第38話 日本人の集団


 翌朝、俺たち4人は夜明けと共に出発した。


 ここから西にある目的地は、歩けば3時間半、森の中を走れば1時間程度の距離にある。――が、集落の場所を特定させないため、まずは北へ迂回しながら川沿いを進む。


「ねえ夏歩、アンタ原始人みたいだね」

「それはお互い様でしょ、冬加も結構ヤバいよ」


 こん棒を担いで疾走する集団。


 服装こそ違えど、原始人と勘違いされてもおかしくない。この世界に来て1か月、衣服もかなり薄汚れており、蛮族っぽさを余計に演出している。


「おいふたりとも、喋ってると舌を噛むぞ」

「はーい」「ごめーん」


 おそらく人類最速の状態で走っているはず。余計な怪我をしないように黙々とひた走る。


 アモンたちがいた集落を経由してしばらく、いよいよ目的地が地図に写りこむ。


「18人……? 以前より5人増えてます」

「あのときは狩りにでも行ってたのかな?」

「まさか増援だったりして」


 増えた理由は不明ながらも、この時間なら出かける前だろうし、この18人が最大数だと思われる。今はすべての点が固まっており、その場を微動だにしてなかった。


「ここからは歩きですね」

「ああ。打ち合わせどおり、相手が向かってきたら逃げるぞ」

「「りょうかい!」」



◇◇◇


 地図を片手に歩くこと2時間、


 ようやく森を抜けたところまでたどり着く。目的地は目前だが……誰ひとりとして近づいてくる気配はなかった。途中で点が動き出すもその数は2つだけ、集団とは大して離れていない。


 木の陰に隠れて様子をうかがう4人。目の前には土の広場があり、その奥は一面の絶壁がそびえている。岩肌がむき出しの一画には大きな洞穴が口を開けていた。


「なるほど、洞窟に住んでたのか。どおりで建物がないはずだ」

「地図を見る限り、ほとんどはあの中にいるみたいです」


 いまは日本人の男2人が広場にいて、たき火に薪をくべている。のんきにアクビをしながらボケっとしていた。さっきまでは全員奥にいたので、夜の見張りは立てていないようだ。


 誰かが地図を見ているかもしれない。いつまでも隠れていては怪しまれるので広場に踏み込む。


「よし行くぞ」


 わざと音を立てながら、4人揃って男たちのほうへ向かう。


 と、目の前のふたりは警戒もせずに近づいてきた。とくに慌てる素振りはなく、ふたりとも自然な笑顔を振りまいている。どう考えても怪しい。


「突然訪れて申しわけない。……っていうか気づいてたよな?」

「ああ、ちょっと前からな」


 そう答えた男は30代くらいに見える。ガタイがよくて身長も俺より高い。男らしい顔つきで、どことなく頼りがいのある風貌をしていた。


「んじゃ健吾けんご、みんなを呼んでくるわ」

「おう頼むわ。洋介ようすけ、武器は持ってくるなよ」

「ああ、わかってるって」


 洋介と呼ばれた男は、ゆっくりと歩きながら洞窟に戻っていく。


「っと、おれは奈月健吾なつきけんご、健吾と呼んでくれ。ここのみんなにはそう呼ばれてる」

縄城なわしろ秋文だ、俺も秋文あきふみで頼む」

「秋文っていうのか。とにかくよく来てくれた、歓迎するよ」


 俺たち4人を相手に、ひとり残った男はなおも平然としている。嘘か真か、歓迎の言葉まで添えていた。相手の力量はさておき、まずは今日の目的を告げる。


「突然現れて怪しいだろうが俺たちに敵意はない。ここへは情報交換のためにやってきたんだ」

「そうか、みんなが来るまでちょっと待ってくれ。こっちの人数は把握してるんだろ?」

「ああ、知ってる」


 それから少しだけ沈黙が続いたあと、健吾は俺の目を見据えて口を開く。


「……ところで秋文、おまえ相当な場数を踏んでるだろ?」


 俺の何を見てそう思ったのか、健吾は少しだけいぶかしんで言った。さっそくの心理戦なのか、それとも単純にそう感じたのか。未だに伺い知ることはできない。


「それは健吾のほうだろ。なんていうか、頼れる感じがするわ」

「そうか? 秋文ほどじゃないと思うが……」


 俺も適当な感想を語ったところで、ようやく小春たちが自己紹介をはじめる。相変わらず健吾の態度は自然そのもの、終始明るい表情を見せていた。


(裏があるようには見えないが……)



 そうこうしているうちに、洞窟の中からゾロゾロと集団が出てくる。男が9人と女が8人、パッと見20代から40代がほとんどで、中高生の姿はないようだ。


 みんなが俺たちに注目をしている……が、敵意があるようには感じない。健吾の宣言どおり、全員手ぶらのまま近寄ってきた。


「秋文、警戒するのはわかるけど……そろそろソレを手放してくれないか? できれば友好的にいきたい」


 健吾はこん棒に目を落としてクスっと苦笑い、すぐに背中を見せて歩きだす。


 向かう先には丸太の椅子とテーブルがあり、そこにドシッと腰を下ろした。すでにほかの男たちも移動をはじめている。


「小春、夏歩、冬加」

「っ、わかりました。わたしたちは女性たちと話してきますね」


 俺は3人の名前を呼んだあと、男たちのほうへと向かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る