出会い 合意

「シン。涙出てきてるで」 


「ごめん。まだつらいんやわ。ちょっと待ってや」


店員のお姉さんが持ってきてくれたおしぼりを目に当てている。


しばらく感情を抑えるためにじっとしていた。 


「ごめんな。俺涙もろいねん」 「かめへん。気にしぃひんから。ほんでほんで」 


(実は促したものの私もウルって来てた。シンの気持ちが痛いほどわかったから)


「声を出したら起きるから声をこらえて泣いてたんや」


「シン、私もなんか切ななってきたわ」


「そうやろ。切ないで。そうこうしているうちに彼女の目が開いたんや」


「シン。シンの顔の描写というか面白いな。

今、彼女が目を開けたところを再現したやろ。むっちゃおもろい」


「それ笑ってくれてんのか? まぁほんでしばらく見つめあってた。 

しばらくしたら彼女の目から涙がこぼれ落ちたんや。 

俺そん時、なんやこいつ俺のことまだ好きなんとちゃうんかと思って。

でも一言もしゃべらへんからわからへんし。 

もう俺も涙ボロボロこぼれてるしもうどうしようもなかったな。 

ほんなら彼女がちょっとベットの上で動いてスペース作ったんやわ。 

ほんでポンポンってそこをたたくねん。俺首振った。あかんって。 

ほなまたポンポンしよるねん。また首振った。またポンポン。首振った。 

四回目で俺が折れて横に寝た」 


「なんや寝たんや」 


「寝ただけやその時は。 そっから間近の彼女の顔を見ながらお互いに涙流して俺ももう耐えきれへんようになって、しゃべってしもたんやわ。忘れようと思ってた。

でもやっぱり好きで好きでたまらない。どうか戻ってきてほしいって言った」 


「ほんでどうなった?」


「首を振られた。 そしてキスされて抱きしめられて。しばらくじっとしてた。

そしたら「して」って言われてん。

俺ももう前回いつやったのか忘れたけど最後やしって思ったんかな。

俺と彼女の二人だけの世界やったから。

そん時に服着てたから彼女の後ろに回って後ろから合体したんや。

でも俺それじゃいかれへんから一回抜いて最初からきちんとしようと思ったけど首振られてしまってそんで終わった」


「なんや中途半端やな」


「ほんまにちんちんの生殺しやったわ」 


「シン・・・。 具体的で驚いたけど。よう言うた。 多分話聞いとったらそのちんちんを入れてもらうことだけが目的やったような気がするわ」


「なんで?」「それはわからんけど何かゲン担ぎとかそんな感じかもしれんな」


「ようわからんな」


「シン! もう彼女は二度と来へんと思う。はよ忘れなあかんと思う。何なら私が相手したげよか」 


(私は何言うてるんやろか。でもこの男はええ男や。一途や)


「コハルさん。冗談でもそんなこと言うたらあかんで」 コハルは立ち上がった。


「シン。見てみ。このボンキュッボンの体を。どないかしたいと思わんか?」


「コハルさん! 俺も一応は男や。 チンコ立ってしまうやないか」 


「シン! 固有名詞は言うたらアカン! 冗談で言うてるみたいに聞こえるかもしれんけど冗談で言うてるんやないよ」 


「コハルさん。もうええ。まだ出会って間無し《まなし》や。そんないきなり出来へんで。俺も失恋の痛手があるんや。ちょっとそっとしといてもええと思うけど」


「あかんあかん。こんなんはすぐに次に行かんとあかんのや。そのほうが絶対はよ忘れられるから」


「コハルさん彼氏はおらんのか?」


「そんなもんおったら飲みにも誘わへんし相手したろかなんて言わへん」


「まあそうやな。ほんなら仮に俺がええとして今から俺んちに来るかと言ったら来るんか?」


「行くよ。どこにでも行く。シンとやる」


「女の子がやるってそんなん生で聞いたの初めてやわ」


僕は周りを見渡した。 みんなこっち見てる。見ながらなんかしゃべってる。


「コハルさん。なんか下品やな。ははは。俺らの話聞こえてる人、眉をひそめてるで。でもありがとうな。今度はコハルさんの話を聞きたいな」 


「シンちょっと待って。私は今スグにでもシンとやりたいねん」


「コハルさん。声がでかい」 


「シン、さん付けはいらん。シン今すぐ切り上げてやりに行こう。私のこと嫌じゃなかったら抱いてほしい」


「コハル。ちょっと待って。自分おかしいぞ。どうしたんや」 「シン。お愛想や」


「コハルちょっと待てって。落ち着け。なんでそんなに急くんや。もっとゆっくりでもええんとちゃうんか」


「シンあかんねん。今すぐがええねん」


「コハル。本気か?」


「シン。お願いや」


(正直少しムカついていた。やらせたると言っているのに何故この男は抵抗するのやろか? 抱きたいと思てんねんやろ? なんか理由がいるんか?)


シンと見つめあっていた。


シンはしばらく考えていた。


(この子はかなり頑固みたいやな。しかも言い出したら引かへん。付き合うたら大変かもしれへんな。でも一途な感じがするな。ええか)


「コハルわかった。ほな俺と結婚するか。結婚するんやったらしたる。どうや」 


「シン。そんなん・・・。ええっ!・・・でも。結婚って! ええっ!」


コハルはしばし沈黙した。


そして「シンが嫁にもらってくれるなら結婚する」


(この男は何を言ってるんやろか? やっぱり条件があったんやけど結婚ってなんやねん。そんないきなりやなんて。びっくりするわ)


「俺はもう好きやの嫌いやのそんな駆け引きなんかしたないねん。愛し愛されたいだけなんや。それが一生続くようにだけ考えていきたいだけなんや。

コハルにそれが判るか?」


(この男はやっぱりすごく一途なんや。私を抱いたら私だけを愛したいと言っている。 これがほんまにほんまの恋なんかわからんけどええかもしれん)


「私はシンの気持ちがわかるよ。 だからお嫁さんになるよ」


「ほんまか?」 「ほんまやで!」 


「よし。わかった。結婚しよう。俺の家に行こう」


(うわ、いきなり結婚しようって。こんなプロポーズあるか? 恋愛も何もしてへんで。ちょっとは気になってたし好きな気持ちもあるけど・・・)


「うん」


「コハル」「なに?」 「とりあえず食べよう」 「うん」


「俺、居酒屋に来るの何年振りやろか」 「そんなに?」 「うん」


「全然飲めへんし、お金もなかったし」


「そうなんや。シン、ここは私が誘ったから私がおごるわ」 


「あかんあかん。楽しかったし、お給料出たところやから俺が払うよ。

コハルさん。さあまだ残ってるから食べよう。 だし巻き頂戴な」 


「うん。私も揚げ出しもらうわ」「どうぞ」


「シン、アーンってしたげようか」 「ほんまに?」 


「うん。じゃあこのだし巻きアーン」 


「アーン。はむっ。 コハルさんに食べさせてもらったらおいしいわ」


「次はシンがしてや」「アーン」 「じゃあウインナー行くわな」 


「うんアーン」「アーン。ぱくっ。おいしい」


「なんか俺ら急に距離が近くなったような気がするな」


「シン。これから私らは結ばれるねんからな。 夫婦の契りをかわすのやで」


「コハル。赤裸々な感じがするな。今からセッ、ウグッ。・・・何するねん!?」 


コハルの手で口をふさがれた。


「シン。その言葉はここでは恥ずかしいやろ」


「なっ!? ええっ!」


「さっきからさんざん、やるやの、するやの言うてたのにその言葉があかんのかいな」


「そらそうや。ちょっと直接過ぎるからな」 


「ようわからんわ。笑 さあ全部食べたし。そろそろ行こか」 「うん」


 立ちあがった時に隣で飲んでた人が「ご結婚おめでとうございます」と声をかけてくれた。


思わず、「ああ、ありがとうございます」と返した。


おまけにコハルも「ありがとうございます」って言いよった。


皆さんカップルの痴話げんかがうまくまとまったくらいに思ってるのかもしれん。


我々は今日の今の今、初めて飲んだんやで。

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