第32話 アモンたちの合流
そんな話をしていると、いい感じに肉も焼けてきた。
ひと口味見をしてみるが、舌にも体にも異常は見られない。俺が何枚か食べたところで、ほかのみんなも手を付けだした。
「ん-! イノシシは初めてだけど、今までで一番おいしいかも!」
冬加が前の世界で食べたのは、兎と鹿、それにハイエナの3種類。ハイエナは原始人が残していったものを食べていた。北のほうにアルマジロはおらず、イノシシはサイズがデカくて狩れなかったらしい。
「私はやっぱり馬モドキが一番かなー。たしか小春さんはアルマジロがお気に入りだっけ?」
「うん、あのコリコリ感がクセになるんだよね!」
夏歩は馬肉が、小春はアルマジロ肉が好きみたいだ。ちなみに言うと、俺の一押しはハイエナだ。なんていうか、食べた後の満足感がほかとは段違いだった。
肉を完食したあとは、河原にある大き目の石を持ち上げて検証に入る。――と、食べる前より重さを感じない。見違えるほどの変化はないが、たしかに筋力が上がっている。
唯一、冬加の変化だけは顕著で、頭の2倍くらいある石を持ち上げ、軽々と放り投げていた。おそらくは初めて食べたからだろう。本人も劇的な効果に驚いている。
食べれば食べるほど強化されるのか。それともこの世界で最初の1回だけなのか。今後も検証していく必要がありそうだ。
◇◇◇
それから3日後――、
朝飯の支度をはじめたところで、アモンたち一族が姿を現す。川で水を汲んでいた俺は、すぐに駆け寄って声をかけた。
「アモンおはよう、ずいぶんと早いじゃないか」
「おお、アキフミか。なにせみんなが急かすもんでな」
アモンの背後には19人のニホ族がいて、誰ひとり欠けることなく、みんな元気そうにしていた。全員が大荷物を抱え、土器やカゴの中には、麻布やら道具やらが溢れんばかりに詰め込まれている。
どうやら朝食もまだだったようで、この場にはアモンだけが残り、ほかのみんなは集落へと入っていった。
「なあアキフミ、トウカは元気にしてるのか?」
「ああ、元気だぞ。友人に会えて喜んでるよ」
「そうか。なんだかんだで、あいつらと別れてよかったな……」
意味深なセリフを耳にして、思わず事情を聴いてみると――。
冬加はもうひとりの女と仲が悪く、いつも別行動をとっていた。男たちは女のいいなりで、昼も夜もずっと一緒だったらしい。冬加は必要以上の接触は避け、夜も別々に寝ていたようだ。
「なるほど、なんとなく想像がつくよ」
「オレにはよくわからんが、いまが元気ならそれでいい」
胸糞展開ではないようだが、なんらかのトラブルはあったんだろう。ひとまず本人が言い出すまでは保留にしておく。
「アキフミ、今日からよろしく頼む」
「もちろんだとも。仲良くしてくれると嬉しいよ」
集落に戻ったあとは、2つの部族を交えた朝食がはじまる。
ニホ族の数が一気に増えて、今まで広く見えていた煮炊き場が手狭に感じる。そのぶん賑やかになり、戦力的な意味での安心感も増していた。
===============
<ニホ族の集落>総人口:50名
成人男性:19名
成人女性:19名
子ども :12名
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朝食後、いままでの防壁建設に加えて、アモンたちの住居づくりがはじまる。
差し当たっては竪穴式住居を4つ建て、敷地が広がる分を見越して防壁を延長。すぐ隣にある川に並行して、長方形の砦が出来上がる寸法だ。
ニホ族たちが一斉に動き出すなか、俺たち4人は移動の準備を整えていた。アモンから有用な情報を得て、急遽、狩りに出かけることになったのだ。
「ジエン、手伝えなくて申し訳ない」
「こっちは大丈夫だ。アキフミは狩りを優先しろ。おまえたちが強くなれば、そのぶん集落も安全になるんだ」
「そう言ってくれると助かる。遠慮なく行かせてもらうよ」
アモンに聞いたの話によると、自分たちがいた集落の周辺にアルマジロがいるらしい。それを聞いた俺たちは、すぐ族長に相談して狩りの許可をもらっていた。
冬加はまだアルマジロを食べてないし、自分たちもさらに強化したい。とくに防御力に関しては、何をさしおいても優先させたい能力だった。
「それじゃあ行ってくるよ」
「ああ、森の主と大猿には気をつけろ」
「むろんだ。アレに手を出すつもりはない」
俺たち4人は武器をたずさえ、川沿いをのぼっていった。
◇◇◇
アモンの集落まであと少し。
そろそろ到着というところで、森の切れ目にモドキを発見。兎を襲っている2匹のハイエナを見つけた。これまで探索を続けていたが、この世界でハイエナを見るのは初めてだ。当初の獲物とは違うがここで逃す手はない。
「俺が手前のをやる。夏歩は奥のを、小春と冬加は周囲の警戒を頼む」
「任せておじさん!」「了解です!」
兎が捕まった瞬間を見計らってこん棒を振り下ろす。と同時に、もう1匹のハイエナは、串刺しにされて地面に叩きつけられる。夏歩にためらいはなく、横たわったハイエナに向けて何度も槍を突き込んでいた。
「小春、この場で解体を頼めるか?」
「もちろんです。4人分あればじゅうぶんですよね?」
「ああ、食べきれる量だけにしよう。残りは放置でいい」
どのみち集落には持ち帰れないし、できればいろんな種類を狩りたい。川に流すとヤバそうなので、残りは放置することに。小春に解体をお願いして、見張り役を交代する。
「じゃあ冬加ちゃん、こっちにきて一緒にやろう」
「小春ねえさん、おねがいします!」
小春はすぐに解体をはじめ、となりに冬加をおいて手順の解説をしている。冬加は結構な度胸があるようで、「グロいグロい」と言いながらも手を動かしていた。その様子を見つつ、俺も夏歩と二人で周囲の警戒を続ける。
「にしても、夏歩は相変わらず容赦ないな」
「獲物が死んでなかったら怖いし? 油断するのが一番ダメでしょ」
「だな。俺も見習わないとだわ」
身体能力が上がり、モドキやツノ族とも戦えるようになった。それでも死なない保証はないし、大怪我を負えば致命傷となる。夏歩のように、少し過剰なくらいでちょうどいいのだろう。
「ところでお兄さん、モドキの強さは前と同じなのかな?」
「たぶん? 大した違いは感じなかったけど……夏歩はどうだ?」
「んー、手ごたえは一緒だったような? よくわかんないかも」
イノシシもハイエナも、一撃必殺だったせいで強さがわからない。かと言って乱戦に持ち込むのも悪手だし、いまは戦闘経験よりも安全を第一に行動すべきだろう。
解体は10分程度でおわり、移動を再開して集落を目指す。先にアルマジロを探してから、集落を借りて食事にするつもりだ。
アモンの情報によると川沿いにいることが多く――。っと、さっそく当たりをひいたらしい。少し川をのぼったところに、目標の獲物を発見する。
今度は小春と冬加が狩りを担当。夏歩が補助をしながら、俺は周囲の警戒に徹した。川幅がけっこうあるので、以前のような水攻めは使えそうにない。小春が槍でひっくり返して、ふたりがかりでめった刺しにした――。
「可食部分は減りましたが……わたしにもやれました!」
小春は獲物を掲げながら、狩りの達成感に満たされている。かなり積極的に攻めていて、怖がる素振りもまったく見せなかった。
「ねえ、この子見た目エグくない? 足がウジャウジャしてキモいんだけど……」
「冬加ちゃん、この足が美味しいんだよ?」
「マジで? アタシは違う部分を食べよっかな……」
冬加はキモがっているが、狩りの最中は平然として見えた。前の世界でも経験してるし、ある程度は慣れているんだと思う。今日のメインを狩ったところで、俺たちはアモンの集落へと向かった。
到着してすぐ火を起こし、かまどを借りて肉を焼いていく。味付けは塩だけだったが、どれも柔らかくて旨い。モドキの強さは不確かながら、肉の味は確実に進化しているようだ。
検証の結果、跳躍力が少し上がり、身体の硬度も増したように思える。皮膚の柔らかさは変わりなく、弾力性が上がっているような……石の槍を刺してもキズはつかなかった。
それと確かなことは言えないが……モドキを喰っても平気なのは、ハイエナ効果のおかげだと推測している。
「さあ、食い終わったら次に行くぞ」
「おじさんマジ? もうちょっとだけ休憩しない?」
「冬加は欲張って食べ過ぎ! 量は関係ないって言ったでしょ……」
腹をさすってヘタり込む冬加。そんな彼女を眺めつつ、移動の前に地図を広げたときだった――。
森のほうからカサカサと、かすかな音が聞こえてくる。
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