第209話 真剣な話くらいイチャイチャせずにしな

「しゅ、しゅごい……」


 見えなかった……。


 超スピードとか、そんなチョロい単語で表せるもんじゃあねぇ。ありゃ異次元の能力だった。


 彼女の世界だけが加速し、その他を置いてけぼりにする能力。


 神をも超えた能力。妖精女王ティターニアの名は生徒会長を引退しても伊達じゃねぇ。


 改めて大平有希という存在の大きさに驚きを隠せない。


 って、あれ? 


 これ、去年も同じような感想抱いてなかったっけ? 


 ま、いっか。


 少し手伝おうとしたけど、「ご主人様は大人しく私の偉大さを思い知れ」と言われてしまい大人しくベッドでおねんねしていたけど、既に偉大さを思い知っている。


 カンストしている好感度はこれ以上は上がることがないけど、あー、やっぱり有希がこうやって世話してくれるの好き過ぎるって感想がわいてくる。


「晃くん。なにか言うことはありませんか?」


 有希がこちらに犬みたいに駆け寄って来る。


 尻尾が生えていたら、そりゃもう引きちぎれるくらいにぶんぶんと振っていたことだろう。


 初期の頃は猫みたいにツンケンしていたってのに、すっかり犬っ子になっちまった妖精女王ティターニアは頭なでなでを要求しているのだろう。


 だけどな、妖精女王ティターニアさんよぉ。俺を避けた罪は大きいんだ。俺はネチッこいぜ。


 そうやすやすと頭を撫でてやるわけにはいかんのよ。


「もうちょっとでパンツ見えそうだったんだけどな」


 去年を思い出し、からかうように言ってやる。


 あの時も、部屋の掃除をしてくれた時、そんな冗談をかまして、「変態っ!」なんて我々の業界ではご褒美の罵倒を頂いた記憶がある。


 今年もそれを欲してしまい、ついそんな言葉を発すると、有希はちょっと恥じらいながらスカートの裾に手を持っていく。


「パンツ見たいのですか? 晃くんになら、良いですよ」


 顔を赤くしてスカートをめくろうとしている彼女に駆け寄って手をおさえる。


「ちょーい! ちょい! ごめんなさい! そんなこと望んでないです」

「そうです? 別に晃くんにならなにされても良いのですよ?」

「ひゃぁ。その言葉は嬉しいけど、嬉しいけども! やっぱ、なんか違うからだめ!」


 そこに甘えると歯止めが効かなくなりそうなので、なんとか理性を保ち否定しておく。


 有希は、「そうですか」とちょっぴり残念そうにスカートから手を離した。


 なんでそんなに残念がってるのかわからないが、そんな彼女を見てついつい笑みが溢れてしまい頭を撫でてやると、そりゃもう犬っ子がご主人様に褒められて嬉しいという表情を見してくれる。


 あれ? 結局、この子の思い通りになってない? ま、良いか。この幸せな時間を感じられるのは良いことだ。


 幸せな時間か……。


「な、有希」


 部屋を片してくれて、俺は真剣な話題を彼女に振ることにする。


「俺は別に大学を落とされたとしても、有希と一緒なら気にしない。有希も俺と一緒ならもう大丈夫だよな?」


 尋ねると、有希は誓いを立てる女騎士みたく胸に手を置いた。


「はい。私は決意しました。この身はなにがあろうと晃くんと共にあると」


 忠誠心たっぷりの社長令嬢の言葉は裏のない真っ直ぐな誓いである。


「俺達の思いは一緒。だけど、このまま無視したって有希の親は絶対なにかやってくるよな。俺を蹴落とすまでするくらいだ。地の果てまでも追っかけてくるだろ。それじゃなんの解決にもならない」

「そうですね。本来ならば証拠をかき集めて告発してやりたい気分です」

「良いのか? マックスドリームバーガーがこんなことしてるってバレたら、有希自身も肩身の狭い思いをするんじゃ?」

「大平有希であれば世間からバッシングを受け、社会的に抹殺されたも当然の報いを受けることでしょうね」


 でも、なんて茶目っ気たっぷりにウィンク一つかましてくる。


「守神有希になればなにも問題はありませんよ」

「あれ? もしかして今の遠回しのプロポーズ?」

「あ、今のなしです」


 ぶんぶんと手を振られちゃった。


「プロポーズはもっと盛大に私からしたいので。聞かなかったことにしてください」

「待て待て。あんたはどんだけ肉食なんだよ。告白も有希からでプロポーズも有希からなんてよ」

「言ってるじゃないですか。私、好きな人にはガンガンいくタイプって」

「プロポーズは俺からさせてぇ」

「だめです。私からしますので覚悟しておいてください」


 いや、嬉しいんだけどね。嬉しいんだけど、プロポーズ宣言をされるのは男としてどうなんだ。


「っと。話題が逸れてしまいましたね」

「いや、異議ありの話題だぞ。有希の親の件とか今はどうでも良いわ。プロポーズをどちらからするかじっくり話し合おうぞ」

「だから私からですって。しつこいなぁ」

「しつこくヌメヌメするぞ。おりゃヌメヌメェ」

「あひゃひゃ! 晃くん、ずるいです! くすぐらないでぇ!」


 ぬっぽりと有希の脇腹をこしょこしょすると、きゃははとはしゃいだ声を出す。


 はぁはぁとお互い息を切らして笑い合う。

 真剣な話し合いをしているのに、俺達はなにをバカなことをしているのかと思うが、これが俺達らしくて良いと思う。


「とにかくですね」


 仕切り直した有希が話題を強制的に戻す。


「告発するにしてもです。身内の私の意見など揉み消されるでしょうし、警察も未成年の私達の言葉など耳も傾けてくれないでしょう」

「そりゃそうだよな。それに、マックスドリームバーガーくらい大きな会社だと、真実も嘘も折り混ざった話題が出てそうだしな。高校生の話なんか、わざわざ聞いてくれないか」

「なのでこういう時は大人の力を使いしまょう」

「大人。猫芝先生?」

「可愛いは作れるでしょうけど、三十路に問題解決は不可能でしょう」


 この場にいないのに辛辣な立場だな、あの先生。


「もっと頼れる大人が身近にいるでしょ?」

「もしかして……」

「はい。お義父様とお義母様です」

「あれ? おとうさまとおかあさまの読み方に義が入ってる気がしたけど?」

「さ、さっそくと実家に帰りますよ。40分で支度しな」

「準備時間が長いようで短いので誤魔化されてるけど、きみの実家じゃないからね。結婚した気でいる? 俺からプロポーズするまで待てよ」

「しつこいですねぇ。私からするって言ってるでしょ。もう。しつこい晃くんも好きだけど」

「俺も有希が好き」


「「えへへー」」


 結局イチャつきながら実家に帰る支度を40分でした。

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