初めて出会ったマイルドサイコパス08 対決 ~標準語版~




そして週明けの月曜日いよいよその時がやってきた。


会議室で予定時間よりも早い時間に入って杉内を待つ。


「失礼します。あれ? どうして鴨居さんと課長が居るんですか?」


「君の事で社長に相談したら今日のこの時間に君と社長が打ち合わせをするからその時一緒に話をしたらと言われたんだ」


「・・・」


「杉内君は社長に今後の事を話すという事らしいけど何を話するのだろうね?」


「社長。同席してもらってもかまいませんけど私かなりきついことも言うつもりですけど良いんですか?」


「いいですよ。私がお願いしたのだから」


「そうですか。でも鴨居さんも僕に話があるんですよね。何でしたらそちらから先に話してもらってもいいですけど」


「そうか。いいのか? 本当にいいの?」


「いいですよ。社長が良ければいいと思いますよ」


「社長どうですか?」


「じゃあ鴨居さんから行きましょうか」


「はい。では私から話します。一つ言っておきたいのは社長も技術課長も私の味方ではないという事。第三者的に話を聞いてもらおうと思っている。君が入社後に私に対して行った言動や課長に対する言動。それに仕事の内容と君が入院中に送って来たメールの真意について伺いたいと思っている」


「それはつまり僕の言動に問題があるという事ですよね」


「その通りだ。問題大有りで今後それを継続されると会社がうまく回らなくなると判断している。基本的には協力協調だけれど君は違うようだから」


「至って普通のやり取りしかしていないと思っていますけど」


「とりあえず始めさせていただきます。まず君は技術課長の後任として入社したのだけど課長から技術に関してどの程度習得できているのかざっくりとで構わないので言ってみてほしい」


「鴨居さんそれは難しいですよ。基準になるものがないから答えようがない」


「例えば基盤の回路について今まで機械の修理もやってきたと思うけどどこをどのように改良していったらいいのかとかどこが故障しやすいとかそういうのは把握できているのか?」


「出来ていません」


「修理をしたことはあるの?」「ありません」


「何故?」「私には不要と判断したので」


「私が指示したことに従わずに修理をしなかったということだな。一度もしてないのかな?」


「していません。私の仕事ではないので」


「君の仕事の範疇には改良も含まれている。どこがよく壊れるとかどのように壊れるとかそういうのがわかっていないのに改良って出来るものなのか?」


「改良って基盤をコンパクトにするとか安く作るとかそういう意味だと思ってましたけど」


「思ってましたけどじゃないんだよ。その程度なら基板屋さんに丸投げしたらコンパクトにもなるし安くもなるだろう。じゃあ君は何のために雇われたのだという話になるだろう。しかも君と雑談しているときにいろいろ話したと思うけどな」


「正式な依頼を受けているわけでは無いのでね」


「ほうそれは何か。私が上司として口頭で君に指示したことや話したことは正式な依頼ではないという事か」


「そうです」


「入社する前の面接でも社長の前で技術課長が話したと思うけれどそれも聞き流したか忘れたのか?」


「何を言われたのかはもう記憶にありません」


「そうか。うちの会社にそんな仕組みがあるって初めて知ったけど正式な依頼ってどういうことなんだ?」


「正式な依頼も知らないんですか?」


「うちの会社では聞いたことがないから聞いてるんだよ。例えば?」


「そうですね。依頼書でも作って出したらいいじゃないですか」


「あのな。そんな仕組みはうちに無いのだ。だから指示したことイコール依頼であり命令なんだ。いちいち文書で出して欲しいって君は外注さんか。それとも社員ではないのか」


「外注ではないし社員ですよ。頼みごとがあるのなら頭を下げて頼むべきですよ」


「わかった。それが君の言う正式な依頼という事でいいんだな」


「普通そうでしょう」


「普通かどうかは知らない。悪いけどな。今のは何が言いたかったのかというと今の話を聞いて何もできていないという事が確認できた。私が認識できている君の仕事は仕入れと機械を組むことくらいだ。おまけに口頭では受け付けないと来てる。

それも今の今初めて知った事だ。つまり技術課長の後任としての引継ぎができてないという事になる」


「ちょっと待ってくださいよ。何もしていないとは言ってないじゃないですか」


「だから最初に聞いただろう。何を聞いているんだ。同じことをまた言わせるつもりか。面倒な」


「鴨居さんそんなこと言わないでくださいよ」


「あのな、聞かれたことにもまともに答えられ無いのだからどうしようもないだろう。今までのやり取りを社長や課長にも聞いてもらっているがとても上司に対しての受け答えではないと思っている。そりゃ見下してる相手から言われたら反発もしたくなるわな」


「見下してなんかいませんよ」


「ああ、自覚がないのだな。見下していないのであれば何故私に対してああすればいいとかこうすればいいとか言うのだ?  その理由が思い浮かばない。私が指示したことで君に指示されることなど何もないと思うけどな。」


「・・・」


目を見据えて杉内の返事を待つが何も話さない。


「次の話に移ります。受注状況を鑑みて杉内君に機械の製作を指示したのだけれど鴨居さんは製作できないのだから指示する資格がないと言ってたけどこれどういう事? 未だにわからないのだけど今もそう思っているのだろうか?」


「機械を作れない人に作れと言われたくないだけですよ」


「そしたら社長が作れと言ったら作るのか」


「作りますね。一番偉い人だから」


「あのな。さっき機械を作れない人に指示する資格はないと言ってたな。社長は作れると思ってるの?」


「それは知りません」


「社長、機械作れますか?」


「作れません」


「作れるかどうかもわからんけど社長の言うことは聞きます。鴨居の言うことは聞けませんという事だな」


「だから資格がないんですよ」


「私は言っていないだけで機械を作れるからな。君の事を観察すると言ったのははっきり言って信用できないからそう言っただけの事だ。それに資格のない私が作れと言って渋々作ったのは何故なんだ。それもおかしいだろう」


「怒られたから仕方なくですよ」


「君は子供か。子供よりも質が悪い。私は会社を良くしようとして頑張ってる。お客さんに喜んでもらうことが最後には会社の発展につながっているとそう思って仕事してるわけ。だから自分の時間がなくて出来ないことを部下に指示してやってもらっている。決して無理強いしてるわけではないし出来ないことをやれと言っているわけでもない。これがもし誰も私の言うことを聞かなかったら最終的に会社が傾く事態になる。それを個人的な小さな物差しで測られて、挙句の果てに資格がないとか訳の分からないことを言って、やろうとしない君は会社の業績の足を引っ張っている訳だ。そもそも君自身にするしないの選択肢はないのだ。それでもできないのであれば納得のいく理由を言えばいい。しかし資格がないってその資格うんぬんは君だけが思う資格なのだろう。それを言われて社長も課長も納得するのか? それわかっているのか?」


「そんなことないでしょう。鴨居さんの言うことを拒否しただけで会社が傾くなんてことは無いと思いますよ」


「杉内君。君は自分で何を言ってるのかわかっているのか。僕は鴨居さんを信頼して会社の中の事を任せている。鴨居さんの言うことを聞かないというのは最終的に社長である僕の言うことを聞かないというのと同じことだ。それわかって言ってるの?」


「社長、僕はそこまでは考えたことはありません」


「話にならんな。それに君が言う資格もハイそうですかとは到底言えない理由だ。やる気がないと思うね」


「社長、あと私が話していいですか?」


「どうぞ。お任せしていたのにすみません」


「いえ。杉内君、君の勝手な判断で業務に支障が出ている。これは私の評価だ。いいか。支障が出ている。そこを理解して。私が必要だと判断して君に指示したことを今後も資格がないとかそんなくだらないやり取りをしなければならないのなら少なくとも私は君が不要である。いらないしいなくても何の問題もない」


「・・・」


「わかっているのかそうでないのか全く分からないけど次の話に行きます。技術課長の事を発達障害と言ったことについて聞きたい。具体的にそう思った理由を答えて」


 この時杉内は驚いた顔をしていた。まさかそんなことまで言われるとは思っていなかったのだろう。


技術課長もムッとした顔をしている。


「ネットで調べたら当てはまる症状があったのでそれで発達障害ですと言いました」


「はっきり言って課長の言動や態度、考え方に何の問題もないわけではない。しかし医者でもない君が言う事では絶対にない。本来仕事を教えてもらう技術課長とはもっと打ち解けて細かいノウハウまでも吸収するべくその人間関係の構築もすごく大事な事だと思う。今までも技術課長に対する態度は見させてもらっているけど

よく殴らずに我慢されているなという印象しかない。杉内君に課長が説明すると訳の分からん屁理屈をこねて結局は課長が黙ってしまう。それって課長も悪いけど杉内君は課長からは何も得ていないという事になるのじゃないか。理解しようとしていないと思う。それわかってるの?」


「だって聞いたことにまともに返事してくれないんですから仕方ないじゃないですか」


「少なくとも課長は君にわかってもらおうとかみ砕いて説明しようとしてるのに、かぶせる様に杉内君が話するから課長もだんだん話するのが嫌になったんだろうな。君の態度は少なくとも教えてもらう側の態度ではない。理解しようという努力が全くない」


「努力が全くないことは無いですよ。質問に答えられないのは課長のほうなんですから」


「あのな。何でもそうだけど教えられるレベルというものがある。エンジンの事を何も知らない人に教えようとして知らない人にいくら言っても理解できないのだ。ある程度知っている人間としか話にならないんだよ。君が課長の話が分からないのはそのレベルに達してないからだと私は思っている。つまり出来ると言って入社したものの出来なかったという事になる。私が教える立場で君みたいなのが来たらもう要らないって言うだろう。それくらいひどい」


「鴨居さんがそう言うのだったらそうなんでしょうね」


「なんだ開き直りか。明確な根拠もない状態で人に病名を付けるべきではないと言っている。それは失礼な事だとその歳になってもわからないのか。君は私の事を手なづけやすい人間だと思ったかもしれないけど最初からセンセーショナルなこと言う君みたいなのはどんな他人にとっても最も警戒するべき人間だと思うけどね。君自身自覚があるのかどうか。それを分かっていないのだと思う」


「それは自分でもよくわからないですね」


「今後君と付き合う人の事もあるからこれ以上のことは言わない。君と同僚になった人間は大変だったはずだしこれからも大変だろうと思う」


「どういう意味なんですかね」


「君自身が君自身の正体を実はさらけ出しながら人と接していることに気が付いてないみたいだから」


「鴨居さんが何を言いたいのかさっぱりわからないですね」


「じゃあそれでいいと思う。ハイ次の話に行きます。君が入院中に送って来たメールの話だ。あれはどういう意図で送って来たのか。社長宛と私宛があったけどまず社長にあんな失礼なメールを送ったのはどうしてだ?」


「今私は何を書いたのか覚えてないですよ」


「じゃあ読んで上げよう。社長は社員に対してもっと厳しくあるべきですうんぬんかんぬんうんたらかんたらどうちゃらこうちゃら・・・。優秀な社員を雇ってください。というメールと製造に関するメールだ。どういうつもりで送ったんだ?」


「いや、ただ思いつくまま送ったんですけど」


「それって自分がこんなこと考えてますよって言うのはわかるんだけど抽象的すぎて中身がない。具体的に社長にどうしてもらいたいのだ?」


「いや、どうしてもらいたいとかそこまで考えてませんでしたけど」


「してもらわなくてもいいのに具体的にどうしたらいいのかわからない事をして欲しいとメールで送ってるわけだ」


「・・・」


「意味わかってるか?」


「よくわからないですね」


「具体的にどうしたらいいのか言うのならわかる。例えば私に対して仕事の進め方がよくわかってないみたいだから自分が教えてやったのに一向にそうしようとしない。これは会社にとって不利益ですって言ってるわけだ」


「そうですね」


「君は私を仕事ができない。会社に利益をもたらさない人間だと思っているわけだ」


「そうですね」


「じゃあどうすれば利益をもたらす人間になるのか具体的に言ってみろって言ってるんだよ。私は君に何かを教えてもらった記憶がないんだ」


「そんなの言える訳がないじゃないですか」


「言える訳がないことを教えてやったと書いているんだ!そのうえで不利益だと言ってるわけだ。じゃあ私はどうしたらいいのか聞いてるんだよ」


「・・・わかりません」


「何の意味もないメールを送るな。わざわざ読むだけ時間の無駄だろう。くだらない」


「・・・」


「社長は私に対してそのようなことを思ってますか?」


「いいえ。全く思ってませんよ」


「聞いたか杉内君。社長は君がメールに書いたようなことは思っていないという。君のゆがんだ価値観で評価した人間の事を君の思うように社長に思ってもらおうと思ったらそれなりの信頼関係が必要だと思わないか? あのメールに書かれている私に関する内容は君のゆがんだ価値観の押し付けでしかないわけだ。それを社長に何とかしてって言ってるんだ。おかしな話だと思わないか?」


「おかしいとは思わなかったですけどね」


「まあ、わからないからあんなメール書いたのだろうけどわからんのだろうな。

次行きます。技術課長の事を心の病気と言い切っている、会計ソフトの話、AIやサブスクの話、スマホやタブレットの話。どれもこれもただの雑談程度でしかも全く中身がない。会計ソフトの話なんぞ使った事もない君が何故これが良いと言えるのか。根拠は?」


そんな感じで一つ一つ話を聞いて行ったがどれも聞くに値するような内容の補足は無かった。


「しかしこんなメールを送って社長がどう思うのか全く考えてないのだな。

私に対して主語がないだの述語がないだの言っておきながら社会人としての最低限のルールすら守れてないじゃないか」


「何が守れてないんですか」


「相手に対して失礼にならないかどうかだ!これほどまでに社長を舐めてる文面は見たことがない。おまけに自分の名前すら書いていないじゃないか!」


「鴨居さんに宛てたつもりですけど」


「君、言ったら悪いけど相当バカだな。社長に宛てて送っているだろう。私はCCだろう。何の言い訳にもならん。この文章を相手に送ってもいいか悪いかの判断すらできてない。わかってない。それが驚きなんだよ。その人間が私にえらそうに講釈垂れているのだから大したもんだと思っているわけだよ」


「いやいや大したことじゃないですよ。当然のことを言っているまでですから」


「杉内君! 君は今、鴨居さんに失礼なことを言うなと言われたばかりだ。当然その内容についてだけどたかだか入社して一年半、仕事もまともにしていない、何の信頼関係も築けていない君が何の権限があって鴨居さんに意見するのか全く理解できない!」


「・・・」


「しかも大したことないし当然の事って何を言ってるんだ!」


「社長ありがとうございます。ちょっと落ち着きましょう」


「すみません。ちょっと言ってることがおかしいからね。本当に見下してるんだね。信じられないよ」


「・・・」


「次にこれ最後にするから。製造キャパの話だ。あのメールの内容を読んだ時なんと短絡的な結論を出すんだろうと思ったわけ。君が出した製造キャパは月に十台だ。私が出した製造キャパは二十五台だ。なぜこんなに違うんだろうな。どう思う?」


「私はただ過去の資料を参考にしただけでその資料から読み取った数字なだけです」


「あのな。数字を読んで社長に俺は賢いと思ってもらおうとしたのはあの文面からひしひしと伝わってくるからそれはよくわかる。でも何の意味もない。でももし社長があれを信じたらとんでもない話なんだ。人を雇う。外注を頼む。不要なお金を使わなければならなくなる。あんなでたらめな短絡的な結論をよく社長に報告する気になったもんだなと思ったんだ。しかも聞かれてもない事で」


「技術会議の時に新しい機械の生産が間に合わないという話をしていましたけど鴨居さんから一向に大丈夫という話が出なかったので」


「まあ私もちょっと悪かったかもしれないけどな。それを言うと多少会社に対する批判にもつながるから言ってなかっただけの事。君に対する返信メールにその辺りの事は書いた。でも不思議なことにそのメールに対する君からの反論が全くなかったんだ。それはどうしてなのだろう?」


「僕が調べていないことが書かれててその上で出した数字というのがわかったからです」


「つまり君が出した数字は根拠があってないようなもの。私の出した数字は根拠に諸事情を加味して実際に導かれる数字が書かれてたという事だろ」


「そうです」


「落ち着いてゆっくり考えれば誰でも出せる数字を君は短絡的にとらえてしまったがためにあんな数字になったわけだ。しかも間違った数字だ。社長が信じて動いたらどうする。俺もバカであれを信じたらどうするんだ。私は悪くないですよと言い訳するのか?」


「鴨居さん、最終的に判断するのは社長ですよ。最後に責任取るのも社長ですよ。僕に責任なんて取れるわけがないじゃないですか」


「それを無責任というのだ!よく覚えてろ。実際に作ってる人に聞いたら済む話も全く聞いてない。こんな少人数でコミュニケーション取れないのも珍しいですよって書いていたけど君自身の自己紹介だったとは思わなかったよ。なあそうなんだろう」


「・・・」


「君の意図がよくわからないけど他には技術と営業の対立とか私と技術の対立とか、しきりにそういう構図を作り出してあおっているけどどういうつもりなんだ?」


「それは実際鴨居さんや営業が技術に対して無理な話や約束を反故にするようなことを言ってくるからですよ」


「例えばどんなこと?」


「納期が決まっているのに早くしてくれとか。製造の都合を考えずに納期短縮を言ってくるとか」


「杉内君の対立の構図の原因が納期短縮にあるのはわかったけどなんでそれがダメなのか教えてくれ」


「納期短縮になるとバタバタするからですよ。他の自社の機械も予定が組めないし。そもそも大口のお客さんに対する予定が成り立たないんです」


「そうなんだ。ではその予定というか生産計画ってあるのか?」


「無いですよそんなもの。以前検討はしたことありますけど会議の中でもその必要性を感じませんでしたね」


「予定が立たないと言いながら作ってないんだな」


「なぜ僕が作らないといけないんですか?」


「君は本当にバカではないだろうか。違うか。技術課長の仕事を引き継いでくれって事で入社してるわけだ。な。それを今までわがまま放題言って自分が出来ることの中でやりたいことしかやって来てないわけだ。納期短縮はお客さんから言われるんだぞ。営業が納期決まってるものを自分から短くしましょうかなんて言う訳ないだろう。だから技術に相談してるわけ。その相談を聞いたことで技術はないがしろにされているとか意見が無視されているとか杉内君が言い出したわけ。課長もそれに乗っかって私にギャーギャー言ってたけどそれは別にいい。杉内君の思惑に見事にはまっただけの話だから。本当にこんな世界があるのかと思ってたけど一人の個人的な目的のために少しづつ会社の業務がゆがんでいくのだなあと思って観察していたよ。

でも具体的に納期短縮できているのは技術課長や製造の担当者が動いたおかげだろう。君は周りでギャーギャー言ってただけなのだから」


「なんだか僕が悪いって言われてるみたいですけど」


「その通りだ。君が悪いんだ。会議も主宰してな、リーダーシップを発揮しているかのようだったけど表面上の事しかしてない。どう進めるかを言うだけで計画を作るわけでもない、対策案を作るわけでもないわな。逆にその部分を人にやらしてそれを批判するのだ。間違ってる。おかしい。そんなのできませんとかな。何故それをしないのか。もちろん批判することも一つだけどはっきりしてるのは作る能力がないからか、または批判されたくないからだ」


「・・・」


「あのメールの報告見ててもよくわかる。立案という言葉があるけど杉内君にはその立案の能力がない。多分理解できてないのだろうな。

だからなんで僕が作らないといけないのですかとか言い出すわけだけど自分が必要だと思ったら作ったらいいんだよ。それを土台に出来るのだから。

それにもう一つ。誰かに作ってもらうことで批判のネタにするためだ。

そして出来れば私に作ってほしいと願っていたはずだ。そして作ってみたら案の定、完全に予想通りだったので思わず笑ってしまったよ。

見事に批判してくれた。ボケに対して完璧な突込みだったとほめておこう。

まあ仮に君が作ったとしても君のように社長から許可を得たのかとか作る人は本当に出来ると言ったのかなどという上役のような聞き方は私はしないけれどね。作れば修正も出て来るだろうけどもしそれを作っていたら私の見方も少しは代わってたと思うし今みたいにこいつバカだなと思ってなかったかもしれんな」


「鴨居さんバカって失礼じゃないですか」


「いやそれは悪かったな。全然悪いと思って無いんだけれど謝っておこう。ごめんな。人に発達障害だと言うくらいだから別に何を言われてもいいのかなと思ってるんだけどな」


「・・・」


「私は自分はいいけど人はダメだというのが大嫌いなんだよ。だから時々相手のレベルに自分を落としてまでも対等に話をしたいと思う訳なんだ。

まあバカと言ったのは悪いけどそういう下地があっての事だから勘弁してな」


再び杉内の目を見据えた。 


「・・・」


杉内は言葉なく視線を外した。


「まあとりあえずこれくらいにしてもいいかなと思う。だいぶ時間もかかってしまったし。杉内君の野望というか目的というか本人にもそれははっきりと認識できているわけでは無いと思うけどそのくだらない目的のためにこの小さな会社の人間関係が引っ掻き回されたらたまらないわけだ。仕事に支障が出る状態にされるとダメなわけだ。私の結論ははっきり言って杉内君、君とはもう仕事ができない。したくない。会社の発展を願って皆仲良く協力し合ってという事が君からは感じられない。それは今までの言動を見てきた結果私がそう判断したことだ。社長がどう判断されるかは私は知らない。今回こういう場を設けていただいて社長ありがとうございました。言いたいことはだいたい言えたので良かったと思います」


「鴨居さんお疲れさまでした。杉内君。以前から鴨居さんからいろいろ相談されて報告も受けていた。技術課長からも話を聞いた。そして今日のこの場での君の受け答えを見て判断することにしたんだけど」


「辞めろってことですか?」


「それは自分で考えることだ。うちは解雇はしないから自分で判断してほしい。鴨居さんがこれだけの事を君の立会いの下、話したのだから分かっていると思うけど」


「ちょっと考えさせてください」


「それはいいよ。でもね。信頼関係が崩れているという事を認識してほしい。最初からそれがあったのかはわからないけど。鴨居さん、さっき言ってたくだらない目的ってなんですか? 後学のために教えてもらえませんか」


「いいですよ。あまりにもくだらなさ過ぎて驚くかもしれませんが。それは自己満足です」


「えっ。自己満足ですか?」


「そうです。究極の個人的な目的ですね。そういう個人的な欲求を満たすために周りを引っ掻き回すわけです。自分自身の不安感の解消や優越感を満足させるために見下しとマウントを行うので周りの人間には何のメリットもないし何故そんなことをするのか誰にもわからないのです。だから普通の人には理解できないのです。そんな人間に同調してしまうと遠くない未來に人間関係が崩壊してしまう訳です。会社の人間関係が悪化して辞めなくてもいい人間が辞めていくことになります」


「ええっ。ちょっと信じられないんですけど」


「はい。本人も明確に自覚はしていないと思います。ただそれをしていくことで喜びとか安心を感じているはずです。裏を返せば私達には想像できないくらいとんでもないくらい大きな不安がそうさせていると思っています。杉内が言っていたことは会社の発展などこれっぽちも考えていなくてあくまでも個人的な満足のためだけに会社の業務を絡めて動いているだけだったんです。こんな人間からは何も生まれてこないし得るものもない。会社にも周りの人間にも何のメリットもなくて害しかない」


「・・・」


「少しづつ築いてきた自分の立ち位置を一瞬で崩されたんだから今ものすごい不安感で一杯のはずです。私を批判することで得られていた満足感を今後はもう得られることはないわけです。課長を見下すだけでは満足できなかったのでしょうね。私はそれに対して何ら思うところはありません。課長がそれに巻き込まれてしまったことは残念ですが課長自身、杉内の見下しマウントから逃れたかったのだと思うと同情の余地はあります。そしてこの杉内に同調する人間がいるという証明にもなったわけでそれがじわじわ広がっていくと他人を見下しマウントすることがおかしい事だとわからなくなってしまう。それが組織崩壊の始まりであるわけです。杉内君は病気かもしれない。そうでないのかもしれない。ただ一つ言えるのは自業自得という事です。私は善い行いをすれば良いことが自分に返ってくる。悪いことをすれば悪いことが自分に返ってくる。そう信じて生きています。杉内君にそれを押し付けるつもりは毛頭ないけれどこれからの人生においてはいかに自分の欲求を抑えるのか。人が喜ぶこと、助けること、それを自分の欲求を満たす事として変換出来たらもっと君自身が幸せになれるかもしれないね。と私は思うのです。私からは以上です」


「はい。こんな人もいるのだなと認識できました。ありがとうございました。じゃあ課長は何かありますか?」


「いえ何もありません」


「杉内君。課長に発達障害と言ったことを謝っといたらどうだ」


「・・・」


「えっ? なに?」


「すいませんでした」


「声むちゃくちゃ小さいけど謝ったから課長許してあげてください」


「はい」


「それから課長、私は杉内から聞いたとはいえ課長に発達障害という言葉を使ったことをお詫びいたします。すみませんでした」


「いえ。鴨居さんがそのことを聞いて怒ってくれたことに感謝します。ありがとうございます」


「いえいえ。そう言っていただくと私も気持ちが楽になります。ありがとうございます」


「じゃあこれで鴨居さんの話は終わります。杉内君はなにかありますか」


「ありません」


「じゃあ私は退席します。杉内君。あとはゆっくりと社長に相談すればいいと思う。 君の今後の仕事の進め方は私は全く興味がないし関与しないから」


「・・・」


「失礼します」


「お疲れさまでした」



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