第14話 エルフを救え!

「さあ、どっちから狙おうかねえ」


 母ハーピーに飛ばされたハルの手がかりを探そうとした矢先、オレとエルフに向かって変幻自在のツタが迫る!


 花に住まう美しき亜人、アルラウネが あらわれた!


「んじゃにーちゃん、ズラかるで!」


「えっ、逃げるの?」


「当たり前やんか。アララララは花から動けへんからな! ただしアレの射程圏内だと……」


 アルラウネは手を伸ばすと、地面から根っこが足首に巻きついてきた。てっきりツタが伸びてくるかと思ったので、反応できなかった。


「どこまでもツタが伸びて……ってアカン、なにコレ! 情報にないで!」


「にがさないよお。まずはねえ、エルフから食べよっか」


 動けなくなったエルフに再びツタが巻きつき、アルラウネへと引き寄せられる。


「食べるだって? そんなコトさせるかよ!」


 オレは足首に巻きついた根は、当然地面から伸びているので、それだけ斬るのも難しい。だが目の前でほっとけない。


「その黒い剣、よく斬れるべなあ。でもその根っこは斬れねえべ」


「……足首ごと斬るって言ったら?」


「あんれえ。言葉が通じるよお、たまげたあ」


 花弁の後ろからツタが伸び、オレの手首を縛る。力を入れても解けそうにない。


「やりかねないから、動いちゃダメだよお。おまえさんは後で食べてあげるかんなあ」


「ちょっ、近いて!」


 ツタに引き寄せられたエルフとアルラウネの顔の位置が、目と鼻の先ほどの距離になる。


「エルフのメスはめんこいねえ。ほれぼれしちゃうよお」


「なに言うとんねん、離せー!」


「喋らなくなったら、きっともっとめんこいだよ」


 アルラウネはエルフの顔を両手で抑え、無理やりキスをした! もちろん口に!


「んっ……ぷはあっ」


「ええッ、食うってそういう!?」


「見ればわかるよお」


 アルラウネは安らかな笑顔を浮かべ、エルフを抱きしめる。なんという美しい光景だろう、見惚れてしまいそうだ。


「ぉ……かッ……」


 いやしかし、見てるのは後ろ姿だけどエルフの様子がおかしい。明らかにヘンな痙攣を起こしている。


「なにをした!」


「ん〜? 間に挟まりたいんかい?」


「ハイ!」


「わあ、大声」


「……いや違う、なにをしたか訊いているんだ!」


「接吻して神経毒のある唾液を入れたあとでね、こうやって抱きしめて溶かすんだあ。これがおらたちのね、食べかただよ」


 なんて恐ろしい捕食方法なんだ。キスして動かなくなったあと、抱きしめられながら消化されるなんて!


「ニンゲンのオスは無防備でおらを受け入れてねえ、ちっとも抵抗しないんだあ。おかげで狩りが楽ちんだよ」


「……まあ、そういうヤツもいるかもしれないけど。だけど、オレの目の前で食わさせやしねえよ!」


「おまえさんも、おらの栄養になるんだよお」


 強がっても動けない。あのエルフが食べられたあとは、オレも……。過程自体はやぶさかではないけど、まだ死ねん!


「ふぐぐ……」


「チカラ入れたってムダだよお」


「やってみなくちゃ!」


 突然、なにかが足首に刺さった。


「いったあ!?」


 反射的に足を上げようとしたら、オレを縛っていた根っこがほどけた。刺さったそれは小さな矢だった。このサイズ、見たコトがあるぞ。


「ゴブリンか? そこにいるのか!?」


「ゴブ夫はここにいるゴブ! 今助けるゴブよ!」


「ゴブ夫ー! 無事だったか!」


 小さくてこもった声がたしかに聞こえた。姿は見えないけど。でも無事でよかった。


「でも、どうやって? オレまだツタに捕まってるんだ」

 

「ゴブの答えは……これゴブ!」

 

 おだやかな風に木々がざわめく。その風に乗って、茂みの中から熱を帯びた練炭のようなものがアルラウネの足下に転がった。


「えぇ? ちょっ、これ……!」


 ぼんやりと赤く光るそれを見て、アルラウネは焦っている。なにを投げたか訊いてみた。


「サラマンダーのフンだゴブ!」


「えぇ……?」


「わわっ、えらいこっちゃっ」


 アルラウネの足下の花から煙が上がる。アルラウネは抱いていたエルフを突き放し、空いた両手で恐る恐る仰ぐも、効果はなさそうだ。


「なんでそんなの投げたんだ?」


「サラマンダーのフンは発熱するゴブ。アルラウネの棲家の花は油分が豊富だから燃えやすいゴブ」


「つまり……?」


「勝負ありゴブ!」


「小さいのにやるじゃん!」


「小さいのには余計ゴブ!」


「わっ、わっ」


 アルラウネは消火に慌てているからか、オレの手首を縛っていたツタもほどけた。突き飛ばされたエルフを受け止め、横に寝かせた。痙攣がひどい。


「おまえのマヒを治すにはどうすればいいんだ!」


「水飲ましてやりゃいいだあ!」


 サリナさんから貰った水筒が早速役に立ちそうだ。ヨダレが垂れ、半開きになった口にゆっくりと飲ませた。


「よっしゃ回復したで!」


「いや驚きの早さ!」


 もう立ち上がって腕をブンブン振り回している。心配して損した気分だ。ゲームの状態異常も一瞬で治るが、こんなカンジなんだろうか。


「やっと着いたゴブ。ってヤバいゴブ、エルフだゴブ!」


「おっ、そこの茂みに気いつけ。ゴブリンおるで!」


「剣を下ろしてくれ! 友達なんだ」


「ゴブリンがダチなんか? えらい変わっとるなあ、にーちゃん」


 さて、和やかムードなのはいいけど、オレたちを食べようとしていたアルラウネをどうするか。


「火、おっかねえよお! あっちゃいお、あっちゃいよお!」


 赤い瞳からは涙が流れている。花から動けないって言ってたのは、足が花と一体化しているからか。それに花が棲家なら、今は自宅が火事にあっているようなものか。


 苦しがっているし、そう考えると切なくなる。幸い、火は全然小さい。残りの水で消せそうだ。


「水なんぶち撒けてなにしとるん!? アタシら食おうとしてたヤツ助けるんか!」


「言葉がわかるぶん、どうしても放っておけねえんだ!」


「ブブ、だからゴブの仲間たちをいじめなかったゴブか。いいヤツだゴブ」


「それに……死因がウンコなんてかわいそうすぎるだろ」


「ぷぷーっ! アカン、ツボりそ……。死因がウンコて……。たしかにせやけどもな」


「笑いのツボ浅っさ!」


「ブブ、楽しそうゴブねえ。ゴブも楽しくやってきたゴブ!」


 オレは種族の違うふたりと笑いあう。そうか、言葉が通じなくても笑うコトだけは共通なのか。これはいい発見だ。


 なんだかんだで無事だし、オレたちの完全勝利だ!




「ところでゴブリン、なんでオレがいたの気づいたんだ?」


「でっかい声で『はい!』って聞こえたからゴブ。なんの返事だったゴブ?」


「……いや、なんでもない」


 エルフとアルラウネの間に挟まりたい意思表示の返事だなんて、さすがに言えない……。

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