第15話 拠点づくりと塩味
人生初となる拠点づくり。
まるで秘密基地を作るみたいに気分が高まっていく。作り方は動画で見て知っているし、案外上手くいきそうな気がする。
まずは支柱用の穴を2か所掘り、天辺がY字になっている支柱を差し込んで突き固めていく。次に横木を乗せ、ツルでしっかりと固定。倒れ防止用の支えを両端に3か所ずつ設置する。
あとは細い木を何本も立てかけていき、ヤシの葉をかぶせて隙間を覆うだけ。作りは雑だし、片面しか隠せてないが……これ以上は時間的にも厳しい。
それでも雨風は凌げるし、数日過ごすだけならじゅうぶんだ。強度も問題なさそうなので、今回はこれで妥協することにした。というか、これが俺たちの精いっぱいだった……。
「めっちゃ時間かかりましたね……」
「私、もう限界なんだけど……」
ふたりはグッタリとした様子で地べたにヘタりこんでいる。そんな俺も最初こそ張り切っていたが……途中からは声もでなかった。やはり編集された動画と、ノーカットの実作業は別次元だった。
ちなみに作り始めてから、すでに4時間以上経過している。
「あっ、ごめん。途中から地図を見てなかったわ……」
初めのうちは頻繁に確認してたんだ。だが、あまりの疲労感に襲われ、途中からは存在すら忘れていた。
「しょうがないですよ。どうせだし、みんなで一緒に見ましょ?」
「これだけ頑張ったんだし、きっと上がってるよね!」
新拠点に座りながら、期待を込めて地図を広げる。――と、全員の地図が一斉に変化しはじめた。
まずは進化値が1から2に増えた。進化に値する行為をしたのち、地図を開いたタイミングで変化する仕様みたいだ。
と、今度は地図上にある点が劇的に変化していく――。
現在地を示す青い点が3つに増え、ほかにも赤色と桃色の点が無数に表示されていった。
「なにこれ凄くない?」
「青い点はわたしたちのことだとして……ほかの色は何でしょうか」
「ずいぶんと北側に集中してるが……」
ざっくり数えてみると――。
真っ赤な色が1500ほどあり、桃色の点は200くらいになった。島の中心から北半分に偏っており、北に行くほど数が多くなっている。ちなみに最初にいた山には赤い点が20個あった。
逆に南側の海岸沿いにはほとんど存在しておらず、少なくともこの近辺にはひとつもなかった。
「原始人と日本人の現在地、そう考えるのが妥当だろうな」
「じゃあ桃色が日本人ですかね」
「んー、それにしては数が多いよな」
俺たちの車両には100人くらいの乗客がいたはずだ。仮に桃色が日本人なら数が合わない。ほかの車両からも来ている線が濃厚になってきた。
「ねえお兄さん。考察もいいけど、そろそろ夕飯にしない?」
「だな。夏歩が獲った魚もあるし、とりあえず飯にしようか」
陽もだいぶ傾いてきたので先に夕食を摂ることに――。
拠点の前にかまどを移し、海水漬けにした肉と魚を焼いていく。ジャガイモっぽい芋を主食にして、果物なんかを並べたところで、本日の晩餐が始まる。
俺はさっそく魚を頬張り――、小春と夏歩は、口いっぱいに肉を詰め込んでいた。
「ヤバいなこれ……めちゃくちゃ旨いぞ」
「昨日までとは別ものですね……」
「塩って偉大だったんだね……」
あまりの旨さに感激して、口を動かすことだけに集中してしまう。程よく効いた塩味と、磯の香りが何とも言えない幸福感を与えてくれる。結局、それ以降は誰も話さないまま、無我夢中で食べ続けていった。
◇◇◇
やがて辺りが暗くなるころ、ようやく3人の手が止まる。ふと気がつくと、腹がはち切れるほどの満腹感を得ていた。
我に返った俺は、さっき変化した地図を開く――。
新たに表示された赤と桃色の点。これが人を示すものならば、ここら一帯は安全ということになる。一番近い場所でも、歩いて3日以上はかかる距離があった。
ここで残りの3日間を過ごすとして、残された時間で何をすべきか。何を目標に動くかが重要となってくる。
「ふたりとも、休みながらでいいから聞いてくれ」
進化値をさらに上げて、自分たちの能力を強化する。そのための具体策を伝えていく。
「明日からの予定なんだが、3つのことに絞りたいと思うんだ」
「はい、時間もそれほどないですしね」
「うん、お兄さんの案に従うよ」
まず一つ目は、武器や道具を作って進化値を上げること。
石の槍や斧くらいなら作れると思うし、狩りをするのにも役立つはずだ。地図に劇的な変化が起きた以上、進化値をもっと上げておきたい。
二つ目は筋力を向上させること。
現状、自分たちの力は獣より劣っている。原始人との差は少ないと思うが、人数的な不利は否めない。差し当たってはイノシシを狩って食べることを目標にした。漠然としたイメージだけど、力が上がりそうな気がしている。
そして最後の三つ目は走力を上げること。
これには少々不安もあるが……馬モドキを狩ろうと考えている。群れを襲うのは無謀だが、単独でいるヤツならイケるかもしれない。少し無理をしてでも逃げ足を高めておきたいところだ。
「なるほど、悪くないと思います」
「わたしも異論なし!」
「もし時間に余裕があったら、その都度話し合って決めよう。できればほかのモドキも狩りたいからな」
帰還の日まであと3日、
安全地帯を手に入れ、ようやく心にも余裕がでてきた。
生存率を少しでも上げるため、自分たちの強化に動き出す――。
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