第12話 海に到着


 探索途中に集めた枯れ枝、河原から拾ってきた石を使って夕食の準備を開始。それと並行して、背の低いヤシの木を見つけて葉を採取していく。


 今日は隠れる場所もないので、交代で夜の見張りを立てる予定だ。さすがにここ一帯の木は細すぎる。木に登って寝るのは難しいだろう。


 その後も準備を進めていき、追加の薪を集めたり、昼に獲った肉を焼くころには、陽もずいぶんと傾いてきた。結局、日没まであと1時間というところで晩餐が始まる。


「先輩、今日は豪勢ですね!」

「種類だけならまずまずだよな」

「明日からは塩味がつくんでしょ? めっちゃ楽しみ!」


 ちなみに今日のメニューは以下のとおり。


『アルマジロ、鹿、兎肉の3種盛り』※ただし肉の味しかしない

『バナナ、洋梨、野イチゴのフルーツ』※どれも味が薄い

『ヤシの葉で蒸した芋っぽいナニカ』※食べられるかは不明


 種類と量だけならかなりのもので、3人では食べきれないほどのボリューム。先ざきの生活においても、食糧と水の心配はなさそうだった。


「そういえばふたりとも、進化値は1のままだよな?」


 夕食も進んだところで、進化値についての話題を振ってみる。


「うん、私はあれ以降増えてないよ」

「わたしも変化してません」


 3人でかまどを囲いながら、それぞれの地図を広げてみる。俺と小春は1のまま変わらず、夏歩は今日の出発前、干し肉を干させて1に上昇していた。


 ちなみに夏歩の地図なんだが、肉を干した瞬間に表記が変化したのを確認済みだ。それまで数字だけだったのが、俺たちと同じように残り日数と進化値の文言が増えた。


『この時代の文明レベルを超える行動』


 それが進化値の獲得条件だと推測している。裏を返せば、火起こし程度は原始人もやっているということ。なぜ臓器以外を食べないのか。それは不明のままだが……、おそらく肉を日持ちさせるという概念はないんだと思う。


「この進化値だけどさ。たぶん俺たちの進化じゃなくて、地図の進化だと考えてる」


 身体の変化は獣肉によるものだ。何種類か試したし、ほぼ間違いないと思っている。「じゃあ進化値って何?」ってことになるが――。たぶん地図の進化だと睨んでいる。


「数値が増えると、そのぶん機能が拡張していく感じですか」

「ああ、夏歩の文言が変化したタイミングもそうだったろ?」

「だけどお兄さん、私のときは肉を干した瞬間に変わったよ? いくらなんでも完成には早すぎない?」

「ああ、それなんだけど――」


 おそらく行為自体に判定が掛かっている。


 例えば住居を作った場合、作り始めてすぐ、もしくはある程度カタチになった段階、その時点で増えるのではないか。むろん仮説の域を超えないが、今後の指針にはなるだろう。


「じゃあ、明日は拠点づくり?」

「まずは海辺の安全を確認しよう。拠点はそれからだ」

「そうなると、木を倒す道具も必要ですよね。石斧が作れたらいいんですが……」

「作り方は知ってても、相当な時間が必要かもな」


 話を続けているうちに、あたりは徐々に暗くなっていく。今日はたき火の明かりだけが頼りの綱。消さないように注意しながら交代で眠りについた――。




◇◇◇


「先輩、朝ですよ」

「お……おはよう。っと、今日もいい天気だな」


 異世界に来て5日目の早朝、


 目が覚めると、視界いっぱいに小春の顔が映った。慌てて目線をそらすと、すぐ隣にいたはずの夏歩が消えている。


「あれ? 夏歩はどうした?」

「夏歩ちゃんはトイレです。すぐ後ろにいるので、絶対振り向かないように!」

「なるほど、俺もあとでしてくるわ」


 どうやらこの辺り、山のほうより風が強いみたいで、夜は肌寒さを感じていた。たき火が消えるほどではないが、風よけを意識した拠点づくりが必要だろう。


 とはいえ最優先すべきは安全の確保だ。まずは原始人がいないことを確かめたい。それに次いで、日本人の生存者にも警戒するべきか。世の中いい人ばかりとは限らないし、ふたりを見て変な気をおこすかもしれない。



 みんなで朝の諸々を済ませたあと、果実をかじりながら南へと移動する。と、30分程度歩いたところで、川の両岸がかなりひらけてきた。


 遠くの景色は青く染まっており、磯の香りがより一層濃くなっていく。この先に海があるのは間違いなく、3人の歩みがさらに早まる。


 結局、誰とも遭遇することのないまま、ついに南の海辺まで到着。


 森の切れ目から海までは、20mほどの砂浜が広がり、少し遠い場所には岩場も見えていた。海の色は少し青いが、浅瀬の底が見える程度には透き通っている。


「おおー、小春さん海だよー!」

「これは見事な景色です!」

「おい、もう少し静かに頼む……。誰がいるかもわからんぞ」


 興奮気味のふたりをなだめ、自分もあたりを注意深く眺めていく。


 川の水は海へと流れ込み、周囲の砂を削って段差ができていた。よじ登ることは可能だけれど、なかなかに苦労しそうな高さがある。


 浜辺に漂流物はなく、たき火や人工物も見当たらない。なにはともあれ、目に付く範囲に人の気配はなさそうだった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る