第207話 嘘
白川から喝を頂いて、有希へと幾度となく話しかけるがなんの進展も得ず。
家には相変わらず来てくれず、学校では避けられる日々。
それでも目げずにやって来たが、精神は削られる毎日。
せめて、有希の態度の変化の核心を突かなければならないのだが、それがわかれば苦労はしない。
白川にも怒られたが、大学に落ちたことが原因ではないと思われる。
大学に落ちた日から態度が激変したため、そう思ったのだが、よくよく考えると有希ならば、「次の大学を目指しましょう。時間はまだあります」と言ってくれるはずだ。
だから大学に落ちたのが理由じゃない。
だったら、なにが原因だ?
俺がなにか怒らすようなことをしたか?
身に覚えがないが、仮に俺が有希を怒らすようなことをしたのなら、聞く耳くらいは持ってくれる。誠心誠意謝れば許してくれる。それが有希だ。
なので、怒らせたって線も薄い。
「……わっかんねぇ」
薄暗い自分の部屋のベッドに寝転がる。
休日の真っ昼間から部屋の電気を消してベッドでおねんねなんて受験生として失格だが、今は目指す大学もわからない、彼女の心境もわからないゴミ男を演出中なので許して欲しい。
「あ、いや、演出中じゃなくてゴミ男か……」
自分の部屋を見渡してポツリと呟く。
俺の声はゴミ屋敷に小さく響いた。
有希が来てくれていた時は、綺麗な1Kの部屋だったのに、彼女が来なくなったらご覧の通り、ゴミ屋敷だ。
まるで有希と出会う前の状態に時が戻ったみたい。
この惨状を眺めていると、心まであの頃に戻ってしまったかと錯覚してしまう。
俺に取って大平有希という存在はとんでもなく大きな存在になってしまった。
そんな彼女がいないなら俺が生きている意味なんて……。
「あかん!」
バシッと自分の頬を叩いて考えを改める。
腹減ってるからだ。
腹減ってるからこんな考えになっちまう。
俺は変わった。有希のおかけで変わったんだろうが。いつまでも、うじうじするな。
今は季節的に秋だ。女心と秋の空っていうだろうが。
あ、いや、女心と秋の空ならだめじゃん?
とりあえず! 有希は今ちょっとアンニュイな気分に浸ってるんだ。あいつちょっと中二病だしな。うんうん。
コンビニ行こう。たまにはコンビニ飯食べよう。本当は有希の手料理が良いけど、コンビニ飯もめちゃくちゃ美味しいから。
そうと決まれば、さっそくコンビニにレッツラゴー!
無理くりにテンションを上げて家を出た。
「「あ……」」
玄関を開けた瞬間、有希がいた。
オシャレな有希が白のTシャツにデニムというシンプル中のシンプルでお出かけなんて珍しい。それに野球帽を被っているのはもっと珍しい。
準備が面倒臭いから、ちょっとコンビニに行くスタイルだ。しかし、それがまた似合っているのも彼女の美貌が成せる技なのだろう。
そんな有希の手を反射的に掴んでいた。
「捕まえた」
久しぶりに感じる彼女の体温は相変わらず冷たい。いや、いつもの何倍も冷たくて、出会った頃の彼女を思わせる。
「捕まっちゃいました……」
意外にも、有希はそのまま手を握り返してくれて、俯いて小さくそんなことを言ってくれる。
怒ってはいない?
「コンビニ行くのか? だったら俺も行くんだけど一緒に行く?」
本当はもっと聞きたいことがある。そんな呑気なことをお誘いしている場合じゃない。わかってる。わかっているけど、唐突な展開にそんなことを言ってしまう辺り、俺の人間性もまだまだお子ちゃまだと思う。
「晃くんとコンビニに行く方がどれほど楽しいか……」
ポツリと呟く彼女の言葉は、ギリギリ俺の耳にまで届いて来た。
しかし、言葉とは裏腹に有希は少し乱暴に手を振り払うと俺を睨みつけてくる。
「私にこれ以上……!」
言葉を途中で詰まらせ、俺の顔をジッと睨みつける。その瞳から涙が流れ出てくる。
「私に、これ以上、関わらないでくださ、い……。もう、私と別れて……」
彼女の言葉を無視して俺は有希を抱きしめた。
「有希。どれほどまでに濃い時間をあんたと過ごしたか、自分自身がわかってるはずだ。そんな言葉、俺なら嘘だってわかる」
「嘘、なんかじゃ……」
「有希が俺を避けてる理由はわからない。でもな、有希が嘘ついてるなんて簡単にわかんだよ」
「嘘なんか、じゃ、ありませ、ん。ほんとうに……」
「わかった」
俺は抱擁を解いていつでも抜け出せる形を取る。
「嘘じゃないなら離れられるだろ?」
「……」
有希は離れようとはせずに俺の胸の中にうずくまったままだった。
「ほら、やっぱり嘘だ」
「……ばかっ」
ドンっと叩かれてしまう。
「ばかっばかっばかっ」
どんどんどんどん胸を叩かれる。
「ずるい、ずるいです。そんなの、そんなの無理に決まってるじゃないですか。離れるなんてできるはずないじゃないですか。ばか、ばか、ばか」
胸の中で罵倒を受けていると、有希がポツリと漏らす。
「助けて、晃くん……」
その言葉が耳に届いた瞬間に、俺は彼女を強く抱きしめた。
「必ず助けてやるよ。絶対に」
必ず助けると言う意思を示すように彼女を優しく、強く抱きしめた。
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