シンのギター6

JR大阪駅に着いた。


エレベーターで上がって行く。登っていく。どっちなんやろう。


そして京都高槻方面のホームに降りて行く。


「コハル、快速と普通と停まってるけどどっちにする?」


「そら快速やで」


「でもえらい並んでるやん」


「まあええやん。はよ着くねんから」


皆が列車の中に入っていく途中で気が付いた。


「コハル、もうすでに満員電車状態になってるで。俺ギターが心配やわ」


「そうやな。普通に乗ろか」


「せっかく買ったギターを押しつぶされたら泣くに泣かれへんからな」


「よし普通に変更や」


二人で普通電車に乗り込んだ。


「コハルここ空いてるから座りや」


「シンありがとう。シンも隣に座ったら?」


「俺はええねん。ギター背負ってるからな」


「うん」


「ほんでコハルの顔が立ってたら見えるやろ」


「もうシンはほんまに私の事が好きなんやね」


「そうやな。でも声が大きいぞ」


「そうかな」笑


「そうやで」笑


「シンあれやな。ギター背負ってるとチラチラと見てくる人がいるな」


「えっ、そうか。そうでもないような気がするけど」


「芸能人かもしれんって思うのかもしれんな」


「それはないわ。俺は誰にも似てないし」


「まあそうやな。ギター背負ってるくらいじゃあな」


「でもコハルは俺と一緒になる前とかはギター担いでうろうろしてたんやろ」


「シンうろうろはしてないよ。ちゃんと目的の場所があって移動してるねんから」


「そうか。言い方が悪いな。ごめん。ナンパとかされへんかったん」


「声を掛けられることはちょいちょいあったけど九割がたはギターがらみで声を掛けられてるな」


「そうか。じゃあ一割くらいはナンパか」


「そうやな」


「まあでもそれは仕方が無いな。ええ女やもんな」


「でも声を掛けてくる人っていろんな人がおるわ。今じゃ誰一人声を掛けよらんけどな」


「ええやん。俺がおるんやから。でも一人やったらわからんな。声かけられると思うで」


「そうかな?」


「うん。だって明らかに人妻やとわかってるのに声かける人もおるんやから」


「そうやな。もうケダモノやな」


「まあそんなのにホイホイついていく女の人もおるからな。俺は声を掛けること自体恥ずかしいと思う方やけど何とも思ってないやつもようさん居てるからな」


「そうやな。シンは私に声かけられたんやからな」


「そうやな。でもよかったわ。 コハルがいろんな人に声をかける人やったら

俺らは今頃一緒におれへんで」


「そうかな?」


「そうかなって俺浮気するのもされるのも嫌やからな」


「それは私もおんなじやで。シンが手あたり次第声かける男やったら一緒におるとは限らんな」


「えっ。限らんのか?」


「難しいところや。本気で惚れてしもうたら浮気されても一緒に居るかもしれんなぁ。わからんけど」


「コハル」


「なあに?」


「実は」


「えっ!シン嫌やで」


「何が」


「何か告白するつもりなんか?」


「いやそんなんやない」


「なに?」


「早くイカ焼き食べたいな」


「ふぅぅぅっ」


「どうしたコハル」


「どっと疲れたわ」


「コハル、俺に限って何かあることは無いで」


「そうやとは思う。思うけどどうなんかなと思って」


「その辺は心配しなくても大丈夫やで。デート位はするかもしれんけどそこから先は絶対にないから」


「シン、デートはオッケーなんか?」


「そうやな」


「そうか」


「どうしたコハル。デートはアカンか。あかんのやったらそれも無しでもええ」


「シン何か予定があるの?」


「なんもないよ」


「じゃあ私が誰かとデートしに行くのはどうなん?」


「それはイヤやな」


「そうやろ。自分はええけど他の人はアカンのはってシンはいつも言うてるやん」


「これは一本取られましたな。その通りや。デートもせえへんで」


「まあもしそんなことになったら相談してみて。考えるからな」


「まあないわ。全部断るから」


「そうか? 私がええと言ったら行くやろう」


「いや行かへん」


「ほんまに」


「うん。もし行くのやったらコハルも連れて行くわ」


「シンそれはびっくりな発想やな」


「そうかな」


「まあその時が来たら考えよう」


「うん。その機会があったらな」


「うん」


「まあとにかく真面目なコハルにナンパされてこうやって一緒に居れるのは最高やなと思ってるよ。ほんで小さい頃からつながってたんやからな」


「そうやな。ほんまに良かったよ」


「うん」


シンとしばし見つめ合った。


「なんかアツアツやな」笑


「そうやで。大好きやからな」


「シン声が大きいわ」


「だって自分の声が聞こえへんねんもん」


「まあ仕方が無いな。でもうれしいよ」


「うん。ほんまの事やからな」


「うん。私もやけど」


「うん」


JR茨木についた。


今はICカードでピッとかざすだけで改札を通過できる。


便利な世の中になったものだ。


「さてお母さんのおまんじゅうを買わんとあかんのやな」


「お母さんの大好物の茨木祭りまんじゅうを買うてきてって言われてん」


「そうなんや。確かにここでしか買われへんもんな」


「うん。茨木山下堂本店やねん。でもここしかないのにな」笑


「そうや。店員さんに支店とかあるんですかって聞いたら無いって言ってたからな」


「そもそもお母さんの友達やからな」


「そうなんや」


「まぁー!コハルちゃんやないの!」


「ああー、おばちゃん。おひさしぶりです」


「元気にしてんの?おかあさんは?」


「今日は来てないんです」


「そうなんや。この人はもしかしてコハルちゃんの旦那さんか?」


「どうも初めまして。コハルがいつもお世話になっております。鴨居と申します」


「あらー男前の旦那さんやないの。コハルちゃん面食いやからねー」


「そんなことないですよ。おばちゃんいややわー」


「コハルそんなことないですってどういうことやねん!」笑


「まあまあ旦那さん上手に突っ込むねぇ。今日は何箱くらいいっとく?ちょっとお愛想してあげたから五箱くらい行くかしら」


「おばちゃん恐ろしいわ。一箱でいいですよ」


「あらそうなん。でもこれ一箱おまけしとくからね。旦那さんも食べてね。多分コハルちゃんのお母さんは一人で一箱食べるからね」


「おばちゃん良く知ってるんやね」


「当たり前やん。小学生の頃からウチに来てお饅頭食べてるんやから」


「そうなんや。お母さんの知られざる一面を知ってしまったな」


「おばちゃん、この分もお金払うよ」


「コハルちゃんええよ。おまけしとくから」


「おばちゃんあかんで。ちゃんと払うから」


「コハルちゃんももう言い出したら聞かへんからね。ほんまにありがとうございます」


「どういたしまして。おばちゃんとこのお饅頭は日本一おいしいからね」


「コハルちゃんありがとう。もう一個足しとこか?」


「いやもういいです」


「そうか。ようけあるのにな」


「また次に来た時にするわ」


「うん。また来てや。お母さんによろしゅう言うといて」


「はい。おばちゃんありがとう」


「ありがとうございました」


「なかなか陽気なひとやな」


「そうやな。旦那さんが亡くなってから苦労したって言ってたけど元々明るい人やからそんな事おくびにも出さへん。立派な人やと思うよ」


「そうなんや。でもさみしい感じはあるな」


「そらそうやろ。私かてシンが死んだら明るくはふるまうけど一人になったら泣いてるやろうな」


「コハル切ないこというなや」


どこかに出かけて帰ってくるとロサビアを一周して家に帰るのがルーティーンになっている。


縄張り巡回みたいなものか。

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