生徒会長の秘密を解決したら専属メイドになってくれました
第194話 あなたはいつでも私を照らしてくれる(大平有希視点)
7月初旬。夏の全国高校野球選手権大会。甲子園の予選。
私──大平有希は、ご主人様というか、彼氏というか、恋人というか、イチャイチャする人というか……。
とどのつまり、私の大好きな人である守神晃くんが試合に出場するということで、ドーム球場まで足を運んだ。
球場は大会初日ということもあり、結構席は埋まっている。
そして、意外にもウチの学校の関係者を見かけた。
教頭先生なんかは野球が好きだと言っていたので、来るのはわかるけど、案外制服を着た人物を見かける。
生徒は強制的に応援に来る必要はないのだが、流石はメジャースポーツなだけあり、ミーハーな人が来るのかも。
私も人のことは言えないけど。
おっと。観客席なんて今はどうでも良い。
視線をグラウンドに戻すと、私の彼氏が広い球場のど真ん中にある一番高い場所に立っていた。
晃くんのポジションはピッチャー。
バッタ、バッタとバッターを空振りに取って、大量の三振を築いていた。
「晃くん……。かっこいい……」
鏡を見ずとも自分の目が乙女的ハートマークになっていることがわかる。
いつもの晃くんもかっこいいけど、野球をしている晃くんはもっと輝いて見える。
♢
5回の裏が終わると、グラウンド整備が始まり、ちょっとばかしの小休憩時間となる。
さっき、晃くんの足にボールがぶつかったように見えたが、大丈夫だろうか。
こちらの不安を煽るように、ポケットの中のスマホが震え出した。
まるで私の不安な気持ちと連動するかのように震え続けるスマホからは嫌な予感しかしない。
「やっぱり……」
こういう時に嫌な予感ってのは的中するもの。
『あの人』と明示された登録名。
まぁ、これは私があえてその名で登録したんだけど。
電話の主は、私の母親からだ。
一瞬、無視することも考えたが、あとあと面倒なことになりそうだったので、電話に出ることにする。
「もしもし」
『今回は男じゃないみたいね』
皮肉っぽい声で言ってくるこの人の声は虫唾が走る。
さっさと要件を終わらせて試合を見たい。
「なんの用です? 私も忙しい身ですので手短にお願いします」
『相変わらずあいつに似てイラつくわね』
あいつとは私の父親のことを差しているのだろう。
父親のことも大嫌いな私は、その発言で更にイライラが増してしまう。
『ま、いいわ。今日は進路のことで電話したの』
「進路のことなら春に伝えた通りです。それ以上もそれ以下もありません。京大学なら文句ないですよね?」
春に進路先を聞かれた時、両親を黙らせるために日本で最も有名な大学を提示した。
これ以上ない進路先のはず。
『確かに、文句はないわね。相手も京大学の女なら満足するでしょう』
「は?」
この人は今なんていった? 相手? 相手ってなに?
衝撃的なことを言われて言葉が出ずにいると、向こうからの説明が入る。
『縁のある政治家にご子息がいるのよ。安心しなさい。喋ったら意外とまともな感じだったから』
「なにを言っているのです?」
唇が震える。そして、体もちょっぴり震え出した。
この人は本当になにを言っているのか理解できないでいる。
『なにって。結婚の話じゃない』
「なっ……!」
怒鳴り声が出そうで出ない。怒りは頂点に達しているというのに、案外冷静な自分がいる。
「政略結婚はさせないと言っていたじゃないですか」
『言ってたわね。でも、色々と事情が変わったの。大平の娘なのだから臨機応変に対応しなさい。良いでしょ。高校生の間は自由だったんだから。感謝しなさいよ』
「なに、を、感謝とか……」
こちらの歯切りが悪くなるのを向こうは気にせずに、ひょうひょうと言ってくる。
『大学に入ったら、学校の他に色々と忙しくなるだろうから、束の間の自由を楽しんでおきなさい。あ、そうそう。彼氏いるんだったわね。そんなどこの馬の骨かもわからない奴とは情が移らないうちに別れなさい。それだけ。じゃ』
捲し立てるように一方的に言われ、こちらの反論は許さないと言わんばかりに強制的に電話を切られてしまう。
切れたスマホを強く握る。握力で潰してしまおうかと思うくらいに強く、強く握る。
でも、スマホを強く握ったからといって状況が変わるわけでもない。
今にも泣きそうな顔でマウンドを見ると、一筋の光が見えた。
守神晃。
晃くん……。
あなたはいつでも私を照らしてくれますね。
あなたを見ると先程までのストレスがどこかに消えていく。
スーッと頭がクリアになり、単純明快な思想に移り変わる。
「私は負けない。なにを言われても、なにをされても……。絶対にあいつらなんかに屈しない」
輝く晃くんに誓うように、声に出して宣言してやる。
絶対にあいつらの思い通りにはさせない。
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