出会い 自己紹介

黒木屋のテーブル席に案内されて向かい合わせに座った。


「いらっしゃいませー。つき出しです。お飲み物何になさいますか?」


「とりあえず生で」 「じゃあ僕もそれで」


「はい、ありがとうございます」


「おつまみは後で頼みます」


「ハイわかりました」


「オーダー通しまーす。生二丁。五番テーブルさんでーす」 


「ハイよー。ありがとうございますぅ」


一瞬見つめ合った。シンとどこかで会ってる? わからん。


「改めて、私は新井小春と言います。二十一歳です。職業はギタリストです」


「へぇ。ギタリストって初めて会った気がする。すごいね。

ギター抱えてるときの服装と違ってなんだかかわいい感じがしますね」


「それって褒めてくれてるんやね」


「そうですよ。けなしているように聞こえますか?」


「ううん。あんまり褒めてもらったことが無いからかな」


「コハルさんもっと自信持って大丈夫ですよ。すごくきれいですよ!」


「ありがとう」 「どういたしまして」


「失礼しまーす。 生二つお待ちどうさまです」 


「ありがとう。すいません、から揚げ二つお願いします」


「はい。から揚げ二つですね。 ありがとうございます」


「オーダー通しまーす。五番テーブルさんから揚げ二つ入りまーす」 


「ハイよー。ありがとうございますぅ」


「お腹がすいちゃって。笑 では僕も。 僕は鴨居伸です。二十四歳です。 しがない会社員です。

出身は和歌山の南の方でそこで高校卒業するまで過ごしました」


「そうなんや。 ウチのお父さんも和歌山やで。大阪寄りの方やけど」


「へぇ偶然やなと言っていいのかどうかわからん。 ははは。コハルさん。まず乾杯しよう」


「そうやね。何に乾杯する?」 


「コハルさんは今日なんで僕を誘ったの?」


「正直姿が消えてどうしたんかなと思ってたから。

何かがあって消えちゃったのかなと思ってたから話を聞きたかってん」


「そうか。心配かけたんやね」笑  「まあね」 


「そしたら二人の再会に乾杯やね」


「そうやね」『かんぱーい』 カチン。まずは生中を飲んだ。


「シン飲まれへんという割には全部飲んじゃったやん」


「うん。早くチューハイに行きたいから」


「そうなんや」


「ビールはあんまり好きやないんです」


「ほな別に最初からチューハイでも良かったのに」


「でも最初はビールって言うのが大阪の条例で決まっているみたいですよ」


「嘘っ! そんなん初めて聞いたわ」


「そらそうでしょう。噓やから」


「シンのアホー」 笑いながら言った。


「でもビールおいしいのになぁ」


「日本で一番売れているだけあってビール好きな人は多いですけど

僕は少ない方に入るんですよ、好みの問題ですね」


「うん。シン。あのな、単刀直入に聞いてもええ?」


「いいですよ。何でも聞いてください」


「元カノとは会えたの?」


「駅では会われへんかった」


「駅では会えなかったけど会えたの?」


「そう。ある日部屋に訪ねてきた」


「ええっ、そうなんや、それでどないになった? またくっついた?」


「なんともならへんかったで。 なんもなく帰って行った。それが最後」


「何しに来たの?」 


「わからん」


「来たときは泣いてたし、色々聞いたけど一言もしゃべらへんかったから何しに来たのかはわからんのやわ」 


「そうなんや、何しに来たんやろね」


「僕が教えてほしいわ。 コハルさんから見て何しに来たと思う?」


「そんなんぜんぜんわからんわ。 私やったら別れた男とは二度と会わへんし会いたくないもん」


「そうなんや」


「でも元カノは会いに来たんや」「うん。一言もしゃべらへんかったけど」


「失礼しまーす。 はい、から揚げ二つお待ちどうさまです。こちら置きますね」


「ありがとうございます。 すみません。チューハイライム一つお願いします」


「シン、私ももらうわ」 


「じゃあ二つお願いします。あと、アサリの酒蒸しと、揚げ出し豆腐お願いします」


「私は焼き鳥のモモとウインナーとだし巻きをお願いします」


「はい。ありがとうございまーす、オーダー後ほど通しまーす」 


「ハイよー。後ほどオーダーありがとうございまーす」


「シン、何年くらい付き合ってたん?」


「19歳の時からやから4年くらいかな」


「長い事付き合ったんやな」


「そうですね。でも何の意味もなかった」


「そんなことないと思うけど」


「結婚したかったから」


「そうか。でもあかんかったんやな。 シン一つ聞いていい? 部屋に来た時やったん?」


「やったって何を?」 


「シン。やったかどうか聞かれたら一つしかないやん」 


「うわっ。 コハルさんがそれを聞くか」


「聞く聞く。教えて。聞かせて」


「やったんはやったけどちょっと入ってすぐおしまいやった」


「シンって早漏なん?」 


「ブッ。えらいこと聞かれるねんな。 違うねん。僕は全く手を出すつもりはなかってん。 だって気になる人が出来たって言われて別れたんやから。

だからそんな気は全くなかった」


「じゃあなんでしたん?」


「成り行きかな」 


「成り行きでするの?」 


「ほんまに成り行きやったな。コハルさん。初めて飲みに来てえらいディープな話から入ってしもうたな。ええの?こんな話で」


「ええのええの。シンと出会ったんはシンが元カノさんを駅で待ってたからや。

それがなかったら私もシンのこと知らんかったから。一応聞いとかなあかんことやなと思ったから」


「ごめんな。なんか気を使わせてしまったみたいで」 


「気にしんといて」


「失礼しまーす。チューハイライムお待たせしました。

こちら置きますね」 


「はいありがとうございます」


「ジョッキ下げますね」 


「はい。ありがとうございます。コハルさんはずっと茨木なん?」


「そうやで。私は茨木生まれの茨木育ちやねん」


「そうなんや。 僕が茨木に来たのは一年くらい前やねん」


「そうってシン。ちょっと待って。さっきの話から話題変えようとしてるやろ」


「あぁ。わかったんや」 


「わかるよ。 だって私、興味あるから聞いてんねんもん。

先の話が聞きたいのにつながりのない話に飛んだからあれって思ったよ」


「コハルさんなかなか鋭いなぁ」


「小さな声で言うけども、エッチなことって興味あるやんか」


「えぇ。うらわかき乙女にそんなこと言われたらドギマギするな。

でもそんなにエロい話でもないんやで」


「シンもお酒が入ると敬語が減ってくるんやな」


「そうやな。ごめんな」


「かめへん。私もともと敬語ちゃうし」


「ははは。そうやな。年上にタメで話すなんて自分に自信があっていいなと思ってたよ」


「そんな風に思ってたんや。でもシンのこと年下やと思ってたから。実際の歳、聞いた今でも年下としか思われへん」笑


「背も高いしな。ほんまに俺のほうが年下みたいや。

コハルさん。今度からがあるのか知らんけれどお姉ちゃんって呼んでもええか」 


「あかんあかん。コハルでええよ。呼び捨てでええねん。変なところで気ぃ遣うたらあかんで。ほんで話もどそう」 


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