第187話 浜辺はイチャイチャするところだし、海もイチャイチャするところ

 さぁ日焼け止めも塗ったし、互いに、テカテカと体を光らせて海へ──。


「その前に、ビーチバレーやりません?」


 そそくさと、先程海の家でレンタルしたビニールのビーチボールを持って誘ってくる。


「いいね」


 彼女と波打ち際でビーチバレーなんて、最高のシュチュエーション過ぎてたまらないな。


 早速と海の方へと足を付けに行くと。


「ちょーっと、ちょっと!」


 珍しく有希が焦った声を出していた。


 なんで焦っているのかわからずに、手招きする。


「どしたー? おいでー」


 俺の手招きを無視して、視線を逸らす有希はちょっとばかし苦い顔で言ってくる。


「ビーチバレーは砂浜でやるものです。晃くんこそ、こっちにおいで♡」


 まぁ確かに。ビーチバレーってのは海でやるものじゃないとは思うが……。


「こっち、足元気持ちいぞ?」

「砂浜でイチャイチャビーチバレー、しよ♡」

「わん♡」


 バカ犬みたいに俺は尻尾を振りまくって有希の下へと走る。


 海? ばきゃやろ。


 足元だけが気持ちいのと、有希とイチャイチャ気持ちいのなら、当然有希を取るに決まってるだろ。


 有希の下へ駆け寄ると、愛犬みたく頭を撫でてくれる。


「よしよしー。いい子、いい子、ですー♡」

「キャンキャン♡」 


 専属メイドが愛でてくれるの、超たのしー! 一生、ご主人様いぬでいいわー。







「有希―。そろそろ海でチャプチャプしようぜー」


 イチャイチャビーチバレーを終える。


 随分とまぁイチャイチャし過ぎたな。


 なんか有希のキャラが壊れたくらいイチャイチャしたと思ったが、この子は付き合い出してからバグってるから心配いらないだろう。


 イチャイチャビーチバレーを終えたところで、海へと誘うと、ピクッと体を震わせてぎこちなくこちらを振り返る。


「コウクンツギハスナノオシロツクリタイ」

「なんて? つか、なんでカタコトなんだよ」


 いきなりのカタコトはAIよりも質が悪く何を言っているのかよくわからない。


「つ、次は砂のお城を作りたいです」

「それも楽しいだろうけど、良い加減砂の上は熱いから、海でイチャイチャ、バシャバシャごっこしようぜ」


 こちらの提案をフル無視して、有希は両手を広げて大袈裟に言ってのける。


「こーんな、大きな砂の城を作って、ふたりで一生幸せに暮らしましょ」

「へいへい。どした有希ちゃんやい。なんか今日は──」

「だめ?」


 言いながら、俺の腕を自分の谷間に挟んできやがった。


 しかしながら有希よ。さっきの日焼け止めよりかは強烈ではないぞ。


「しゃ! 俺達の新居作っちゃる!」


 あ、うん。こんなことされて言うこと聞かないご主人様いぬなんていないです、はい。


「わぁい♡ 大きいの作りましょうね♡」

「うん♡」







 当然、人が住めるほどの大きな砂の城なんかはできなかったが、なかなかの城が完成し、互いにハイタッチを交わした。


「晃くん、次は、そろそろお昼──」

「有希って泳げないよな?」

「!?」


 案の定な反応を示してくる。


「そ、そそ、そんなこと」


 あたふと、明後日の方向へ行ったかと思えば、一昨日の方向に戻ったりで、わけもわからず砂浜を彷徨いだす。


「わ、わた、わたわたわたわ、わたしは? 完璧美少女の妖精女王ティターニアですよ? 最高のプロモーションを持ち合わせ、最高に愛らしい顔立ちで、妖精の様な儚い雰囲気と、大和撫子顔負けの振る舞いを兼ね備えた、あなた様のために生まれてきた、超高性能の美少女メイド、大平有希ですよ!!」

「間違ったこと一つも言ってない」

「その大平有希が泳げない? はっはー! ないないない。ないですー! それなら海に来てません! はい、論破」

「論破されたわー。んじゃ、海行こうぜ」

「でもですね。今日は勘弁してやりますですます。はい」


 この子、自分で何言ってるのかわかってるのかな。


 珍しく彼女に冷ややかな目を向けると、ムスッと怒り出す。


「あー! そうですよ! 泳げませんよ! なにか悪いですか!?」

「自白した」

「泳げなくてもなにも困りませんもん! 例え海に投げ出されたとしても、晃くんが助けてくれますし! 人工呼吸もしてくれますし!」

「ライフセーバーでもない俺の信用たっか」

「てか? むしろラッキーてきな? 公衆の面前で晃くんとチューできるとか泳げなくてラッキーでしょ! 晃くんも私とチューできて役得、役得!」

「チューはいつでもできるだろ?」

「公衆の面前で見せつけてやりたいんです! 私のご主人様とのチューを! みんなの前で!」


 あ、この子バグったわ。


「そもそも! 泳げないからって海に来ちゃだめなんですか? ええ? 私は晃くんに水着姿見せたかったんです! 泳げなくても浜辺で晃くんとイチャイチャしたかったんです! めちゃくちゃしたかったんです! というか、私の彼氏なら愛しの彼女に泳ぎくらい教えろー!」


 嘆きの叫びが海に轟いたところで、彼女の手を握った。


「愛しの彼女に泳ぎを教えてやるよ」

「きゃん」


 ちょっと強引に引っ張ってやると、彼女には珍しく、弱々しく付いてきてくれる。


 足が海についたところで、有希に向かって水をかけてやる。


「それ!」

「きゃ!」


 水飛沫を浴びて小さな悲鳴をあげた。


「やりましたね……。それ!」

「うおっ。おりゃ!」

「あはは! えいっ! えいっ!」


 波打ち際での水の掛け合いが楽しすぎて、泳ぎを教えるのを忘れちゃった。

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