第2話 下り坂ミッドナイト
「よっしゃあぁぁぁっ! 60キロ行ったあぁぁぁっ!!」
「くそっ!」
引き離されている。僕は思わず声を
51キロしか出ていない……! デジタル表示が冷酷に現在の速度を僕に突きつける。
原付ではない。小学生の僕らが今乗っているのは自転車なのだ。
柿畑はマウンテンバイク、僕はシティ・サイクルという違いはあるが、それを言い訳にするわけにはいかない。不利な車体で優位な奴に追いすがりたい。テンロクで2リッターターボを
誰にも負けたくないという
懸命に足を動かすもメーターの数値は
下り坂、ミッドナイト。
太陽が
したたる汗が目に
(僕は今、エンジンになっている!)
大人になった今聞いたら
その時、数十メートル先の柿畑の姿に異変が起こった。
「ぐあああああっ……!!」
マウンテンバイクが
そんなことを考えてはいられない。僕のすぐ目の前にはすでにスクラップと化したマウンテンバイクとアスファルトに
僕はディズニー・コーナーで白煙を上げて超高速スピンするライバルをかわすR32GTRさながらの安定したライン変更で彼を
目の前の光景はスローモーションになり、痛みに顔をしかめる柿畑がはっきりと脳裏に刻み込まれた。
「柿畑あああぁぁっ!!」
自転車を
よかった。無事みたいだ。悪運の強い柿畑のケガは擦り傷だけで済んだ。
僕らは後ろからやってくる車の交通整理をしながら損壊したマウンテンバイクを歩道に引き上げた。フレームが曲がってリアタイヤが全く回らなくなっている。
「うう……俺の、俺のチャリがぁ……!」
柿畑は帰宅後、彼の母親に
それだけならよかったのだが、とばっちりは僕にもやってきた。
「あんた、柿畑君と変なことやってたみたいね?」
翌日、さっそく母の
父親にも下り坂最高速トライアルの
「ひどい……。僕は事故ってないのに……」
小学5年生当時、僕とクラスメイトの柿畑は車が大好きだった。街を走る車の名前は全部言えた。新車のチラシを車の写真に合わせて切り取り、自転車に貼ったりしていた。
「おーいっ!」
学校から帰ると団地の駐輪場の前で柿畑が手を振っていた。
「なんだ?」
「俺の新しい愛車、見せてやるよ」
「えっ!? 当分チャリ乗れないんじゃ?」
「じゃーんっ!! ちゃんと四輪車だぜ!? まだおまえチャリなんて乗ってるのか!? 子供だな!」
……彼が
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