第3話 所持品チェック


 山に入ってから3時間、


 俺と小春は水場を見つけ、ようやく身を隠せる拠点を手に入れることができた。


 土手に見つけたそこそこ大きな窪み。入り口を覆うようにして、むき出しの木の根が何本も垂れている。完全な目隠しとはいかなくとも、視界をさえぎる程度には機能していた。こうして穴の中にいるだけでも、そこはかとなく安心感を覚えている。


 ただ、あまり長く座っていると、精神的な疲労のせいで動けなくなってしまう。そう考えて、すぐに薪になりそうなものを集めだした。


 当然のことながら、火を起せば煙が立ちのぼり、誰かに居場所を知らせることになる。隠れるという一点においては、安易に判断できるものではない。


 とはいえ、夜の気温がどれほど下がるのかも不明。悠長なことを言ってる場合ではないし、せめて暖をとる準備だけはしておくべきだろう。


「ほんと、先輩が喫煙者で助かりました」

「ああ、まさかこんなところで役に立つなんて思わなかった」

「火が簡単に起こせるかは死活問題ですからね」

「でもまあ、これを機に禁煙できそうだ」


 結局1時間ほど薪を集め、ふたりで拠点に戻った。いまは持っていた荷物を並べて、ひとつずつ確認しているところだ。俺が所持していたライターを眺めながら、火起こし問題について話していた。


 ちなみにタバコなんだが、マズくて吸えたもんじゃなかった。まるで初めて経験したときのように、煙にむせ込み、口の中が一気に気持ち悪くなった。


 もしかして視力だけではなく、身体機能にも変化が? なんてことを話していたが、結局はなにもわからず仕舞い。急に力が強くなったり、跳躍力が上がったりもしてないようだ。


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『所持品リスト』


・背負い式のリュック(普通サイズ)

・肩掛け用の布製バッグ

・ステンレス製の水筒(700ml)

・ペットボトル(500ml)

・替えの靴下と長袖Tシャツ

・ビニール袋(中2、小1)

・タオル3枚

・タバコとライター

・折り畳み式の小型ナイフ

・腕時計、スマホ、手帳、ボールペン

・ライトノベル小説3冊

・化粧ポーチ、生理用品etc


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「――と、まあこんなところか。意外と役に立ちそうな物もあるな」

「とくにわたしのコレ、とかね?」


 小春はナイフを手に取りながら自慢げに披露していた。


 たしかに、刃物があるとないでは雲泥の差がある。だいたい察しはついていたけど、車内で話していた『イイ物』とはこれのことだったらしい。


「俺に自慢するために買ったのか。結構高かっただろうに」

「あの動画に感化されちゃって……。思わず買っちゃいました!」

「いや、今となってはありがたい。ライター以上の最強アイテムだ」

「うむ、わたしが一緒で良かったですね!」


 ここに来てからずっと感じていたが、おそらく彼女は気を張っているんだと思う。ひと回りも年下の後輩は、無理やり笑顔を振りまいている感じだった。


 そんな彼女を見つめながら、出会った当初のことを思い出す――。



 今年の春、たまたま同じ部署に配属されて、俺が新人教育を任されることになった。俺の身長が高いのもあるけど、どちらかといえば小柄で、歳のわりには可愛らしい感じの女性。それが彼女の第一印象だった。


 毎日一緒に行動するようになり、徐々に緊張も解けてきた頃――。


 ちょいちょいプライベートな話題も増えていった。それがきっかけとなり、お互い同じ趣味を持つ同士だとわかった。今では職場だけでなく、週末にも何度か顔を合わせているし、好きか嫌いかで言ったら、間違いなく好きだと断言できる。


 そんな俺たちの趣味といえばラノベやアニメ、それにキャンプ関連のことだった。彼女は未経験のようだが、動画の知識だけなら相当なもの。来月には一緒に行く約束もしていたんだ。


 それがまさか、こんなカタチで実現するとは思ってもみなかったが――。



「ねえ先輩、ちゃんと聞いてます?」

「ごめん、なんだっけか」

「もー、これからどうするのって話ですよ!」


 うっかり回想に浸っているところを、彼女の言葉で現実に引き戻される。


 たしかにこれからどうするか、それを早く検討しなくてはならない。差し当たっては生き残ること。そして異世界の現状を知ること。ついでにほかの生存者を探すこと。この3つを目標にしようと伝えた。


「そもそもここって異世界なんですかね? わたしたち、チートのひとつも貰ってないんですけど」

「それはあくまで物語の話だろ?」

「でも現実に起こってます。例のテロップだって、神様のお告げみたいなもんでしょ?」

「まあチート能力じゃないにせよ、救済措置くらいは欲しいよな」

「てっきり魔法が使えるファンタジーを想像してたのに……」


 それには俺も同意だった。中世風の街並みだとか、王城に転移するパターンを想像していたが……全く違っていた。仮にサバイバルにしたって、もう少し難易度を下げて欲しかった。


「せめてこの世界のヒントくらいは欲しかったです」

「まったくだよ……。まあとにかく現状確認だけはしておこう」


 結局初日は火を焚かず、真っ暗になるまで話し合った。大した結論はでなかったけど、話し相手がいるだけでも不安が薄れていく。


 ときおり聞こえる獣の遠吠えに怯えたり。


 木々がざわめく音に恐怖したり。


 それでも、お互い身を寄せ合いながら無理やり目を閉じていった。



 そんなふたりの愚痴が効いたのか、


 あんなヒントが貰えるとは知る由もなく――。



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