第28話 大猿と巨大熊


 あれから1週間、


 本格的な防壁づくりと並行して、周辺状況の確認も順調に進んでいた。

 

 初日の事件以降は平穏な日々が続き、ツノ族が襲ってくることもなかった。日々の狩りにも同行したが、今のところは一度たりとも遭遇していない。


 周囲の探索をしたおかげで、地図にも変化が起きている。進化値こそ上がってないが、集落を中心として3kmの範囲は見えるようになっていた。地図に写っている場所に日本人はおらず、俺たちとニホ族しか表示されていない。


 それと周辺にいる生き物だが、これもある程度のことは把握している。まだ一度も狩ってないので強さはわからないが、種類や特徴についてはまとめてある。


 現在判明している獣は以下のとおりだ。


===================

<動物の種類>

兎、鹿、猪、馬、牛、狸、狐、犬、猿、豚

熊、キジなどの鳥類、爬虫類etc


<モドキの種類>

『小型』兎

『中型』イノシシ、オオカミ

『大型』大猿、巨大熊

===================


 動物の特徴は地球とほぼ同じ。人間にも反応するし、動物同士の争いも発生する。

 一方モドキは、この世界でも無反応を貫いている。手を出せば襲ってくるだろうけど……一部を除いて、いくら近づいても気づかなかった。


 動物とモドキの関係は微妙で、お互い無反応なときがあったり、そうでない場合もある。それがなぜなのか、ニホ族の男たちも知らないようだ。


 これまでに見つけたモドキは全部で5種類。兎とイノシシのほかにオオカミを発見。さらに大猿と巨大熊を一度だけ見かけたんだが……これが圧巻の一言、あまりの迫力に近づくことすらできなかった。


 大猿はマントヒヒに近い姿で、体毛は金色、背丈は2mを優に超えている。しかも腕が4本も生えており、とてつもない強者感を醸し出していた。

 全身が筋肉の鎧で覆われ、おそらく石の槍程度では歯が立ちそうにない。


 そして熊に関してはもっとヤバい。見た目こそ普通の熊なんだが……とくかくサイズが半端ない。四つ足状態でも俺の背丈を優に超え、立ち上がると5m以上になった。


 一緒にいたニホ族の男たちは、その熊のことを『森の主』と呼んでいる。過去に2回、熊と大猿が争っているところを目撃したらしい。


 周囲の木はことごとくなぎ倒され、森がぐちゃぐちゃになるまで暴れていたんだと。「絶対に手を出すな」と、何度も何度も厳命されてしまった。


 もちろん倒すのは不可能だし、あの2匹の存在は忘れることに――。ほかの種類に狙いを定めて検証しようと思っている。




◇◇◇


 そんなこんながありつつも、今日も防壁づくりが始まった。


 引き続き伐採をする班、木材の長さを揃えて加工する班、そして基礎用の穴を掘る班。それぞれ7名ずつに分かれての並行作業を開始する。


「だいぶ木材が揃いましたね」

「そうだな。あと3日もあればなんとかなりそうだ」

「わたしたちも加工に回りますか?」

「いや、俺たちは木材の設置だ。基礎の穴掘りも進んできたし、そろそろ頃合いだろう」

「たしかに、少しでも早く安心したいですしね」


 1日に伐採する量は30本前後。すでに150本が集まっており、伐採作業の目途は立っていた。


「ひとまず午前中は加工に回ってくれ。設置は昼からにするよ」

「わかりました! あとで夏歩ちゃんにも伝えておきますね」


 夏歩は初日から今日まで、黙々と木こりをしていた。木を打ち付ける感覚が気に入ったのと、自身の筋力アップが目的らしい。

 どうやら元々の筋力が高いほど、イノシシ効果の影響が強いみたいだ。3人で力比べをしたら、俺だけ群を抜いて違いがあった。



 俺が担当する穴掘り現場へ向かうと、エドたち数名がもの凄い勢いで掘っていた。さっきはじめたばかりだが、もう数メートルは進んでいる。


「エド、今日も調子よさそうだな」

「おお、コレのおかげで順調だぞ!」


 彼が掲げているのは木製のスコップだ。ほかにもツルハシもどきを用意している。


 適当に作ってみたけど、思いのほか効果があり、深さも70cmくらいまで掘れている。どちらかといえばマンパワーのおかげっぽいが……順調に進んでいるなら問題ない。


「あまり急ぐと後が続かないぞ」

「大丈夫だ! まだまだやれる!」


 彼らにペース配分なんて考えはない。全力で掘り、疲れたら休む。それを繰り返しながら働き続けていた。なにかのモドキ肉を食ったんじゃないか? そう思えるほど底なしのスタミナを持っている。



 やがて昼が過ぎ――、


 いよいよ建込作業を開始。小春と夏歩の3人で、まずは森に面した場所を攻めていく。


「よいしょ、っと!」


 小春が穴に向かって大木を突き下ろすと、ズドンッと鈍い音がして軽く地面が揺れる。それを見ていたエドたちは、呆気にとられた表情で口をパクパクとさせていた。


 長さ4m、太さは20cmもある巨木。多少無理をしているとはいえ、このサイズの木材をひとりで扱っているのだ。これで驚かないほうがおかしい。


「先輩、何回突き込めばいいですか?」

「けっこう深く掘ってくれてるし、適当でいいんじゃないか?」

「了解です!」


 再び木を持ち上げ、ドンドンとつき下ろす小春。鹿肉の効果も加わり、足元がフラつくこともなかった。


「よし、今度は私の番ね!」


 順番待ちをしていた夏歩も、それに負けじと対抗。地面を何度も揺らしてエドたちを驚かせていた。


 ――が、少々やり過ぎたらしい。


「カホ、ちょっと待てくれよ。こっちの穴が崩れてきた……」

「あっ、エドごめん!」


 せっかく掘った穴が崩れて男たちは苦笑い。小春と夏歩は自然な笑みをこぼしていた。


 作業はなごやかな雰囲気で進み、少しずつ防壁の片鱗が見えてくる。



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