第157話 テーマパークはめちゃくちゃ楽しいけど、行く途中に既にテンションは上がるもの
ダブルデートは土曜日の朝、テーマパークの入り口集合で。
全員の都合がついた5月の下旬。
電車の環状線に乗り込んでベンチタイプの座席に有希と共に腰掛ける。
いつもの他愛もなくも、それこそが価値のあるものだと実感できる有希との会話を楽しんでいると、女子中学生くらいの3人組の会話が耳に入ってきた。
「これ合ってる?」
「多分……」
「ええっと……」
「てか、なんで電車のドアが左右どっちも開いたの? ややこしすぎでしょ」
キャリーバッグを持った彼女達の会話を少しだけ聞くと、有希が立ち上がり彼女達に声をかける。
「テーマパークに行くのでしたらこのままご乗車ください。5分もすれば到着致します」
銀髪の美少女が急に現れて道を示した。
まるで迷いの森を彷徨っていると、希望の光を与える妖精に出会ったかのように、女子中学生達は非現実体験の表情で唖然としていた。
流石は
「あ……」
現実に戻ってきたかのように1人が声を漏らすと、全員が頭を下げる。
「「「ありがとうございます」」」
「いえ、観光ですよね。ぜひ、私達の地元を楽しんでください」
「「「はい」」」
未だ現実味がなさそうに立ち尽くしている彼女達へ、微笑みを残してこちらに戻ってくる有希はなにごともなかったかのように俺の隣に腰掛けた。
「ふふ。ついついテンションが上がっておりますのでお節介をやいてしまいましたね」
「ま、ここの電車は観光客泣かせな部分あるからな。地元民なら大丈夫だけど、観光客はいくらネットみても騙される」
世界的にも有名なテーマパークに行く道は少しばかり険しい。都心の電車て色々難しいよね。
「なので、彼女達へ助言を施しました」
「いきなりこんな銀髪美少女が道を教えてくれるなんて、あの子ら電車の中が既にテーマパークになってるって勘違いしそうだな」
「やはり悪目立ちしますよね、これ」
長い銀髪を軽く摘んで少しばかり沈んだ声を出す。
「黒染めしようかな……」
決して軽いノリで言うわけではなく、本気で考えながらの発言。この子は自分の髪の色が嫌いみたいだからな。
「黒い有希も見てみたいけど、やっぱりそのままの有希が素敵だよ」
この前も言ったかもしれない安っぽいセリフ。
「晃くんがそう言うなら、このままにします」
安っぽいセリフでも彼女は髪の毛を払い、銀髪継続を宣言してから話を切り替える。
「それよりも晃くん。もうすぐ着きますね。なに乗ります? ね? なに乗ります?」
少女のように高揚した声で言ってくる彼女へ余裕の笑みで答えてやる。
「マンマミーヤ。落ち着きたまえ有希」
「ヤフー。とりあえず映画も熱い配管工さんからですね。新エリアから開拓ですね」
「まぁでも。そこはみんなと相談しないと。ダブルデートなんだし」
「そうでした。今日の目的は琥珀さんと坂村くんの急接近。琥珀さんに彼氏ができて、どちゃくそからかうのがトゥルーエンドです」
「白川にとっちゃ嫌なトゥルーエンドだな」
「私ならなんでも大丈夫。昨日のうちに予習してきたので、どのアトラクションでもOKですよ」
「テンションたけー」
しかし、まぁテンションが上がるのも頷ける。
まだテーマパークに着いてはいないが、テーマパーク行の車内は俺と有希を含めて浮足立っているにが伺える。
そりゃ楽しいテーマパークに行くのだから、今の時点でわくわくするだろう。
そんな空気に当てられたらテンションも上がるってわけだ。もちろん、俺もテンション爆上げでバイプスぶち上げよ。
『次は──』
車内のアナウンスがテーマパークの名前をそのまま使った駅名へと到着することを知らせてくれる。
「ほらほら晃くん。着きましたよ。降りましょう」
「うぇーい」
電車が停車してドアが開くと、小学生くらいの男の子が飛び降りて行った。
「父ちゃん、母ちゃん、はよー!!」
「ふふ。テーマパークは逃げんばい、まちぃや」
家族3人仲良く手を繋いでテーマパークへ急ぐ姿はかなり微笑ましかった。
イントネーション的に九州かな。遠路はるばるやってきたのだから、そりゃ楽しみで仕方ないだろう。
「私達にも子供ができたらあんな感じなのでしょうか」
「あれ? もう子供の心配? 俺と結婚したいの?」
有希がそこまで考えているのが嬉しくて、ついつい煽るような言い方をしてしまう。
好きな女の子に素直になれない男子の心境ってやつだ。
そんなことを言うと、ギロリと睨まれてしまう。
「結婚しない気で?」
視線だけで殺せそうな睨みつけ。
防御力が下がるというよりそのままHPが削られそう。
こんなの、結婚するか結婚させてくださいの2択じゃねぇかよ。本望だよ。
「させてくださいまし」
そう言うと睨みつけるをやめて、夢見る少女のように天を仰ぎ、大空へと夢を描く。
「子供は9人ですね」
「わぁ子供だけで野球ができて、家族全員でサッカーチームができらぁ」
「私、トップ下が良いです」
「有希は圧倒的ボランチだろ」
「とりあえず知ってる名前を言っただけなのでどこでも良いです」
「というか、子供9人って、有希の身体は大丈夫なんかいな」
そう言うとギュッと手を握ってくる。
「晃くんもガンバ!」
「あれ? もしかしてマジに計画してます?」
「ガンバ」
「あはは。断れる気がしない」
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