第153話 素の反応ほど脈がないことがわかる

 冷静に考えて付き合ってもいない2人なのに話を飛躍しすぎたな。有希が言うもんだから、ついついそう思ってしまった。


 そう考えると俺という存在は無条件で彼女の味方になってしまうのだろう。恐ろしいものよ。相手を好きになるということは。


 まぁ俺は有希に支配されても良いかもとか思っている人間。支配されようが、束縛されようがいける口だわ。むしろ、あんな美少女に支配されるとかご褒美だろ。

 

 そんな有希は自分の予想が外れてだいぶ悔しがっていた。


「おめでたなら哺乳瓶と粉ミルク。それとウォーターサーバーを私名義で契約したのに」

「有希。それは嫌がらせではなくて、本気のお祝いになってしまっているぞ。あとウォーターサーバーを他人名義で契約したらダメだろ。どんだけ白川のこと思ってんだ」

「そうでしたね。ウォーターサーバーなら私名義で晃くんへ送るべきです」

「ばぁか。俺名義で一緒に使おうぜ」

「晃くん」

「有希」

「ねぇ近衛くん。この2人は1日1回はイチャつかないと死ぬの?」

「おそらく爆発するだろう」

「へぇ。じゃあ爆発したら良いのに」

「リア充爆ぜろ」


 ものすごい言われようだが、有希とイチャつけるならその言葉ですら甘美に聞こえる。


 坂村は親戚に生まれてくる赤ちゃんへお祝いとして服をプレゼントすることにしたそうだ。彼がレジに行っている間に、白川がバレバレの尾行をしている俺達の下へとやってきたってオチらしい。


「ん……。でも待てよ」

「どうしたイケメンゴリラ」


 レジに行った坂村を待つ間、白川を含めたいつメンで固まっていると、正吾が会話を止めて考えを発表する。


「理由はどうであれ、デートなんじゃない?」


 正吾の言葉に白川が憂いの帯びた顔をして肩を軽く叩く。


「近衛くん。流石に今の状況で守神くんとデートってのは無理があるよ」

「そうですよ霊長類王キングコング。良い加減負けを認めて私達に祝福の結婚ソングを歌いなさい。アーメン」

「ちげーわっ! いや、違うこともないかもだけど、ちげーわっ!」

「偉いぞ正吾。今日はツッコミに回ることになったから頑張ってツッコミに励んでいるじゃないか。感心、感心」

「ウホ」


 ちょっと嬉しそうなゴリラ語を放つと途端に首を振り、「違うっての!」と改めて白川に言ってのける。


「白川と坂村のことだっての!」

「ぬ?」


 正吾が珍しく的を得たことを発したので理解するのに数秒かかったが、言われてみればそうだ。


 高校生の男女が並んで買い物をしている。買っているものはなんであれそれは紛れもない事実。これはデート言えるのではなかろうか。


「あ、本当ですね。今の状況だけで琥珀さんの弱みを全然ゲットできます」

「ちょっと、ゆきりん?」

「弱みゲッチュ」

「ゆきりんが言うとすげー可愛いから許せる」


 同性をも美貌でなんとかするゆきりん超可愛い。


「そこんとこどうなんだよ白川ぁ」


 若干煽るように聞くと彼女は涼しい顔をして返してくる。


「どうって。クラスメイトと買い物しただけで何かあるわけでもないでしょ」


 いやに冷静に、素の顔で言うもんだから、こりゃ坂村には可哀想だが脈はなさそうである。


 しかし坂村も今回の件、言い方が悪くなるが、親戚を出汁に使って白川を誘ったことだろう。恋は時に人をゲスにさせる。その勇気に免じて、少し深堀してやることにしよう。


「でもよ。坂村のことは嫌いじゃないんだろ?」

「へ? そりゃ同じ部活だし。仲は良いと思うよ」

「それだけ?」

「それ以外に何を求めるの?」

「いや、大丈夫です。はい」


 すまん坂村。恋愛経験の乏しい俺では、お前に脈がないという真実をグーで殴ってくる白川しか掘り起こせそうにない。


「でもよぉ。坂村が告ってきたら白川は付き合うのか?」


 正吾。良いぞ。切り込んだ。


 アホだからズカズカとデリケートなところに乗り込んだ。イケメンだから許される行為。今はその面に感謝を送り白川の回答を待つ。


「まず坂村くんがわたしに告るとかないでしょー。好きなタイプと違うみたいだし」

「え? そうなん?」

「そうだよ。坂村くん、ゆきりんがタイプだって言ってたし」

「な、なにをおお?」


 坂村のやつ、有希を狙ってやがるのか。言ってること全然違うじゃないか。


 若干の怒りが込み上げてくると、ぽんと有希が俺の肩に手を置いた。


「大丈夫です。晃くん以外の男性になびくことは決してありません」

「有希」

「晃くん……」

「おい白川。2人のイチャイチャスイッチ押すなよ」

「ごめーん。この人達のスイッチガバガバだよー」


 俺と有希が見つめ合っていると白川がレジの方を見て、「あ、終わったみたい」と声を出すと手をあげてレジの方へ向かって行った。


「じゃあねみんな。また学校で」


 みんなで手を振り合って白川と分かれると有希がボソリと呟いた。


「坂村くんは琥珀さんが好きなのですね?」


 話の流れから察した有希が俺に聞いてくる。坂村には申し訳ないが、「ああ」と肯定しておこう。あとでめっちゃ謝ろう。


「なるほど。では琥珀さんと坂村くんが付き合った場合、ダブルデートが可能ですね」

「ダブルデート。なんとも良い響きだ」

「なぁ。俺は?」


 正吾が自分を指差して聞くと有希がジト目で言い放つ。


「動物園にでもいけば素敵な彼女がいるのでは?」

「よっしゃ! メスゴリラに求愛して来るわ!」

「あ! おい! ツッコミ慣れしてなくてムズムズしていたところにボケのチャンスが到来したからってノリノリでボケて動物園に行こうとするな!」


 俺の声は届かずに正吾は急足でエスカレーターを降りて行った。あいつマジで動物園に行ったのではないだろうな。


「近衛くん。本気で?」

「わからんが……。俺達も帰ろう。有希もバイトで疲れてるだろ?」

「そうですね。あ、帰りにスーパーに寄っても良いですか?」

「もちろん。今日の晩御飯はなに?」

「ポトフでもいかがです?」

「わーい。有希のポトフ好きだぜー」

「ふふ。では食材を買って帰りましょう」


 こうして俺のゴールデンウィークはしょぼく過ぎて行く。


 いや、有希と一緒だからしょぼくはないよな。うんうん。

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