初めて出会ったマイルドサイコパス02 ~標準語版~
入社後技術の仕事をしてもらうはずが僕がやっている発注業務に興味を持ったみたいでやらせてほしいと言ってきた。
おそらく前の会社でもやっていたのだろう。
それが何で技術にと思ったが技術上がりの資材担当だったようだ。
他にやるべきことがあり結構な時間を発注に取られていたのでそれを譲った。
譲ってからが問題だった。
まずメールで納期と価格を問い合わせる。
出て来た回答に対してさらに質問をする。
それは別に構わないと思った。人それぞれのやり方があるだろうと思うから。
それに必要なものを必要な時に必要な分だけ入手できれば最低限の仕事は出来ていることになる。
そして注文書を作りFAXした後、注文書をFAXしましたとメールをする。
それに対して注文書への受注承諾の印を押したうえでの返信とメールの返信の両方を求めた。
何かよくわからないがメールのやり取りが増えたなと思っていた。
CCで全部入ってくるからだ。正直このメールを作る時間だけでかなりの時間をかけているしメールの数も半端ない。
正直ゴミメールでしかなかった。
探したいメールも探しづらくなるしメールを作るために会社に来ているのか?
そのことで丸一日発注業務しかできない可能性があったし他社で言う資材的な部署の仕事で、うちの会社ではそこまでは不要である。
また仕入れ先に対しても僕の時には無かった新たなやり取りが増えてしまうことになり何か面倒ではないのかと思っていた。
でもお客さんの立場からそれをされたら対応せざるを得ないだろう。
実際に気心の知れた担当者からは電話があり「鴨居さん、今度の担当の方はかなりきっちりとされた方なんでしょうかね?」
「おいおいそれは私がいい加減だったってことですか?」笑
「違いますよ。今度の方は杉内さんでしたっけ。
メールのやり取りだけですごく時間を取るんですよ。
鴨居さんの時は皆無と言っていいくらいそんなのなくても何の問題もなかったのに」
「ごめんなさい。以前パチンコ関係の会社に勤めてた時の何かあった時の責任を追及されないがためのやり方らしいんです。だから今までの私のやり方がおかしいと批判されましたよ」笑
「そうなんですか。でもそれにしても一回の注文につき必ず数度のメールのやり取りをさせられるのでアシスタントの女性もこの人嫌だっていうくらいです。
おまけに仕入れ先からの報告を待っているのに返事はまだかと電話まで来るので最悪なんです」
「ごめんなさい。もう本当に申し訳ない。私のやり方を批判するくらいなのでこの件に関しては私の言うことは聞きませんし私は自分に任せたんだから好きにしたらいいと言ってます」
「そうですか。鴨居さんだったら何とかしてもらえると思ったんですけど」
「本当にごめんなさい。うちの仕入れ担当の後ろから銃で撃つみたいなことはできないんです。でもそのうち撃ち殺すつもりですけど。そんなに遠い未来じゃないと思うのでそれまで辛抱してください」
「はぁ。わかりました。鴨居さんすみません。変な事言って」
「いえいえ。もう長い付き合いなんだし忌憚なく言ってくれた方がありがたいです。そのうえで信頼関係が成り立ってるんだから良いじゃないですか。これからも言いたいことを言い合いましょう」
「鴨居さんにそんなに言ってもらえたら安心です。ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします」
「こちらこそ。杉内の件は本当に申し訳ないけど、そのやり方を私も観察している所なんです。もう少し辛抱してください」
「はい。わかりました。失礼します」
「失礼します」
この仕入れ先の担当とはもう二十年からの付き合いだ。
彼が困ったときは融通を利いて、僕が困ったときは手を貸してくれる。
どちらかというと助けられたことの方が多いかもしれない。
見返りは求めないし相手を助けたことで自分自身がうれしいと思うのだ。
だから何かやり取りで問題があっても何の遺恨もなく信頼関係で解決してきた。
先にやり取りをするのか後からやり取りをするのか。
正直どちらでもいいと思っている。
杉内のようにメールでやり取りするのもかまわないだろう。
待ち時間があったとしても効率的かどうかは別にして彼にしてみればやりやすいやり方あるいは慣れたやり方なのだろう。
ただ相手に返事を強要しているようなところもあるので強引なのだろうなとは思っていた。
僕はそれを非効率と思っているので一番やり取りが少ない方法で発注業務を行っていた。
つまり実務の中でブラッシュアップされたやり方だという事である。
相手にストレスをかけるのもどうかと思っている。
僕自身発注業務以外にも仕事があるのでそればかりにかかりきりになれないということもあった。
その杉内という男は今まで見た中で一番きっちりしていたが僕から見ると無駄なやり取りも非常に多いと感じていた。
聞くと以前はパチンコ関係のメーカーに居たようでお役所に出す文書やら資料を作るのと同じやり方で仕事をしていた。
「鴨居さんのやり方だと注文書を書き直さないといけないけれど私のやり方だと一回で済む。効率がいい。発注業務には発注業務なりの決められた手順ややらなければならないことがあるのを鴨居さんはわかっていない」
「いきなり批判されて笑うしかないけど、君が注文書一通発行するのにどれだけの手間がかかっているんだ。俺は何のやり取りもなくて注文書一通発行しただけでそれで完結してるけどな」
「そのやり方はおかしいですよ。現に鴨居さんが発行した注文書の金額欄を訂正して送り返された上に注文書を再発行してるじゃないですか」
「再発行してほしいと言われたところは送り返しているだけのこと。全部ではない。
ものは捉えようで、この返信の注文書(受注承諾書)ですべて完結するわけだよ。
金額訂正はあとでソフトを立ち上げて替えればいいし、注文受けましたよって言う確認も出来てるし、なにか問題があるのか?」
「最初に確認さえして置けばこんな訂正する必要もないじゃないですか!」
「だから君は最初の確認だけでどれだけ時間がかかってるんだという話はどこに言ったんだ? 確認したところで変更なんぞ、いつでもありうるし注文書一本出すだけで値段が違えば訂正してくれるし納期も書いて返信してくれる。君も確認のメールが来て注文書発行した後に間違えてましたっていうメールが来て発行し直していたじゃないか。
だから注文書で訂正する手間と、最初に君がメールで聞く手間とかかる時間は俺の方が早いと思っているよ。それにな杉内君のやり方だったら相手の返事が返ってくるまで発注できないだろう。俺は他に仕事抱えてるから君みたいに待つことが出来ないわけ。なんで同じように考えるんだろうな?」
「発注業務は部長であれ平社員であれ同じですよ」
「うーん。だから部長の俺と平社員の君では抱えてる仕事の量が違うだろって言ってるんだけど。俺は俺なりの間違いのない自分のやり方でやってたんだからそれでいいだろう。そしてもう君に発注業務は移管してるんだから好きなようにしたらいいんだよ。また俺にやっぱやーめたって発注業務を戻すつもりなのか?」
「そんなつもりは毛頭ございません。鴨居さんのやり方だと手間が増えるだけなので」
「わかった。よくわからないけど好きにしたらいい。単なる見解の相違だしやり方うんぬんを君に言われる覚えもない。それに俺は人のやり方に口をはさむつもりは無いから。仮にそのやり方は無駄だと言われたら君はどう思うのだ?
直属の上司ではないけれどやり方でもめたのならどちらのやり方が合理的なのかの話になってくる。俺は君のやり方を尊重して何も言っていない。それに対してその業務をしていない俺に対してその業務の批判をしている。おかしくないのか?
だからさっきまた俺に発注業務を戻すつもりなのかと聞いたんだ。君が俺に言っていることは今の俺にとってはただの難癖でしかない。
でもな、なかなか奇妙な絡み方してくるんだなと今までそんな風に認識したけど前の会社をどうして辞めたんだ?」
「えっ。社風が合わなかったからですけど」
「社風って君は何年そこに居たんだ?」
「十年くらいですけど」
「十年もいて社風云々はよくわからんな。それって自分の思い通りにならなかったって事か?」
「何がですか」
「前にも経験あるから言っているけど周りの皆から相手にされて無かったとか違うよな」
この時杉内の表情がわずかに動いた。
「そんなことないですよ。みんな私の言うことはその通りだと聞いてくれてましたけどね」
「そうなんだ。その割には自分が辞めてるのがよくわからないな」
「まっ、いろいろ事情はありますよ」
「その事情が何なのかそのうちわかるのかもしれんな」
「なにもないですよ」
「今、事情があると言いながらなにもないってのがよくわからんな」
「鴨居さんえらい突っかかってきますね」
「突っかかってきたのは君で俺ではない。間違えるな」
「そうなんでしょうかね」
「自分が話したことの矛盾に気が付いてないな。時間の無駄だな」
「はい?」
「なんでもない」
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