シンのギター5


「チーン」


「シンまた言うたな」


「もう口癖やな」


「シンの初めての本格ギターやっと手に入ったな」


「そうやな。こうやって街中をギター背負って歩くのはちょっと恥ずかしいような気がせえへんわ」


「なんやそれ」


「なんかしっくりくるな。やはりギターを弾くために生まれてきたんやろか」


「シン、それは無い」


「ないか」


「無い。 シンは私と一緒になるために生まれてきたんやからね」


「そうか。そうやったな。俺はコハルと幸せになるために生まれてきたんやな」


「シンそうやで!」


「コハル愛してるよ。ギター買ってくれてありがとう」


「ううん。一緒に頑張ろうね、シン。愛しているよ」


「ここでは出来へんな」「そうやな、家でしよう」


「そうしよう。次は阪神百貨店やで。イカ焼きやで」


「うん。ちょっとだけフロアも見てみようや」


「そうやな。レディースの階に来たけど何やら高そうな雰囲気がするな」


「シンここは大阪の中心やで。色んなお金持ちが集まってくるんやで」


「そうか。あの人もそこに居る人もみんなお金持ちなんか」


「みんなとは限れへんけど多いやろうな。でも阪急の方がもっと高級やで」


「そうなんか。俺には全然わからんわ。でもお金があったらホイホイ買うんやろうな」


「そうやな。結構買い物ってストレス発散になるからな」


「コハル何か欲しいものある?」


「無いよ。欲しいのはシンだけや」


通りすがりのショーケースをコハルが覗いている。


「うん。でも何かネックレスとか指輪とか鞄とか何かないの?」


「なんもないよ。私もこういうところではあまり欲しいなと思うことが無いねん」


「そうなんか」 (その割にはさっきのネックレスはじっくり見てたな)


「うん。どっちか言うたらイオンとかの方が好きやな」


「そうか。でも何か欲しいのが出来たら言うんやで」


「うん。ありがとう。シン、ちょっとトイレに行きたい」


「わかった。プラプラしとくわ」


「うん」


 さっきアクセサリーのコーナーでコハルが見ていたネックレスをもう一度見に来た。


これは蝶々やな。なんでやろか。


「すみません。これ見せていただけませんか」


「はい。少々お待ちください。 はいどうぞ」


「ありがとうございます」


「プレゼントですか?」


「はい。どう考えてもそうですよね」


「そうですね。女性向けですからね」


「お姉さん、なんだかおもろいですね」


「お客様、おもろいですねなんて言われたら困ります」


「ほらやっぱりおもろいわ」


コハルからメールが来た。


シンごめん。トイレがすごく混んでて違うフロアに行ったんやけどそこも混んでて大丸に行きます。ちょっと待っててください。


トイレってそんなに混むもんなんか。 了解。待ってます。ごゆっくり。


「はい。ごめんね。これ嫁さんに買ってあげようと思って」


「そうなんですね。ありがとうございます。奥様へのプレゼントでしたらこちらのほうがよろしいかもしれませんが」


「またまたお姉さん。高いの売ろうとして。僕そんなにお金持って無いんでこれでいいんですよ」


「わかりましたか?」


「そらわかりますよ。やっぱりおもろいですねお姉さん」


「褒められてるんでしょうか?」


「褒めてますよ。おもろいという事はすべてにおいて優先されます」


「そうなんですか?」


「はい。一緒に居ても黙っていても面白ければ退屈しません」


「褒められている気がしません」


「お姉さん。僕が独身なら口説いていますよ。嫁さんがいるのでそんなことしませんけどね」


「本当ですか」


「はい。波長が合ってますからね」


「あっ。それは私も感じていました」


「でもここまでです」


「残念ですね」


「これいただけますか?」


「はい、お買い上げありがとうございます。お支払いは現金ですか?」


「カードでお願いします」


「さっきお金持って無いからって・・・」


「うん。持って無いからね」


「・・・。 あっ。すみません。ありがとうございます。ラッピングなさいますね」


「はい。かわいいのにしてくださいね。それと大至急でお願いします」


「はい。少々お待ちください」笑


コハルが帰ってくる前にもらいたい。早く!早く!


「お待たせしました。ありがとうございます」


「お姉さん、楽しかったですよ」


「私もです。またいらしてくださいね」


「機会があったらね」


「はい。ありがとうございました」


「じゃあね」


なんだろう。波長が合う人ってちょこちょこいてるんやな。


大学を出ておそらくいろんな意味で俺とは違う世界の人なのだろうけど

最後はフィーリングとなんやろかな。


何の壁も感じずにすらすらと話が出来てしまう。


 コハルは話しかけてくれたから話が出来てたけど自分からは声を掛けたりは出来なかったし存在に気が付いてもいなかった。


初めて会った時もその後も違う世界の人だと思っていた。


思い出してみればあの頃のコハルはちょっと目がきつかったな。


不思議な感じがする。


このネックレスはギターのお礼のつもりで買ったけど渡すタイミングが難しいな。


まあでも考えよう。コハルの喜ぶ姿が楽しみだ。


コハルからメールが来た。


シンごめん。今からそちらに向かいます。


了解。気を付けてな。


はい。


しばらく待っていると


「シーン。ごめんね。お待たせ」


「うん。今日はすごい人出やもんな。阪神が優勝しただけのことはあるで」


「ほんまに。しかし阪神夏に優勝するか!あんまり興味ないけどここに来たら優勝したんやなって思えるな。でもこんなところでこんなにトイレに苦労したの初めてやで」


「男やったらその辺で出来るのにな」


「いくらシンでもそれは無理やろ。だってどこもかしこも人の目があるんやから」


「まあそない言われたらそうやな」


「シン、メンズのフロアにも行ってみようや」


「ええわ。それよりももう早く家に帰りたい。イカ焼き買って帰ろうや」


「うん。じゃあ地下に行こう。こっちやで」


「コハルはちゃんと場所も知ってるねんな。すごいな」


「まあね。何回か来てるしな。あそこやで」


「うわぁ並んでるやん」


「意外と早いと思うよ」


「そうか。何人くらい並んでるんか数えてみよう。一二三四五六七八九十であれくらいやから三十人くらいやな」


「そうなんや。そんなに並んでるんやな。でも並ぶで」


「はい」


「お店の人も慣れてるんやろな、枚数言われたらすぐに金額を返してるわ」


「そうやな。今の人のイカ五枚にデラ6枚とかでもさっと金額言ってるもんな。すご

いな」


「何枚買おうかな。私らの分と詩と花とおじいちゃんとお母さんで六枚づつか」


「おいしかったらまた買いに来ようや」


「そうやな。おいしかったらな」


「なんか引っ掛かるな」


「人によるからな」


「そうか。帰って食べるのが楽しみや」


「うん」


「コハル、取引先の人に大阪生まれの大阪育ちですかって聞いてみたんや」


「うん」


「そうですよっていうから阪神のイカ焼き知ってますか?って聞いたら知ってるって言うねん」


「そらそうやろ。知らんかったらおかしい」


「俺聞いて回っていつか俺と同じで知らんっていう人見つけようと思うねん」


「そら壮大な目標やな。大阪生まれで大阪育ちの人に知らん人はおらんと思うけどな」


「まあまあその話はええわ。でもその人が子供の時に食べたイカ焼きは今のと違うらしいで」


「ええ、そうなん」


「うん。昔のはだいたいは今と同じらしいけど味が違うって言ってたわ」


「そうなんや。味が違うん?」


「そうみたいやで。そない言ってたわ」


「へぇーどないに違うんやろか」


「わからんな。さあ順番が回って来たで」


「お待ちどうさまです。何にしましょう?」


「イカ六枚とデラ六枚で」


「はい。ありがとうございます」


店員のおばちゃんが袋に入れてくれた。


「さあ帰ろうか」


「おうっ」


「この辺りもあんまり来たことないけどだいぶ変わったな」


「そうやな。再開発してるからな」


「俺初めて取引先の人に飲みに行きましょうって言われたとき、場所なんかわかりま

せんよって言ったら改札出てすぐの所で待ってますから大丈夫ですよってほんまにここで待っててくれたんや」


「そうなんや。優しい人やったんやね」


「そうやな。何を食べたか忘れてしまったけどな」


「まあでもたまにはこういうところに来て飲んだり食べたりするのもええかもしれんな」


「まあ自分でこようとは俺は思わんけどな」


「そうか。私もそうやで。シンとやったらどこでもええねんけどな」


「コハル、でもそのうちデートしに来ようや」


「シン、ほんまに」


「うん。一緒になってから俺の人混み嫌いに合わせてくれてたんかな。コハルごめん」


「ううん。そんなことないよ。でもシンが一緒に行こうって言ってくれたらどこにでも行きたいねん」


「そうか。じゃあほんまに予定しよう」


「うん。楽しみにしてるわ」


「浜省の歌みたいに子供たちをコハルのおふくろに預けて出かけよう今夜やな」


「シン、ええ感じやで」


「うん。踊らなあかんな。踊られへんけど」


「夜明けまでな」笑


「そうやな」笑


「でもシン、あの踊ろうはエッチしようやの言い換えやと思うねんけど」


「浜省やったらそれくらいの意味は含んでるやろ。でもさすがは浜省、全然いやらしくない。これが聞き手に想像させる素晴らしい詩なんやで」笑


二人で他愛もなく笑い合っているこの瞬間がとてもすてきだと思った。


シン愛してるよ。







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