初めて出会ったマイルドサイコパス04 嵐の前01 ~標準語版~




翌朝、会社で杉内に対するレポートをまとめてみた。


まだ誰にも見せていないし見せる予定もないが情報を整理するためだ。


彼が退院してきてから少し様子を見ようと思う。


もうすでに他人への攻撃が始まっている。まずは僕だった。


いや、技術課長か。 彼は口が達者な人間にはあまり太刀打ちできない。


僕も口の達者な人には苦手意識がある。


僕に対しての攻撃は技術課長と同様、やはり舐めたからだろう。


別に構わない。やり取りはするけど相手にしている気は全くない。


そのやり取り自体何の実りもない。ただの雑音。


でも僕はそこから杉内の内面を読み取ろうとしている。


 入院中によこしたあのメールは社長の反応を見るためのジャブでは無かろうかと思っている。


杉内はただやみくもに見下しているわけではなさそうだ。


年齢なりの経験を積んで相手を選んでいるような気がする。


「社長お疲れ様です」


「鴨居さん、お疲れ様です」


「杉内のあのメールどう思いました?」


「何が言いたいのかわからないですね。なんなのでしょうかね」


「そうですよね。しかも社長に指示しているし」


「そうでしたか。まさかとは思いましたけど」


「会計ソフトの件では今これが流行ってるからこれが良いですみたいなこと書いていましたね」


「そうですね。実際に採用して合わなかったら責任とれるんでしょうかね」


「無理でしょう。そもそもあの文面で検討しますか?」


「絶対に無理ですね。 話にもならない」


「社長もう少し様子見ますがどこかでお願いするかもしれません」


「彼の件ですか?」


「そうです。色々調べてみました。彼の身辺ではなくその言動の事です」


「そうですか。何かこうアピール圧みたいな不自然なものを感じてますけど」


「はい。社長、中山の事覚えてますか? それも彼のような人たちの特徴です」


「そうですか。鴨居さんまた教えてください」


「はい」


杉内が退院してきた。


当分は重いものは持てないらしい。


入院中の会社の話。


特に話すような内容は無かったがまた受注が増えつつある事を話した。


そしてあのメールの話。


「あれはどんな意味合いなんだ?」


「あれは暇だったんで思いつくままに書いてみたんですよ」


なぜか自慢げに話している。


「社長からの返信みたのか?」


「えっ。知りませんけど」


「・・・」


こいつは相手がどう思うのか違うことを考えていたようだ。


「生産計画を作るべきですって書かれていたけどあれ杉内君作れるよな」


「どうして僕が作らないといけないのですか?」


「作れとは一言も言ってない。作れるよなって聞いただけだ」


「じゃあ何故そんなこと聞くんですか?」


「口だけか行動する奴か確認するためだよ」


「・・・」


見下してる俺にこんなこと言われたら無茶苦茶ムカつくだろうなと思う。


でも仕方がない。もうこいつに関することはどう取られてもおかしくはない。


悪意には悪意でだ。


しかし家族がありながらどうしてこんなふうなのだろう?


理解できない。


 今までも人を見下して攻撃して結局自分が辞める羽目になってるのに

何の学習もしていない。


杉内君、君は賢くはないのだから。


人を陥れようとかコントロールしようとかしないほうがいい。


 沈黙の羊のレクター博士を思い出したけど君は彼ほど異常ではないし

知能が高いわけでもない。


賢そうにふるまうそのことが自分の能力の低さを証明してしまう。


最後に会社から放り出された事が今までの結果であるのに何度も何度もトライして砕け散る。


 いい加減わからないとダメなのだけれど性質というか習性というものは変えられないのだなと思う。


 子供に対して性的な興奮を感じるものが治らないようにマウントや見下しもそういった類の性癖みたいなものなのだろうか。


哀しい人である。



杉内が退院してから話していた受注が徐々に増えつつある。


今から動けば実際に増えたときに慌てなくても済むのだけれど動きは無い。


様子を見て一週間たった。実際に受注は増えて生産能力を超えた。


何もしない。機械作りましょうかもないし何を考えているのだろう?


翌週。もうこれ以上は待てない。また杉内に機械の作成を指示した。


「前も言いましたけど鴨居さんには指示する資格無いんですよ」


「君にそれを言う資格はないんだよ。おかしいだろう。上司に向かって指示する資格がないなんて。前に言ったけどそれだったら言われる前に動いたらいいのに。わかってて動いていないのかわからずに動いていないのかはわからないけどそのどちらでもダメなことだよね」


「やろうと思ってたんですよ」


「判断が遅いし使い物にならない。遅すぎる。もういいよ。自分が退院してから様子を見てたんだけど前にも言っただろう、観察するって。結局状況は理解していても動いてない。理解できていないのかもしかして? しかも何故僕がやら無いとだめなのかと逆切れしてくる。君は何がしたいのだ? 俺に対しての抵抗なのか? 全く意味がない。ごちゃごちゃ言わずに機械を作れ。それが君の最優先事項だ」


「見本がないと作れませんよ!」


「そんな怒り口調で言うことないだろう。しかもそこにあるのに」笑


「・・・」


「俺に指示されて気分悪いかもしれないけど俺も相当気が悪いからな! どこに運んだらいいんだ!?」


「結構ですよ、自分で運びます!」


「君はまだ腰に負担掛けられないのだろ? それくらい持って行くからどこか言え」


僕がその機械を抱えようとすると横から奪い取られてしまった。


 こいつはどうしようもない奴だ。論理的な思考が出来てない。それに直情型だ。正直お前が機嫌悪いとか気に入らないとか何の関係もない。


仕事を滞りなく進めるだけの話なのに何でこんなにぶつかってくるんだ? 


 それもこれも自分より格下認定した俺に言われるのが相当精神的にしんどいのだろう。


もうダメだなと思ってしまった。





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