第14話 アルマジロ効果


 少し平たい感じの石は、ドラ焼きみたいなカタチをしている。先は尖っていないが、大きさも程よく握りやすい。


「あー、そういえばさっき拾ってたね」

「太いのは無理だが、細めの木ならいけると思う」


 手首を痛めるかもしれないが、そこはアルマジロ効果に期待している。あの硬そうな見た目からして、防御関連である可能性は極めて高い。


「ふたりも適当な石を見つけて試してくれ。怪我だけはするなよ」



 ほどなく昼食がおわり、話がまとまったところで動き出す。少し川をさかのぼり、石がたくさん落ちている場所まで移動。お互いが見える範囲で伐採を始めていった。


 ふたりが石を探している間に、まずは一番細い木で試してみることに。幹の厚みは5cmあるかないか。支柱にするなら、せめてこれくらいの太さは必要だろう。


(さて、まずは軽めに――)


 最初はやさしく、そして徐々に力を込めていく。


 と、数回打ち付けたところで、早くも表皮が剥けてきた。そこそこの力を入れても、痛みやシビレは感じない。さらに勢いをつけていくが……ちょっと不安になるくらい平気だった。


 手のひらは一向に赤くならず、手首を痛めることもない。アルマジロ効果は間違いなくある。と、たしかな手応えを感じていた。


 それから5分、かなり削れてきたところで、小春と夏歩が近寄ってきた。ふたりとも手ごろな石を持ち――いや、夏歩のは少々デカ過ぎる。カタチは良く、先端も尖っているが……うちわサイズの石を抱えていた。


「おー、お兄さんすごいじゃん!」

「結構いけるもんですね。お肉の効果はあったんですか?」

「ああ、間違いない。逆に効果があり過ぎて怖いくらいだ」


 腕力自体は変わってないけど、皮膚や骨を含めて強度が増している。と、そんな感じの解説をしていった。


「じゃあ私も頑張っちゃうよ!」


 夏歩はそう言うと、10cmはありそうな木を標的に――。俺が止める間もなく、最初からフルスイングで叩きつけていた。ゴッ、ゴッ、という激しい音を聞きながら、小春と顔を見合わせる。


「俺たちは細いヤツを集めよう……」

「むしろ今のうちにツルを採取しておきます。どうやらわたしの出番はなさそうです……」

「わかった。俺もしばらくしたら葉を集めるわ」


 なにはともあれ、石斧が必要ないこと、そして身体強度が増したことが判明。順調に作業が進んで、誰も怪我をすることなく拠点へと帰っていった――。




◇◇◇


 太陽が真上に差し掛かる頃、拠点づくりに必要な素材が揃う。


 枝打ちはまだ途中ながら、じゅうぶんな量の木材も集まっている。いまはみんなで地図を広げて、進化値の変化を確認しているところだった。


「さすがにまだ変わりませんか」

「材料を集めただけだしな。あとは組み立てながら確認しよう」

「でしたら先に魚を捌いてきます。肉も海水に漬けたいですしね」

「ああ、俺らも準備だけしとくわ」


 海へと向かう小春を見送ったあと、夏歩のふたりで黙々と枝を落としていった。ときおり海に視線を向けて、小春の様子を確認していると――。


「ねえねえ、やっぱふたりって付き合ってるの?」


 それを見ていた夏歩が、いやらしい笑みを向けて問いかけてくる。ただの安全確認だったが……彼女にはそういう感じに見えたんだろう。


「いや、そういうのはまだない」

「まだ、ってことはお兄さんのほうは気があるんだね」

「……そうだな。向こうが良ければ付き合いたいと思ってるよ」

「ふーん、そうなんだ」


 そう言ったきり、夏歩は押し黙っていた。表情に変化はなく、たぶん俺が想像している展開ではない。ただ興味があっただけに思えた。お互い作業の手は止めずに、しばらく木を叩く音だけが鳴り響いた。


 ――と、夏歩の顔が少しだけ曇り、ようやく次の言葉が聞こえてくる。


「あの子、今ごろどうしてるかなぁ……」


 あの子ってのは、いつも一緒にいた友達のことだろう。冬加とうかという名で、中学からの付き合いだと聞いていた。あの日は別の車両に乗っていたらしいが――。


「もしかしたら、この世界に来てるかもしれないよね」

「俺たちがこうなった以上、可能性はあるんじゃないか?」

「冬加なら異世界を選ぶはずだし……3日後に会えるといいな」


 彼女のため、そして自分のためにも、せめて希望くらいは残しておきたい。俺は無理だと思いつつも「そうだな」とだけ答えた。



 枝打ち作業を続けて30分、下準備が終わったところで、ちょうど小春が戻ってくる。


「あっ、小春さんおかえりー」

「ただいまー、そっちはどう?」

「こっちもいま終わったとこー」


 両手に持ったビニール袋はパンパンに膨らみ、魚と肉の切り身が踊っていた。小春曰く、1時間ほど漬け置きするのがいいらしい。


「先輩、なにかありました?」

「ん? とくにないけど急にどうした?」

「あ、いえ、なんとなく思っただけです」

「そうなのか?」


 俺を見て思ったのか、それとも夏歩の様子を察したのか。それはわからなかったが、小春はどこか見透かした表情をしていた。


「さて、拠点を作りましょう! まだまだやることは多いですよ!」

「だな、すぐに始めよう」


 少し微妙な空気を感じながらも、仮住まいの建設に取り掛かった。



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