第13話 浜辺の探索


「お兄さん、探索はどうしよう。西と東で二手に分かれる?」


 目的の海に到着したところで、夏歩からそんな提案をされる。


「……いや、今日は一緒に行動しよう」


 別行動は効率がいいけど、そのぶん安全率が下がってしまう。せめて周囲の探索がおわるまでは避けたほうがいい。まずは海辺に沿って森を調べて、周辺の状況把握に徹する。


「乾いた枝とか木のツル、ほかにも使えそうな石があったら覚えといてくれ。帰りに拾って帰ろう」

「りょーかい!」「わかりました」


 準備を整えた俺たちは、槍を片手に東へと浜辺を歩く。


 500mほど先には岩場があり、波がしぶきを上げているのが見えた。夏歩が正面を、小春が海を、俺は森を警戒しながら慎重に進んでいく。


 しばらく無言のまま景色が流れ、間もなく岩場へと着きそうな頃だった。海を見ていた小春が突然立ち止まる。さして慌てている感じではなく、不思議そうな表情をしていた。


「どうした? なにか見つけたのか?」

「あ、いえ。この海ってしょっぱいのかなって。まだ誰も確かめてませんよね?」


 そういえばまだだった。海は当然塩辛いもの。そんなイメージが先行して確かめるのを忘れていた。さすがに毒はないだろうけど、念のために少量だけ舐めてみることに――。


「おお、普通にしょっぱいね」

「日本と変わりない……んですかね?」

「どうなんだろ、気にして飲んだことはないからな」


 たぶん似たようなもんだろうけど、濃度の違いはわからなかった。それでも体に異常は見られず、問題なく使えそうだった。


「あっ、魚がいる!」


 久しぶりの塩味に感動していると、少し離れたところで夏歩の声が――。振り向いたときには槍を突き込んでいた。結構なサイズの獲物を掲げて、自慢げに駆け寄ってくる。


「お見事! と言いたいところだけど、まだ岩場の調査が残ってるぞ」

「ごめんごめん、体が反応しちゃってさ」

「夏歩ちゃんって狩猟民族なの?」

「俺もそう思うよ。夏歩ならひとりでも生きていけそうだ」


 笑い話も早々に切り上げ、獲った魚をその場に置いて岩場へと向かった。ゴツゴツとした岩肌は、思ったよりもヌメりが少ない。表面は程よく乾いており、歩くだけなら支障はないようだ。


「この辺の海は結構深いんだな」

「3mくらいはありそうだね」

「海藻が生えてますし、いいダシが取れそうです。ってまあ、鍋がないんですけどね……」


 一応、水筒は使えそうだが……煮炊きするにはサイズが小さすぎる。ならば土器を作ればと提案されるも、今はそれより大事なことがあった。


 帰還までのカウントダウン、それに向けての身体強化だ。


 帰還するとどうなるかは不明だけど、無事に日本へ帰れるとは限らない。事故直前に戻ればどうせ死ぬだけ。だったら少しでも生存率を上げておきたいと考えていた。


 仮に日本へ戻ったとき、この世界で高めた身体能力を引き継いでいたら? もしかすると、事故に合っても助かるんじゃないか。ここはそのために用意された世界なんじゃ? と、そんなことを密かに妄想していた。


 もしそうではなく、このまま異世界へ残ったとしてもだ。体が丈夫になればなるほど、生存率は格段に上がるだろう。


「先輩、また難しい顔してますよ」

「あ、すまん。実はさ――」


 食糧はふんだんにあり、水も確保できている。最低限の拠点は作るが、身体能力の向上を主体にして残りの日々を送りたい。と、ふたりに俺の考えを話し、今後優先すべきことを伝えていった。


「なるほど、わたしは賛成です。デメリットはありませんしね」

「私もお兄さんの指示に従うよ」

「ありがたい。けど鵜呑みにしないでくれよ? 間違ってたら遠慮なく反論して欲しい」


 元居た場所へと戻りながら、モドキ狩りの話を続けていった。




◇◇◇


 川まで戻った俺たちは、休むことなく西側を探索した。こっちはどこまでも砂浜が続いて、目に付く範囲におかしな点はない。かなり遠くまで見通せるし、問題はなさそうに思える。


 結局のところ誰もおらず、数匹の獣以外は東側と変わりなかった。たっぷり1時間かけて歩いたが、目ぼしい変化は見られずに終わる。



「我々はここを本拠地とする!」


 小春がそう宣言したところで、早めの昼食を摂ることに――。手早く済ませるため、採っておいた果実だけを頬張っていく。


「あ、私それ知ってるよ。アニメのヤツだよね?」

「そうそう、一度言ってみたかったの」


 実を言うと俺もよく知っていた。たしか元ネタは違うはずだが、細かいことは置いておこう。満足げな小春を見れて心が癒されていた。


「結局、誰もいなかったですね」

「ぶっちゃけここって、かなり安全な場所なんじゃない?」

「まあ、大丈夫ってことにしとこうか」


 実際問題、こんなに条件のいい場所は中々ないと思う。なのに誰もいないということは、そもそもここへは来ていないとも推測できる。

 都合のいい解釈だけど、疑い出すとキリがない。そう結論付けて探索を切り上げた。


「お兄さん、次はいよいよ拠点づくりだよね?」

「ああ、今日中にはカタチにしたい」

「どんなのを作るつもりなの?」

「雨風が凌げれば十分だし、できるだけ簡素なヤツにしよう」


 昨日も今日も、風は海のほうから吹いている。そちら側をヤシの葉で覆って、海風を凌ぐつもりでいる。そもそも道具がない状態では、大層なものは作れない。


「でも、どうやって木を切るの? 最低限の支柱は必要だよね?」

「石斧を作るのも簡単ではないです」

「そうだな。だからコレで叩き切れないか試してみたい」


 俺はそう言いながら、こぶし大の石を持ち上げた――。



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