第220話 仲が良いと、数カ月会わないだけで久しぶりに感じる
駅前集合とのことで、俺達は午前までの学校が終わるとすぐに駅前に向かった。
気持ち急ぎ足の白川を見て、相当有希に会いたかったのだろうなと思う。
駅前の有希の姿を見るや否や、猛ダッシュで有希に抱き着いたのを見て、冬の外気温は寒いけど、ふたりの様子を見ると、心の中がほっこりと温まった。
「おつかれー」
手を上げて労いの言葉をかける。
「おつかれさまです。みなさま」
「久しぶりだな、大平。色々と大変みたいだけど、身体は平気か?」
正吾がなんともまぁまともなことを言うので有希が目をまん丸にさせた。不意を突かれたが、すぐに切り替えて対応する。
「お心遣い痛み入ります。私の方は大丈夫ですが、近衛くんの精神は大丈夫でしょうか?」
「精神?」
「今日は成績表が返ってきたのでしょう?」
「見て驚くなよ」
「大丈夫です。去年のあなたの成績を拝見させてもらい、免疫はついておりますので」
有希が正吾から成績表を受け取ると、見る前からしていたうすら笑いが消えた。
そして、三度見の途中で正吾をジト目で見つめる。
「誰を沼らせたのです?」
そのリアクションが白川と同じだったので、俺達三人は大きく笑ってしまう。先程のことを知らない有希は一瞬、キョトンとするが、俺達の笑いにつられて笑った。
「さ、パーティの準備しに行こう」
白川の提案にみんなが頷いた時、ぎゅるるると腹の虫が鳴り響いた。
この音は間違いなく有希だが、ジト目で白川を見ていた。
「しょうがありませんね」
「え? もしかしてわたしになってる? 明らかにゆきりんからだったよね?」
「パーティの準備の前にお昼ご飯食べますか。琥珀さんがお腹を空かせて仕方ないみたいなので」
「え? ウソ。まじにわたしな流れ?」
「これは仕方ありません。仕方ないやつですね、はいぃ」
「なんで男子を売らずにわたしを売る?」
「売買の話ではないです。空腹の話です」
俺はポンっと白川の肩に手を置く。
「こうなった有希は止められないぞ」
「や、別に止めなくても良いけどさ。良いんだけど腑に落ちなくない」
続いて正吾が白川の肩にポンっと手を置いた。
「親友を庇うってのが漢だぜ」
「女なんですけど」
「ほらほら、もたもたしないで行きますよ。腹ペコさん」
「まじに腑に落ちないわ」
歩みを始める有希に続いて俺達も彼女に続く。
なにを食べるか提案しながら歩いていると、ふと有希の足が止まった。
何事かと思い俺達も立ち止まり、有希の視線の先を見ると、そこには潰れたマックスドリームバーガーの店舗があった。
あの事件以降、マックスドリームバーガーの店舗数は猛烈に減ってしまった。この駅前もあの事件の影響で潰れてしまったようだ。
「去年。このお店で勉強会をしましたよね」
「あれが四人での初めての集まりになるんだっけ?」
「はい」
胸に手を置いて、懐かしむ様子で潰れた店を見る有希がポツリと語り出す。
「私は両親が嫌いで、マックスドリームバーガーが嫌いで、食べたくもなくて……。でも、あの時に食べたマックスドリームバーガーは美味しかったです」
だから、と俺達を見渡して嬉しそうな顔をする。
「なにを食べるかではなくて、誰と食べるかが重要なんですよね」
「そうそう」
白川が肯定して指を突き立てる。
「クリスマスパーティも、パーティが楽しいんじゃなくて、このメンバーだから楽しいんだよ」
「
「おい、ゴリラ。良い流れムーヴをぶち壊すな。てか、ルビで遊ぶな」
「モブ」
「ストレートはやめろ!」
ゴリラと
「おふたりはお似合いですが、お付き合いはしなさそうですよね」
「あはは。俺も全く同じこと思ってた」
「流石、私達は相思相愛、以心伝心、新婚夫婦、ですね」
「最後のは四文字熟語じゃなかったような」
「おっと。最近、英語の勉強のしすぎで日本語がおろそかになっておりますね。そんな晃くんは私達にピッタリの四文字熟語をビシッとここで決めてくれますよね?」
「電撃結婚」
「私、まだプロポーズしてませんけど?」
「待て待て。プロポーズは俺からだって言ってんだろ」
「させません。させませんよ。私が絶対にしますからね」
バチバチとお互い目から火花を散らす。
譲れない戦いがここにはある。
「ほらぁ、目を離すとすぐにイチャつくんだからぁ」
「ま、ふたりらしいよな」
♢
お昼を済まして、みんなでパーティの準備をしたら俺の家にやって来た。
ジュースで乾杯を済ますと、有希が学校のことを知りたがっているので、三人で彼女へと学校の様子を教えてあげる。大したことはない。でも、彼女は楽しそうにそれを聞いてくれた。
「ゆきりんは学校、冬休み明けは学校に来れそう?」
白川の純粋な質問に対して、有希は申し訳なさそうな顔をみせる。
「すみません。まだ無理そうでして……」
「色々と大変そうだよな。俺達で良かったら力になるぜ、な、晃」
「お前は受験があるだろ」
「そりゃ受験もあるけど、大平の方が心配だろ」
「お前、ほんと良いゴリラだよな」
「ウホ」
「はい、台無しー」
そんな俺達の会話のあとに白川も乗る。
「そうだよゆきりん。わたしは受験も終わったし力になるよ」
白川が真剣に言ってのけると、それが伝わったみたいで、有希は嬉しそうに首を横に振った。
「みなさんのお心遣い、本当に感謝致します。ですが本当に大したことではありませんよ」
「ゆきりんの大したことないは大したことあるよ。無理してない?」
詰め寄る白川に有希は視線を逸らす。
「わ、私が琥珀さんにウソを申すなど一度でもありましたか?」
「何度もあるわい」
「あー、あはは……」
「はい、ダウト。大変なんでしょ?」
「ええっと……」
観念したって感じで有希が事情を話す。
「や、本当に大したことではありませんよ。私自体は特になにもしておりませんから」
そう前置きをしてから説明してくれる。
「両親のしでかしたこと、会社の後処理、引き継ぎやら細かいところを顧問弁護士と相談しながら、会社の方々と話し合っている最中です。現場には私も出ないといけないということで、日中は顧問弁護士と共に行動しているところです」
うわー。複雑すぎてわかんねぇ。
白川も、キョトンとしながら頷いており、正吾は頭から煙を上げていた。
「それも次の決算の三月までには終わる予定ですし、卒業式は出れると思います。冬休み明けに学校というのは難しいですね」
「そっか……。しかも三年はすぐに春休みだもんね……」
白川が寂しそうな顔をするので、有希はすかさずフォローを入れる。
「でもでも、土日はなにもありませんし、平日でも夕方くらいには終わりますので、全然遊びにいけたりしますよ。またこちらから琥珀さんに連絡しますね」
有希がそう言うと白川は、「うん」と幼い子供みたいに嬉しそうに頷いた。
♢
久しぶりの再会を果たしたので、話題は尽きず、クリスマスパーティは夜遅くまで開催された。
途中、クリスマスプレゼントを用意していないことに気が付いてみんなでコンビニに走り、自分の好きなお菓子を交換しあうっていう、なんとも安上がりなクリスマスプレゼントになったが、それが非常に楽しくて、みんなでケタケタと笑い合った。
夜も遅いので、正吾が白川を送ってくれた。
「有希。ごめんな」
「はい?」
パーティの片付けをしながら一言、詫びを入れる。
「クリスマスプレゼント、用意してなくて」
「必要ありません。晃くんの側にいられるだけで私は良いのですから」
そう言ってくれる有希の手を握る。その時に、こっそりと指で輪っかを作って、彼女の薬指にはめた。
なんだか怪しい行動を悟られないように、手の甲にキスをする。
「これが誕生日プレゼントじゃだめかな?」
「晃くん……なんかキザです」
「キザな晃くん嫌い?」
聞くと、唇を奪われる。
チュっと唇に有希の吐息と柔らかい感触を受ける。
「大好きに決まってます。ふふ」
彼女は上機嫌になり、片づけを再開する。
有希のキスに気分が高揚してしまうが、なんとか冷静になって、指の輪っかを望遠鏡みたいにして覗きこむ。
「なるほど。これくらいか」
忘れないうちに、有希の薬指の大きさをメモしておこう。
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