俺たちは、族長宅に集まって囲炉裏を囲む。いまはアモンとナギを交えて、今日の経緯を伝えているところだ。
「ナギさん、ってわけでよろしく頼むよ」
「わかったわ。笛の音が合図ってことね」
「ああ、集落が見えたら必ず鳴らすように伝えてある」
健吾たちにはニホ族の笛を渡しておいた。防壁の建設が終わったら、挨拶がてらにここへ来る約束をしている。
「あとコレも頼むよ。明日の朝にでも試してみるつもりだ」
俺はリュックから、何種類かのモドキ肉を取り出してナギに手渡す。
「ねえ、これって……全部モドキ肉なの? 今日だけでこんなに狩って来たってこと?」
「いや、ハイエナ肉のお礼に少し分けてもらったんだ。種類が多いから間違えないように仕舞ってくれ」
「なるほどそういうことね。お父さん、明日は私も立ち会うから、ね?」
ナギはジエンを一瞥したあと、き然とした態度で肉を受け取る。勝手に食べたジエンにはご立腹みたいだが……集落のみんなが、そして自分が強くなることに異論はないようだ。
「それじゃあみんな、明日からは探索を進めるぞ」
「「りょーかい!」」
地図の索敵範囲を限界まで広げること。
実戦経験を積んで少しでも鍛えること。
ニホ族用のモドキ肉を確保すること。
この3つを主題に置きつつ、ニホ族たちの強化を開始する。
現時点での食歴(縄文時代33日目)
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『秋文』『小春』『夏歩』
鹿1 兎2 猪2 馬2 狼1
アルマジロ2 ハイエナ2
『冬加』
鹿1 兎2 猪1 馬1 狼1
アルマジロ1 ハイエナ2
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※名称となりの数値は強化回数を示す
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