第203話 その口調に違和感無し

「はーい、晃くん、おくちゅりのみまちょうねぇ」


 有希が薬と水を差し出してくれるので素直に飲んだ。


「はーい、晃くん、おねちゅをはかりまちょーねー」


 有希が俺の胸元をはだけさせる。


「むふ……」


 俺の胸元を見て、変態チックな声を漏らしてるってのに卑しさが微塵も感じないのは、彼女が銀髪美少女だからなんだろうな。


 やはり美少女。美少女は全てを解決する。


 有希は、「はぁはぁ」と熱のあるこちらよりも熱い吐息を吐きながら俺の脇へと体温計をさす。


「だいじょうぶでちゅからねぇ」

「なぁ、有希」

「私がいまちゅからすぐに良くなりまちゅよぉ」

「なぁ、て」

「このあとは専属メイドとくちぇいの、おねつなくなれーのおまじないをしてあげまちゅね」

「おい、聞けや、変態」

「へんたっ!? 誰が変態ですか!? ええ!?」


 ようやく話を聞く態勢になった。めっちゃ怒ってるけど。


「晃くんが熱があるからこうやって看病してあげているのに、よくもまぁ変態と罵れましたね」

「よくもまぁ自分が変態じゃないようなセリフを吐けたもんだな、おい」


 ごほっごほっとまじの咳をすると、まじに有希が背中をさすってくれる。その点は非常にありがたい。


「色々とツッコミがあるんだ。一つずつ潰すぞ」

「ツッコミ? この完璧メイドにツッコミとは……良いでしょう。なんなりとツッコミを入れてください。ささ、どうぞ遠慮なく」


 どうしてそんなに自身満々なのか謎だが、遠慮なく言わせてもらおう。


「あんた、学校は?」


 うん。俺は熱があるから早退したけど、なんでこの子も早退してるのかな?


「看病チャンスが目の前にあるのに、それをみすみす見逃すなんてことはできません」

「いや、そんな理由で早退して良いのかよ」

「もう生徒会長でもなんでもありませんので、心置きなく早退できます。先生にも、『帰ります』と一言伝えておりますので」

「勤続年数40年のベテラン社員の有給の取り方」


 ま、まぁ、有希はこれまで生徒会長として学校に貢献したんだ。それを考えると学校側も強くは言えないってところだろう。


 生徒会長の時でも学校を抜け出したような気もするけど……それを言うと、とんでもない論破が待ち構えているだろうからお口はチャックでいこうと思う。


「さ、晃くん。セカンドツッコミ、いかがなさいますか?」

「もちろん、やるさ」

「デデン! では、どうぞ!」


 なんか変なバラエティー番組みたいになってるし、有希が進行役だし、なんかめちゃくちゃだけどツッコミをせずにはいられない。


「なんでナース服なんだよ」

「あ! 気が付きました!?」


 嬉しそうに、有希はその場で一回転する。


 有希はいつものメイド服ではなく、ナース服に着替えていた。ナース服と言っても、ガチのナース服ではなく、ハロウィンとかのコスプレっぽい感じのミニスカナースのやつだ。


 スタイル抜群の有希が着ることで俺の熱が更に上がりそうなんだけど。


「可愛いですよね。メイド服での看病も考えたのですが、やはり看病といえばこれですよね」

「もはやコスプレイヤ―だな」

「似合ってません?」

「とても似合っておいでです。最高ですが、今は熱で意識が朦朧としているので、熱がない時にもう一度着て欲しいです」

「ふふ。しょうがないですね。また言っていただければ着ますよ」


 また今度、絶対に頼もう……。


「ささ、サードチャレンジ。どうします?」

「もちろん、やるさ」

「デデン! では、どうぞ」


 お手製の有希の効果音が可愛くて、もうこのままの進行で良いと思ってしまう。


「この体温計、電池切れてるから、熱が測れないぞ」

「え、そうなんです?」


 言うと、俺の脇から体温計を取り出して、確認する。


「あら、ほんとですね」


 有希はちょっとばかし怒った表情をした。


「もう、晃くん。こういう時のために、体温計もしっかり電池変えなきゃですよ」

「はーい」

「わかればよろしいです」


 なでなでと頭を撫でてくれて、熱があるのに嬉しくって笑みが零れる。俺が犬なら思いっきり尻尾振ってたわ。


「おっけー。ノッてきましたフォースチャレンジ。やりますよね?」

「え? もうツッコミはないけど?」

「なんで!?」

「なんでと言われても……」

「いや、体温計のツッコミは予想外でしたが、学校を早退するとか、ナース服で看病するとかの変態ツッコミはセオリー通りですよ」


 唐突に有希が素に戻った。やっぱり変態だとは思ってたんだね。


「でも、一番の変態ポイントは、彼氏を赤ちゃん言葉で看病することでしょう。彼氏が頼んでもないのに赤ちゃんプレイを致すのは変態そのものでしょう!?」

「赤ちゃん言葉ぁ? んにゃ、普段と変わらない口調だったぞ?」

「変わるわっ!」


 珍しく強めのツッコミを入れてくる。


「え? なんです? 私の喋り方って普段から赤ちゃん言葉なんです? そんなわけないですよね? え? もしかしてずっと赤ちゃん言葉だったのですか? そんなわけないですよ?」

「うーん。違和感はなかったな」

「あるわっ! 違和感ありありだわっ!」

「あ、だめだ。俺の体調に違和感が出てきた」


 まじに辛くなってきて、そのまま意識を失いそうになる。


「晃くん……!? す、すみません。体調が悪いのに悪ふざけをしてしまい」

「いやいや、いいよ。なんか珍しい有希を見られて嬉しいし……。こういうノリも……好きだからさ……」

「晃くん……」


 優しく俺の頭を撫でてくれる。


「ノリというか……有希が好ぅ……すぅぅ」


 そのまま俺は眠ってしまった。

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