初めて出会ったマイルドサイコパス05 嵐の前02 ~標準語版~
「社長、ちょっとお話がありますけどいいですか?」
「はい。いいですよ」
「杉内の件です」
「はい」
「ダメですね。僕の事は割と早い段階で格下認定していたみたいでもう言うことを素直に聞きません」
「そうですか。困りましたね」
「次のターゲットは社長ですよ」
「えっ。僕ですか?」
「そうです。入院中に送られてきたメールあったでしょう。あれで社長の反応を見ようと思ったんでしょう」
「あの意味の分からないメールですか?」
「そうです。幸か不幸か社長の返信されたメールに気が付かずにスルーされたと思ったみたいです。まだ格下認定はされてないみたいなのでさほど気にしてはいませんけど」
「ちょっと怖いですね」
「そこで杉内に話をしたいのです。話しをした上でどうするのか決めたいと思っています」
「鴨居さんはもう結論出てますよね」
「出てますね。一緒に働くのは無理です。攻撃性が無ければまだましかもしれません。しかし見下されているのがわかっている相手と一緒に居ようとは思いませんので」
「そうですね。いずれ僕も見下されるみたいなので手は打った方が良いですね。実は来週の月曜日、杉内さんに今後の事を相談したいと言われています。まず上司の課長に相談しなさいと言ったんですけどね。その時に一緒に話をしましょうか」
「そうですね。じゃあ申し訳ないですけどよろしくお願いします」
二日ほど後に杉内から機械が出来ましたとの報告があった。
「おつかれさん。これで納期を早く回答できる」
「早くすることに意味はあるんですか?」
「なんだその質問は?」
「私が作らなくても納期を長い目に言っておけばそれで済むと思うんですけどね」
「そうだな。俺はお客さんに喜んでもらうために君がやりたくないことを命令するんだ」
「なんですかそれ」
「言い方を変えただけだ。俺はお客さんに喜んで欲しいんだよ。それだけだ」
「そんなのお客さんのためだったら死ねるってことですか?」
「なかなか極端な話だな。死ねないねもちろん。そんな気さらさらないな。でもな出来ることを出来ないというのが俺は一番嫌いなんだよ。だから君にしわ寄せが行くわけだ。出来ることを自分からやらない君にやってもらうこと。君の事を好きになりたいと思って君に嫌なことをやってもらう訳だ。機械作ってもらってお客さんに喜んでもらうためにな。お客さん喜ぶ。俺に好かれるかもしれない」
「そんなの、僕がしんどい思いするのはいいって事ですか?」
「いくらでもしんどい思いをしたらいいと思うよ。君は口ばかりで動いてないからな。人を動かそうとしてるみたいだけれど人望なさ過ぎて無理だし業務命令にしようにも入ったばかりの下っ端だからそれも出来ないしな。辛いところだな」
「・・・」
「まあよく考えてみたらいい。君が機械を作ったことで納品が出来て今月の売り上げが上がるわけだよ。お客さんも喜ぶし社長も売り上げが上がって喜ぶ。俺に命令されて気を悪くしているのは君だけだ。なぜ気が悪いのか? 見下げている相手に言われたからだろう」
「そんなことないですよ」
「そんなこと大ありだ。俺と君の会話を聞いていた人がいてね。鴨居さん見下げられてますねって先日も言われたところだよ。何故素直にハイと言えないのかって言ってたけれど今は放っておきなさいと言ってあるけどね。ちなみに今、君と俺だけでしゃべってるつもりかもしれなけどこの仕切りの向こうに一人居るの知ってるか?」
「えっ! 居てるんですか?」
「そうだ。君の事は大体わかってるからな。笑 だからみんなの前では個人攻撃めいたことはあまり言わないけど二人だけになったら豹変しているの自分でわかってるんかいな?」
「そんなことないと思いますけど」
「まあまあ気にするな。聞かれてまずいことは話してないのだろう」
「・・・ないです」
「じゃあ、いいじゃないか。さあ仕事をしなさい」
土曜日日曜日は杉内を追い詰めるための問答集作りや実際に声に出してシュミレーションをすることにした。
独りでドライブしながら練習しようとしたらコハルがついて行くと聞かなかった。
「コハル、詩と花はどうするんだい」
「大丈夫だよ。おじいちゃんとお母さんがいるしお願いしたから」
「そうなんだ」
「シン。こんなにシンが苦しんでいるときに何にも出来ないのは私も苦しい。だから一緒にいさせて」
「コハル。これは今までの俺じゃないんだよ。そいつの生活を壊すわけだから。だからちょっときつい物言いしたり怒ったりもすると思う。そんなところをあまり見られたく無いんだけど」
「シン。私は大丈夫だよ。絶対に着いて行くから」
「・・・コハル。わかった。一緒に行こう。びっくりして気を失うなよ」
「きっと大丈夫だよ」
「コハルありがとう」
その車の中で原稿を見ながらまるで演劇の練習のように話を始めた。
「まずなぜ私がここにいるのかという顔をしているが、今回君が社長に直接仕事の進め方の相談をすると聞いて社長に頼んで同席させてもらうことにした。もともと君が社長に相談を持ち掛けたときに技術課長の同席は決まっていた。
だから私と技術課長がここにいるのだけど。杉内君が今後仕事をどう進めて行ったらいいのかを社長に相談することは私は意味のない事だと思っている。それは技術課長や私の言うことを聞いていないからだ。上司の言うことを聞けない人間が社長と相談することで社長の言うことは聞きますよと言うことになると組織としての伝達、命令系統がおかしくなる。社長もその辺りを認識されて私の所に話を持ってきたのだ。
自分どれだけおかしいことを言っているのか理解しているのか?」
「・・・」
「今までただ漠然と君と接してきたわけでは無い。ある時期から君の言動の中に過去存在した社員とよく似た物言いがあるなと思っていたこともあって注意深く観察していたんだ。ちなみにそいつは三年過ぎてから本性が現れ始めたのだけど杉内君、君は意外と早かったな。能力や忍耐力も明らかにそいつよりも劣ってると思う。その頃はインターネットもそれなりに普及し始めていたけど情報としてはまだまだ今ほどは無かったし、まずそいつの発言自体、杉内君がメールでよこしたように残ってなかったからな。当時の社長が対応したけれど情報として私も把握していた」
「まず事の発端は私の発注のやり方に対する批判。ド正論のご批判ありがとうございました。せっかくのド正論も失礼さが上回って頭に入ってこなかったよ。人とどう接するか。出来るだけ柔らかく何でも話せる雰囲気を心掛けてきてたけどそれに付け込んでこられるとは思わなかったな。調子に乗り過ぎたみたいだな。まず社会人として相手の立場を考えて言っていいことと悪い事の判断がついていない。これは多分格下認定したことと、私が激しく反発しないことで夢中になったんだろうと思う。私の事をサンドバックに見立てたと思う。でも残念ながら私は動くサンドバックだったんだ。ちゃんと避けてたからな。よだれ垂らして殴りかかって来てたけどこいつはバカだなと思いながら見ていたんだ」
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