第219話 イブはみんなでパーティしましょう

 街はすっかりクリスマス一色になっている。


 駅前なんかは木々にイルミネーションが設置されて、夜になると色鮮やかに街を彩る。


 住宅街なんて歩いてみると、サンタとかトナカイとかリースが飾られて、その家の子供達はたいそう喜んでいることだろう。


 学校内はそうかと聞かれると、答えはノーだ。


 いつも通りの校舎の風景。


 クリスマスパーティーなんか学校側は行ってくれず、やるなら各々勝手にやりなって感じ。


「守神くん」


 クリスマスイブで浮ついている教室内にて、白川が話しかけてくれる。


 去年はクリスマスイブより前に終業式だったのに、今年はイブが終業式だなんてふざけてやがる。


「成績の勝負か? いいぜ」

「いくよぉ」


 白川がノリノリで、「最初はグー」とかジャンケンの掛け声を出してきやがる。


「えいっ!」

「そらっ!」


 同時に成績表を見せ合い、相手の戦闘力せいせきを測る。


「ほぅ。お主……指定校で大学が決まり、勉強をサボっておったな」

「旦那こそ、アメリカが決定してるから成績が悪いようですなぁ。というか、アメリカ行くのにその英語の成績で大丈夫なの?」

「あいあむあめりかごー」

「だめだこりゃ」


 はい、白川にも英語のダメ出しをいただきました。


「お、なんだ、なんだ。ふたりして成績バトルか? 俺も混ぜてくれよ」


 俺達の白熱のバトルの最中、正吾が成績表を片手にやってくる。


 バカな奴だ。そんな戦闘力せいせきでやってくるとは裸一貫も同然。


「「いいぜ」」


 白川も勝つ気しかしないみたい。お互い、下を見て優越感に浸りたいという極悪な性格が滲み出てしまった様子だ。


 すまんな親友。俺達の勇気と希望の糧となれ。


「おらぁ!」


 正吾が成績表を出してくるので、俺達はうすら笑いで彼の戦闘力せいせきを確認する。


「「……!?」」


 瞬間、俺と白川を目を見合わせて、互いに目をこする。


 今一度確認する。


「ゴリラあああ! 貴様あああ! なにをしたあああ!」


 白川がなんかキレた。


「なにって、勉強だが?」

「ウソこけ! ゴリラがこんなに良い成績なわけねぇだろうが!」


 白川の言い放つ通り、正吾の成績は俺達とは比べものにならんくらいに良かった。


「自分の才能が恐ろしいぜ」

「その甘い顔に似合わないマッチョな身体で何人の女性教諭を沼らせた!? 言ってみろ!」

「お前は今まで食べたパンツの数を覚えているのか?」

「ゼロじゃ! ボケえええ!」

「そゆこと」

「んなわけあるかあああ!」


 ふんがあああ! と白川が怒り狂ってる。ゴリラより成績が下なのが納得できんみたいだ。


「んで、なんで正吾がこんなに成績良いんだ?」


 そのカラクリは俺も気になるところ。こいつは爽やかに髪をかきあげて言ってきやがる。


「自分の才能が怖いウホねぇ」

「すげームカつく」


 正吾は軽く、あははと笑い種明かしをしてくれる。


「芳樹だよ。あいつ勉強教えるのめっちゃ上手いわ」

「あー」


 納得した。あいつ、スポーツ科のくせに進学科のやつより成績良いって聞いたな。


 あいつの学校の進学科って偏差値が高いって有名だから、相当成績が良いのだろう。


 野球もできて勉強もできる。おまけに顔を良い……。なるほど、敵か。


「結局、俺と芳樹は同じ大学に入ることにしたからな。センター受けるために必死だ」


 正吾が少し寂しそうな顔を見せる。


「本当は晃も一緒が……」


 言いかけて正吾は頭をかいて誤魔化す。


「わりぃ。もう決まったことをうじうじ言ってもしゃーねーのに」

「本音を言うと俺だってお前らと一緒が良かったよ」

「晃……」


 ちょっと泣きそうになってから正吾は首を横に振る。


「いや、晃はアメリカに行くのが良い。大平の側にいてやるのが一番だよ」

「正吾……」

「あのー」


 俺達のやり取りを見ていた白川が落ち着いた様子でこちらに問いかけてくる。


「この雰囲気を壊すのは嫌なんだけど言っていい?」

「ん?」

「いや、なに? 成績バトルって。そんなもんオーダーしたつもりないんですけど。それが派生して男の友情に落ち着いてさ。私、どうツッコミを入れたらいいの?」

「白川も入るか?」

「遠慮しとく」


 呆れた声を出したあとに、「じゃなく」と彼女が本題に入る。


「ゆきりん! ゆきりんに会いたいんだよ!」


 体をゆさゆさと揺らされて、会いたい気持ちを伝えさせられる。


「ぉぅ、ぉぅ」

「連絡して良いの? 電話して良いの? したら迷惑かなとか考えて全然連絡できないんだけど!」

「ちょ、待っ、白かっ、俺、三半規管よわっ……」

「お、おい。白川。晃はすぐに酔うからあんまり揺らすと……」

「早く教えろおおお!」

「げろおおお!」

「きゃあああ!」

「うっそぴょーん」


 びっくり大成功みたいに言ってのけると、白川の拳がぷるぷると震える。


「茶番が長いんだよおおおお!」

「さーせん!」







『──今日はクリスマスイブですし、みんなでパーティしませんか?』


 白川がうるさいので有希に電話してみると、そう答えてくれる。


「大丈夫なの?」

『クリスマスパーティをするくらいなら大丈夫ですよ。せっかくのクリスマスイブですし、みんなでお祝いしましょうよ』

「わーい!」


 白川がサンタからプレゼントをもらう少女のように喜んでいた。


『それでは、駅前集合でもよろしいですか? 今、都市部の方まで出ていまして、用事は終わりましたので、すぐにそちらに向かえます。おそらく、お昼前には到着します』

「おっけー!! わたし達もマッハで行くからね!」

『はい。ふふっ。楽しみですね』

「うん!」 

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