第214話 衝撃的なニュースのあとは両家顔合わせの段取り
朝にニュースなんて見ないのだが、スマホをいじっていると《マックスドリームバーガー》がトレンド入りしていることに気がついて、ニュース動画に目をやる。
サンプル画像として、マックスドリームバーガーの店舗と、俺が受験を受けた大学の画像が流れている。
『マックスドリームバーガーでお馴染みの《おおひらふうず》が、大学側へ賄賂を渡した疑惑があるとして特捜部の捜査を受けていることがわかりました。この事件はおおひらふうずが大学側へ、『個人の生徒を入学させないように金品を渡し、不正に不合格にした』とのことで、おおひらふうず側、大学側は共に容疑を否認しております。今後慎重に調べる方針となっております』
男性アナウンサーの声が止まると同時に動画のコメント欄はものすごい量になっている。
『うわー。天下のマックスドリームバーガー様が汚職かよ』
『味は大したことないからな。高校生のたまり場なイメージ』
『今もたまり場なん? 今時の高校生はカフェじゃねぇの? オワコンでは?』
『なんかやたら安いと思ったら、そういうことばっかやってんだね。汚職バーガーはNGだわ』
『これも氷山の一角だろ。色々やってんじゃね?』
『やってるだろうな』
『汚職がしょぼくない?』
『わかる。高校生(浪人生かもだけど)を入学させないためとか、どんだけそいつ嫌いやねん』
『天下のマックスドリームバーガーを敵に回した高校生とかかっこよ』
『これでこの高校生の子が少しでも浮かばれれば良いよな。こんな事件はあかん。未来ある子をこんな汚い手で蹴落とすなんて許せない』
様々なコメントを見ていると、スッと俺の真横に有希が顔を持ってくる。
当然だが、その横顔は悲しみと不安が織り交ざったかのような顔であった。
「晃くん……」
ポツリと俺の名前を呼ぶ。
今にも消入りそうな声色は、心配で張り裂けそうになっちまう。
「どうした?」
できる限り優しく応答してやるしか今の俺にはできなくて、それが悔しい。
「見てください!」
「ぉ……!」
急にテンション上げて言い放つもんだから、ビクッとなってしまった。
のけ反ったリアクションの俺へと有希は自分のスマホを目の前に突き出してくる。
「さっきから着信が止まりません!」
彼女の言う通り、スマホの画面にはまだ早朝だってのに、『あの人』という登録名の人物からの着信を知らせる画面となっていた。
それを無視していると、電話が切れてホーム画面になる。
「見て見て! 着信が108件です! 煩悩ですよ、煩悩!」
「あ、はは……」
明らかに無理している彼女の様子に、こちとら苦笑いしかできない。つうか、108件の着信履歴ってやばいな。
「これは記念すべき数字」
「記念すべき数字?」
「このスマホを、こう!」
有希は気合いを入れてスマホを壊す……ように見せかけてただ電源を切っただけだった。
「壊す勢いで電源切るとか」
「スマホを壊したら晃くんと連絡取れないじゃないですか」
「そこは冷静」
「冷静は冷静ですよ」
有希はそのまま俺の体にピタリと引っ付いてくる。
「冷静だからこそ怖いです。私としてもこうなる結果を望んでおりました。身内が犯した罪は私にも降り注ぐ。それでも良い。晃くんが側にいればそれだけで良いと思っておりましたが、やはり現実に起こると恐怖してしまいます。私はこれからどうなるのだろうと……」
震える彼女の肩を抱き寄せる。
「ごめん。俺にはこんなことしかできない」
「勘違いしないでください。あなたのこんなことが私にとっては最大の行動なのですよ」
「なら、今日はずっとこうしていようか」
そう提案すると、ゆっくりと首を横に振られる。
「それはとても魅力的な提案ですが、私の両親のことです。家にいないとわかると、晃くんの家に押しかけて来る可能性があります。まぁ……どこにいたって押しかけてくるでしょうがね」
「俺の受ける大学を知ってるくらいだもんな」
有希は決意したように拳を作った。
「私、戦います」
「お得意のアクロバティック関節技で?」
確かに、あれほどの技をもっているのなら戦えば勝てるのかもしれないな。
「……言葉のあやです」
そりゃそうだ。
「両親と話します」
「大丈夫なのか?」
言いたくはないが、相手は有希のことを娘だと思ってもいないような感じだ。それに汚職がバレて興奮状態。そんな奴等と話しになんてなるのか?
「もちろん、正面切って話すことはしません。馬鹿正直に両親が来るのを家で待っていても話し合いにならないのは目に見えています。ですので、人の目の多い学校……特に今日は文化祭二日目ということで、人の目がかなり多いです。そこでの話し合いならば向こうも下手なことはしないはず」
有希の言う通りか。人の目が少ないマンションでの話し合いではなにをしてくるかわからない。電話越しの声でしか有希の両親のことを知らないが、電話越しだけでそう思わせるならお察しだ。
その点、学校ならば沢山の人の目がある。その中でなら少しはまともな話し合いができるやもしれない。
「な、有希。その話し合いってのに、俺も同席して良いかな」
俺としては、やすやすと有希を危険な目に合わしたくない。できるだけ側にいたいって気持ちが溢れている。
「それは……」
有希も同じなのか、こちらの提案に考え込んでしまう。
俺を危険な目に合わすことになるかもしれないと思っているからだろう。
「両親へのご挨拶。まだできてないからさ」
いつもみたく冗談めかして言うと、有希は安心した様子を見した。
「律儀な方ですね。そういうところが素敵です」
それは許可を得たことを示す言葉。
俺はスマホを操作して画面を有希に見せる。
「ついでに両親の顔合わせもしとく?」
画面に映し出されている、『父さん』の文字を見て、「ぷっ」と可愛らしく吹き出した。
「結納もしときましょうか」
「アリだな」
そんなわけで、特殊な形で両家の顔合わせをセッティングしてやる。
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