第7話 原始人、増えてます
地図を確認した俺たちは、3つの目標を立て、すぐに次の行動へと移っていた。
『西側にいた原始人の様子を再確認すること』
『南にある海辺までの移動時間を知ること』
『俺たちでも狩れそうな動物を探すこと』
差し当たっては、最初に転移した場所に向かって山を下りることに――。日暮れにはまだまだ時間があるし、余程のことがない限り、暗くなる前には戻ってこられる。
「ねえ先輩、なんか体が軽くないですか?」
「やっぱりか。俺もそう思ってたところだよ」
山を下り始めてから、かれこれ1時間以上は経っているが、それにしては疲労感が少なかった。踏み出す足が軽いというか、足腰への負担がないというか――。とにかくずっと違和感を抱いていたんだ。
「もしかして、これが進化値の効果だったり?」
「どうなんだろうな。いずれにせよ、疲れにくいのは助かるよ」
あの地図には『獲得進化値』と書いてあった。これが進化レベルとかならば、肉体の進化により身体能力が向上、みたいな展開もわかるけど……。
どちらかといえば、鹿の肉を食べたこと自体が影響しているのではないだろうか。一般的な鹿といえば、跳躍力が強いとか、険しい山を駆け回るイメージがある。
鹿肉を食べたことで、自分たちの肉体にも反映されるようになった。そう考えるほうがまだ納得がいく。獣肉の効果を確かめるためにも、いろんな動物を狩って試したいところだ。
「先輩、見えてきましたよ」
そうこうしているうちにも現地へ到着。小春が遠くに見える開けた場所を指していた。ルートが判明しているとはいえ、ここまで来るのに行きの半分もかかってない。明らかに身体能力が向上している。
「とりあえず地図を確認するぞ」
「わかりました。交代で見張りましょう」
先に地図を広げ、青い点の位置を確認してみると――。
どうやら現在地を示す点で間違いないようだ。拠点の場所よりもかなり西寄りに移動していた。これでザックリとだが、海辺までの移動時間も計算できる。
「南の海まで8時間ってとこか――」
「おー、意外と遠くないかも?」
「まあ、歩き続けられたらの話だ」
「なんとかなりそうですけど……過信は禁物ですね」
ひとまずひとつ目の目標、海までの距離を把握することができた。次は原始人の様子を確認するため、崖の先に向かって這うように進んでいく。
木の槍を片手に這いつくばる男女。はたから見れば実に滑稽だが、当の俺たちは真剣そのものだ。正直なところ、小便がちびりそうなくらい緊張している。
あんなものに食われたくないし、対峙したところで勝てる見込みはない。物音ひとつ立てないように、ときおり背後を警戒しながら進んでいった。
やがて崖の先まで到着すると――。
相も変わらず広大な大自然が飛び込んでくる。ポツポツと動物もどきの集団がいたり、上空にはワシみたいな鳥も飛んでいた。
そして当然かのごとく、角あり原始人たちの姿もあった。しかも日本人の集団もセットで――。
「普通にいますね。ってかまた日本人が襲われて……ないみたい? あれはどういう状況なの?」
小春が戸惑う気持ちはよくわかる。なにせ10人くらいの日本人が、原始人に混じって歩いていたんだ。格好こそスーツや私服だったりと、違和感は半端ないが――。
まるで同族かのように集団行動をしている。
「おいおいマジか。そういうことになっちゃうのかよ……」
「え? なにがどうなっちゃったの?」
「アイツらの額をよく見てみろ……」
「うわっ、マジですか……」
遥か遠くに見える日本人たち、
その額からは小さな角が生えている。ワンチャン装飾品の可能性もあるけど、それにしては良く出来ていた。原始人の角と比べても、まったく遜色のない色とカタチをしている。
そんな奴らは、馬モドキの群れに近寄っているところだった。どうやら狩りを始めるみたいで、こん棒やら縄やらを片手にズンズンと歩いている。すでに馬との距離は20mもないくらいまで迫っていた。
『20人の原始人vs10頭の馬モドキ』
その光景を遠目に見ながら、今後の展開に注視していく――。
「なあ小春。あの馬たち、なんで逃げないんだと思う?」
「たしかに、あの距離なら絶対気づいてますよね」
逆に馬のほうが襲う側だとしても、とっくに警戒くらいはしてるはず。なのに一匹たりとも気づく素振りがない。ここまで来ると、もはや無警戒なんてレベルは通り越している。『人間の存在に気づいてない』としか思えない。
「っ、先輩! 原始人が!」
結局、たいした結論も出ぬまま両者の戦いが始まる――。
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