第16話 エルフの娘、イズミ
「あっはは! アヤトくんのなんやそれ、小っさいわあ〜」
「んもう、そらそうよ。イズミさんは森に住んでるんだから」
アルラウネの食糧調達のため森の奥へと向かったオレは、イズミさんの提案で大物勝負をするハメになった。
その勝負とは、制限時間内にどっちが大きな獲物を連れてくれるかのモノだ。
結果は当然、オレの負け。イズミさんは悪路も暗がりも、見通しがきかない木の群れもなんのその。地の利を活かしてスイスイと進み、1メートルは有に超えるあるリスを獲ってきた。
「うわあ、でっかいリスだねえ。ありがとさん。アヤトさんのもおいしそうだよ。デザートにちょうどいいわあ」
「オレのはデザート代わりか……」
ふつうサイズのハズなんだけど、さすがはファンタジー世界。とんでもなくデカいリスが居てもおかしくないんだな。
「ほたらアタシを食わんでも、これで満足するやろ。さっ、ぼちぼち行こか」
「そうだな。じゃな、アルラウネ」
「ほんとにほんとに、ごめんね。ほんでもって、ありがとねえ」
* * *
今度こそアルラウネと別れ、イズミさんが住まうエルフの里へと赴く。赴いてはいるハズだが、進めど進めど景色は変わり映えしない。そりゃ森の中だけども。
「暗いなー。アヤトくん、退屈やな〜って顔しとるで」
「そりゃあ、まあ。木陰でずっと暗いし、木ばっかりだし……」
「はあ〜! けったいなコト言うわ。アタシみたいなエルフの女の子と歩くの、ニンゲンの夢ちゃうんか!」
「シチュエーションがね……」
「アタシの棲家に連れてくってシチュエーションがかいな!? 嫁入り前の実家のあいさつと思わんと!」
「いや、こんな鬱蒼とした森で歩くのがってコトよ。てか出会ってちょっとしか経ってないのに、そんなふうには思えないわ!」
「アタシを助けたっちゅう運命の出会いを果たしたうえに、いっしょに飯まで獲ったのに!?」
「野蛮でびっくりしたけどな……。あのリスの急所を的確に突いてて」
「血なまぐさいエルフはエルフじゃないっちゅうんか! はあ〜、偏見やで偏見。これがエルフや。お淑やかなエルフはおらん。現実見なアカンよ」
「なるほどね。……ところで話変わるけど、こんなトコで喋ってていいの? ヤバいバケモノたちに居場所を教えてるモンじゃないのお?」
「ふふん、もっともな指摘やな。でもな、森のモンは知っとる。アタシらエルフの強さをな」
「ドジを踏まなきゃ?」
「おうおう言ってくれるやないか。大物勝負で負けたクセに」
「アウェー戦じゃな、分が悪いよ」
「にひひ。地の利を活かすのも実力のうちやで!」
進んでいると木の密度が減り、陽が差してきた。明るい性格のイズミさんと話してるのもあって、釣られて気分も明るくなってくる。
「おつかれさん。そろそろ着くで、全男子があこがれるアタシらの棲家にな!」
「いきなり人間が来ても、パニックにならないか?」
「心配ご無用。みんな知っとるよ。……ほいっ!」
突然、イズミさんは左足と両腕を上げるポーズをした。まるで一粒で300メートル走れそうな力強さだ。
「そ、そのポーズは……?」
「家のカギみたいなモンや」
すると陶器が割れたような音が鳴る。森の中では似合わないそれは波が引いては打ちつけるように、何度も交差し、響き渡る。
次第に木々の緑葉は赤く色づいて、印象をガラッと変える。まるで紅葉したみたいだ。
「これにて到着」
「なんだコレ、すげえ!」
「んふふ、たまげたやろ。これは解錠魔法、『
「はあ〜、キレイだな。オレ紅葉って好きなんだよなあ」
「ええよな、アタシも好き! もちろん赤く見えるんは、アタシらの棲家の中におるときだけや」
落ち葉を踏みしめ、また歩く。棲家に着いたとは言っていたが、周りを見渡しても未だに人影は見えない。
「まあ言いたいコトはわかるで。建物もなんもあらへんって思っとるやろ。そらそうよ、エルフはツリーハウスに住んどるからな」
「ツリーハウス? あっ、ホントだ。木の上に家がある!」
「おーい、スイタ! どや、儲かっとるかー!」
ツリーハウスに向かって、より大きな声で呼ぶと、窓が開きエルフの女の子が顔を出した。
「ボチボチやで、ボチボチ。そっちはどうや?」
「アタシは命、儲かったで!」
「隣のニンゲンに助けてもろたんか。そらラッキーやな。いやあにーちゃん、あんがとさん!」
「いやいや……。大したコトは」
「ンな謙遜すな、こんなふうに胸張れ胸ェ!」
イズミさんが胸を反らして手本を見せてくれた。ゆ、揺れてる……。
「イズミ〜、にーちゃんが困っとるやないか」
「あっはは! なんや、にーちゃんまで紅葉かいな? こっち見てみ、うりうり〜」
「あ、頭をぐりぐりするな!」
「いやー、こらおもろい。いじりがいがあるわ」
イズミさんの友人と別れたあとは、また進む。広場のような開けた場所に出たけど、誰もいない。静かだ。一面落ち葉が敷き詰められてるだけだ。
いや、静かというよりかは、岐路に立つような独特の緊張感が漂っているような。たとえば就活時の面接前みたいな。
「こうも静かとは思わなかったな」
「なんやその目は。まま、ええわ。いつもは賑やかなんよ、ホンマやで。んでもな、今はちょっとな」
「おー、イズミ! 帰りよったか!」
「うおお、ビックリ……!?」
不自然に盛り上がった落ち葉の中から、エルフの男が現れた。オレは驚いたのは突然出てきたからではない。股間に青葉1枚だけ身につけ、あとは産まれたばかりの姿というコト。
「ヘンタイだーーッッ!!」
「あっはは! サカイ長老言われとるで、ウケるな!」
「そう褒めてくれるなや、にーちゃん」
「いや褒めてない褒めてない!」
てかイズミさん、長老って言った? この99パーセント全裸のヘンタイに? 金髪がよく似合うイケメンだけども。
「んで要件はわかっとるで、アヤトくん。キミ、ハーピーの子供を探しよるんやろ?」
「そうですけど……、どうして知ってるんです?」
「ふたりの会話は筒抜けなんや。エルフは木と共に生きる民、木と喋るコトくらい朝メシ前や」
だからさっき、イズミさんはもう知ってるって言ったのか。
「ええで。仲間を助けてくれた礼や、その質問に答えたる」
「おおっ!」
「調べた結果……、よくわかりませんでした! いかがでしたか?」
「中身の薄っすいブログかよ!」
「ありゃー? 長老も知らんかったかー。まいったなー」
「でも、もうひとつの質問には答えられるで。なぜこんなに静かなのか……ってのは。それはな――」
長老は上げてた口角を下げ、真顔になる。いや、ほぼ全裸だから説得力も薄いけど。
「近々戦争する予定なんや。近くて遠い隣人、ダークエルフとな」
「……戦争〜!?」
いつもにこやかなイズミの顔が曇る。どうやらマジらしい。でも……多いな、こういう争い。また巻き込まれそうだ。ハルを探したいだけなのに。
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