初めて出会ったマイルドサイコパス06 嵐の前03 ~標準語版~

「シン。ちょっといい?」


「うん」


「なにか手足を縛られたみたいに感じるんだけど」


「そうか。怒鳴ったりはしないつもりだけど理詰めで行こうと思ってる。でもバカだから理解してもらえるかどうかわからないんだ」


「その内容もあるけどシンの今の雰囲気がちょっと怖いと感じる」


「そうか。詰めるつもりで話してるからな。もし役者になってたら俺もアカデミー賞狙えたかもしれないね」


「意外と演技派なのかしら?」


「そうだな。ニコニコしながら話す内容ではないからな」


「シンごめん。水差して。でも私が話しかけて睨まれたらどうしようと思ってた」


「コハルそれは無い。今俺は仁義なき戦いの菅原文太みたいな気持ちだったから」


「シン、それはよくわからないけど」


「演じてたんだよ。冷静に相手を殺すつもりで。まあ実際には言葉で追い詰めるつもりで。だからすぐに切り替えられたんだ。あれ、見たことないかい?」


「見たことないよ」


「そうか。男だったら絶対に見てると思うよ」


「何それ?」


「やくざ映画なんだ。その昔広島でやくざの抗争があってそれを映画にしたのが仁義なき戦いというタイトルの映画なんだ」


「そうなんだ」


「今や大スターの俳優さんがこぞって出てたんだよ」


「そうなんだ」


「俺が好きな田中邦衛さんもやくざ役で出てたんだよ」


「そうなんだ。あの人がやくざ役なんてできたんだ」


「うん。若い頃やからもう目がギラギラしてたな。画面でしか知らないけど。まだ食ってるでしょうがぁ」


「北の国からの真似だね。笑 そうなんだ。他に誰が出てたの?」


「ちょっと待って、似てなかった?」


「あまり似てなかったよ」


「そうだったか。まだまだ修行が足りないみたいだな。えっとね、さっき言った菅原文太、梅宮辰夫、松方弘樹、千葉真一、渡瀬恒彦、小林旭、前田吟、伊吹五郎、丹波哲郎、宍戸錠、北大路欣也、若山富三郎、山城新伍、室田日出夫、川谷拓三これくらいかな覚えてるのは」


「結構有名どころが出てたんだね」


「そうだな。この仁義なき戦いは確か十作くらいあったと思う。名古屋に居るとき先輩の部屋でビデオを見せてもらってたんだ」


「そうなんだ。エッチなビデオも見せてもらってたの?」笑


「それは無かったと思うな。その頃はもっぱらエロ本だったから」


「シンはその頃は彼女居てたの?」


「居た時期か居なかった時期なんかはもう覚えてないな」


「そうなんだ。でももう経験はあったの?」


「無かったと思う。興味はあったけどどうするんだろって思ってたと思う」


「そうなんだ。へぇー。今や私を狂わせるのにな」


「コハル。なにか話が違う方向に行ってしまったけれど」笑


「シン。さっきその変な男と話してる体で話してるときはすごく圧を感じてたけど

私が話しかけたらいつものシンにすぐに戻ったから意外とシンはちゃんと距離を取れてるって思ったな」


「そうか。そんな風に思ったんだ。でもコハル、ちょっと不安だったんだね。ごめん」


「ううん。シンは自分をしっかりと持ってるのがはっきりわかったから私はうれしい。こんな一面もあるんやってわかったから」


「そうか。そんなに言ってくれたら俺もうれしいよ。ちょっと仲良くできるところに寄ってみるか」


「シン、本当?」


「うん。子供が出来てからずっと家でばっかりだったけどこうやってたまに二人きりになった時くらいそんなところに行ってもいいのではなかろうか」


「シン。うれしい。行こう。早く行こう!」


「行こう。コハル。お前を抱きたいよ。目を見開いてホテル探さないといけないよ」


「うん。がんばる」


「あの遠くに見えてるのそうかなぁ?」


「そうみたいだね」


「よし、そっちへ行ってみよう」


「うん」


コハルと手を握り合っている。


運転中だけど時々コハルを見ると俺を見つめている。


「コハル、穴が空きそうだよ」


「シンの顔に穴をあけるつもりなのよ」


「そうか。俺はコハルのを想像してるんだ」


「シンイヤらしい」


「うん」


「シン、おっきくなってるよ。すごく窮屈そうだよ」


「そうだよ。早く出たがってる」


「シーン」


「おっ。営業してるな。ここに入るね」


「うん」


車を停めてロビーに立つ。


「真昼間だけど結構混んでるな」


「そうだね。高い部屋ばっかり残ってる」


「じゃあまあこれでいいか」


「うん。畳の部屋だね」


「そうだな。昭和な感じだな」


「よし行こう」


「うん」


腕を組んで部屋に向かった。


入り口はドアだったけど中は純和風に仕立てられている。


「コハル、テレビで見た田舎の家を思い出すな」


「そうなんだ。こんな感じだったっけ。布団が敷かれてて電球が灯っててなんかイヤらしい雰囲気だわ」


「そうだよ。これで切り替えるんかな? おっ!赤色に変わった。さあコハル」


コハルを抱きしめた。


「アンッ」


チュッ。


「シン、先にシャワー浴びよう」


「そうだな。一緒に入るか」


「うん」


「コハルかわいいな」




「シン今日は激しかった。壊れるかと思ったよ」


「そんなことないだろう。まだまだな顔してる」


「そんなことないよ。一杯喜ばせてくれたし」


「しかしあれだな。女は何回でもだけど俺なんかせいぜい二回が限界だもんな」


「なんででしょうね。うふっ」


「こいつめ」


「イヤーン」


「本当にお前はかわいいな」


「ありがと」


チュッ。


「なんか気が抜けたな。帰りはさっと棒読みしてそれで終わろか」


「シンごめん。邪魔したみたいで」


「いやいや。コハルが居てくれて良かったよ。また違う考えが出てきたから」


「そうなんだ。私居ることで役に立ったのかな?」


「たったよ。コハルのおかげはたくさんあるから。でもあれ、一人で出かけようとしてたんだから」


「本当だわ。ひどい旦那さんだよ。ナンパでもするつもりだったの?」


「そうだな。それもいいな」笑


「でもその相手は私なんだよね」


「いい女が居るなと思って声を掛けたらコハルだったって最高だね」


「シン、本当に?」


「本当だよ。お前以外とはする気にもならないんだ」


「そうなんだ」


「そうだよ。俺って一途だからね。捨てないでね」


「シン、それは私のセリフだよ」


「そうかな。俺の事捨てたら嫌だよ」


「シンそれは絶対にないよ」


「本当に?」


「本当だよ!」


「うれしいよ」


「シン。アンッ。また・・・」


ホテルを出たときはもう日が傾いていた。


「結構長い事居てたね」


「そうだね。楽しかったね」


「そうだね。またたまには来ような」


「うん。連れてきてね」


「うん。愛しいコハルさん、また連れてきますよ」


「お願いしますよシンさん」


「コハルにシンさんって言われたの初めてじゃあなかろうか」


「そんなことないよシンさん」


「うわぁ、なんか新鮮な感じがするなぁ」


「シンさん好きよ」


「おぉ。ゾクッとする」


「シンさん今度するときに言ってみるね」


「うん。でもその時は忘れてるような気がする」笑


「そんなことあれへんで」


「あっ。戻ったな」


「ブッ。おもろいな」


「そうだな。本当はいいトコのお嬢さんなのにコテコテの大阪弁喋るからね。そのギャップも俺は好きなんだ」


「いいトコのお嬢さんではないけれど、そうなんだ」


「うん。コハルも演技派だね」


「今度なにかやってみようっと」


「うん。楽しみにしてる」


家に着くと詩と花が玄関で出迎えてくれた。


「ただいまー」


「おかえり。父さんとママとどこまで行ってきたの」


「もう同じところをぐるぐる回ってたけど結局亀岡まで行って道の駅で野菜買って来たよ」


「ママ楽しかった?」


「楽しかったよ。父さんと久しぶりの二人だけのデートだもんね」


「ママずるーい。今度は花も連れてって」


「うん。この次は詩も花も一緒に行こう」


「うん」


手を洗ってリビングに入った。


「お父さん、お母さんただいま」


「シンさんおかえり」


「おかえり」


「今日は子供たち見ていただいてありがとうございました」


「いやいや。たまにはいいものだね。なあお母さん」


「本当に。楽しかった?」


「うん。おかげさまで」


「そりゃよかった。どこまで行ってきたの?」


「今日は普通のドライブじゃなくてちょっと仕事がらみだったので

結局亀岡まで行って道の駅で野菜買って帰ってきました」


「そうなんだ。でもたまには夫婦二人きりもいいものだと思うよ」


「うん。今日は仕事がらみだったけど久々にデートしたみたいな気分だったから

よかったわ」


「シンさん聞いていいのかどうかわからないけど仕事がらみって何?」


「ああ。お父さん先日話したおかしな奴と対決することになったんです」


「ほう」


「社長に相談したんですけど任せますのでという事だったんで何から話しようかとかその辺りコハルの意見を聞きながら考えてたんです」


「そうか。いよいよ対決なんだ。でも社長と結論は同じなんだよね?」


「はい。それは同じであることを確認してます」


「なら安心かな。シンさんは優しい所があるから先方さんが涙ながらにとかなると気持ちが揺らぐかもしれないからね」


「いや、それは無いです。改善しないという事がわかっているので。僕も楽しく仕事したいんです」


「うん、そうだな。シンさんも気持ち固めてるのだったら大丈夫みたいだね。頑張ってください」


「ありがとうございます」


部屋に戻りメールを開いて見る。


すると杉内からメールが入っていた。




鴨居様


お疲れ様です。


鴨居さんからのメールを見落としていました。


生産計画のメールです。


正直びっくりしました。


これは社長の許可を得ているのでしょうか?


また実際に作る人も可能だと言っているのでしょうか。


 だいぶ時間が経ってしまったのでこの件に関する熱も冷めているでしょうから

また会議の時にでも議題として話し合いたいと思っています。


よろしくお願いします。



今回のはCCから社長を外していた。


内容もあっさりしていたが、生産計画案を作ってその通りで進めようとなった時には社長の許可はいるかもしれない。


しかし案の段階でこれから検討しましょうと言っているのになんだろうな。


悔しいのだろうか。


もう言いがかりとしか言いようのない印象しか受けない。


まあ明日が楽しみである。

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