第16話 石の槍とハイエナ
翌日、朝食を食べながら今日の予定を話し合う。
まずは武器となる石槍を作り、進化値の獲得を目指すことに決まる。のちの狩りでも利用するので、少しでも威力の高い武器を作りたいところだ。
さっそく動き出した俺たちは、昨日見つけた石場に移動する。少し川をさかのぼった所に、手ごろな場所を見つけていた。
小春がツルを集め、夏歩は槍の柄に合いそうな木を切っていく。お互いが見える距離で作業を行い、俺も槍の矛先を作るために河原で石を集めた。
この世界に火山はないのか、黒曜石らしきものは見つからず、そこそこ強度のありそうな石を拾っていく。それを手当たり次第に割っていくのだが……。
たまに良さげなものが出来たり、破壊衝動が満たされたりと、これが意外と気持ちいい。
(なんか知らんけど、結構ハマるなコレ……)
つい夢中になり、一番カタチの良さそうな石を眺めていると、ツルの束を担いだ
「先輩、ずいぶんと楽しそう。って、もの凄い数ですね……」
「あれ? もう集め終わったのか?」
知らない間に1時間以上経っていたらしい。俺の周りには無数の破片が転がっていた。と、ちょうど
木の先端をナイフで割り、隙間に石を挟み込んだあと、ツルを巻きながら締めつけていく。実に簡素なつくりだけれど、木の槍よりかは格段にレベルアップしている。
何度か生木を突いてみるが――刃先が欠けたり、柄が折れることはなかった。これなら武器としてじゅうぶん使えそうだ。
「あっ、お兄さん地図地図! 進化値が上がってるよ!」
地図を見ていた夏歩が変化に気づく。武器の完成と共に進化値が3に増加。今までにあった点に加え、新たに黄色の点が追加されていた。
ざっくり200くらいの数があり、そのほとんどが中央から北寄りの位置に点在していた。ここから東のほうにも、ポツンと4つの点があるけれど……歩いて3日以上の距離がある。
「今度は黄色か……。獣にしては数が少ないよな」
「もしかしてこっちが日本人とか?」
「なるほど、その可能性もあるか……」
小春に言われたことを踏まえ、改めて状況を整理してみる。
まず青は私たちで間違いない。3つとも同じ色なので区別できないが、ひとまずそれは隅に置いておこう。
赤色の数が1500、ピンクが200、そして今回出てきた黄色も同じく200。もし黄色が日本人だと仮定した場合、赤は原始人だと予想できるけど、ピンクが意味不明だ。色味から察するに、原始人に近い存在だとは思うが……。
と、そこまで考えたところで閃いた。このピンクの表示は、原始人化した元日本人ではないかと。
「まあ、ただの推測だけどな」
「でも、かなり正解に近いと思います」
「赤とピンクで色も似てるしねー」
なんとなく納得したところで、今度はこの世界に来た日本人の数を予想してみる。
俺たちの車両には100人くらいの乗客がいた。そして電車は8両編成だったはずだ。仮に全車両が対象だとして、全員が異世界へ降りた場合の人数は800人。半分降りた場合は400人となる。
「黄色とピンクを足しても400人だし、人数的にも辻褄が合う」
「なるほど、それっぽいかもです」
「進化値をさらに上げれば、そのへんも判明するのかもな」
「じゃあ、ほかの武器も作ってみない?」
手ごろな石があったので、ついでに石斧っぽいのを作ってみるが……、結果は振るわず進化値に変動はなかった。同じ武器というカテゴリだとダメなのかもしれない。
(まあ、出来が悪いという可能性もあるが……)
あるいは土器などの道具ならと考えたが、そもそも粘土質の土が見つからなかった。結局、武器づくりは昼までかかり、石の槍6本と石斧2つを手に入れた。
◇◇◇
果実をかじりつつ、地図の変化を確かめる3人。正午ちょうどのタイミングで、帰還までの日数が『2日』に切り替わった。
「このままいくと、数字がゼロになるのは明後日の昼だよね。そのとき帰還できるってことかな?」
「最終日は大人しくしてたほうが良さそうですね」
「ああ、バラバラで動くのはやめとこうか」
腹を満たした俺たちは、真新しい武器を持って森に入る。狙いはもちろんイノシシもどきだ。地図を信用し過ぎて大失敗、なんてことを避けるため、人への警戒も含めて慎重に進んでいった――。
西に向かって森を歩くこと数十分、ようやくイノシシを見つけたが……4匹の群れだったので諦める。できれば単独でいるヤツを狙いたい。
――と、しばらく歩いたところで小春がハイエナを発見。1匹だけで行動しており、周辺に仲間もいないようだ。
地球基準で考えると、ハイエナは相当に強く、とくに顎の力は最強クラスだ。アルマジロ効果があるとはいえ、耐えられる保証はどこにもない。だが裏を返せば、そのぶん得られる効果も高いということ。リスクはあるけど手に入れておきたい。
「お兄さんどうする?」
「……そうだな。最初の一撃で仕留めよう。狙いは心臓だ」
心臓の位置は前足の上あたり、そこを狙って一気に仕留めることに決めた。
「先輩、もし心臓の場所が違ってたら……?」
「そのときはアレだ。夏歩を見習って暴れるしかないな」
「なるほど、善処します……」
俺が正面に、夏歩と小春は両サイドに陣取る。すでに相手との距離は10mもない。ハイエナもどきは一向に気づかず、ときおり明後日の方角を見ては移動を繰り返している。
3人揃って距離を詰めつつ、いよいよ目の前まで接近。俺の合図とともに槍を突き出した。
俺と夏歩の矛先は心臓付近に命中、小春のは少しズレて首筋に刺さっている。間髪入れずに2本目を、というところでバタリと倒れた。
槍が刺さるときの生々しい感触、それを思い出しつつ周囲を警戒。結果はあっさりしたものだったが、何とも言えない気持ち悪さは強く残っていた。
「……ふたりとも平気か?」
「ん? 私は全然大丈夫だよ。でも小春さんが……」
「ごめんなさい、わたしちょっとダメかも……」
夏歩はへっちゃらな顔をしており、小春は木の陰に向かって吐いていた。そんな俺も隠しているが、さっきから手の震えが止まらずにいる。
『意外と忌避感はなかった』
なんて描写を物語でよく見るが……。そんなものは幻想で、普通にグロいし気持ち悪かった。
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