第143話 もしもし私メリーさん。なんかよりも怖い気がするけど、そっちの方がやっぱり怖い
「お昼ご飯は冷蔵庫に入れております」
「うん。ありがとう」
「帰りは遅くなりますが、先に食べておきますか?」
「ううん。有希と一緒に食べたい」
「ふふ」
大人な笑みを見せてくれると、彼女は嬉しそうに返してくれる。
「では、一緒に食べましょうね」
「うん。待ってる」
「良い子で待っててくださいね」
言いながら頭を撫でてくれる。メイドに撫でれられるとか、性癖クラッシュも良いところだ。
「では行ってきます」
「行ってらっしゃい。気をつけて」
お互いに手を振り合って、有希は俺の部屋を出て行った。
メイドを見送るご主人様も中々良いよね。
今日は3年生になり、初めての休日。
どうせなら有希とまったり過ごしたいのだけど、今日の彼女はメイド喫茶のアルバイトの日。
お昼ご飯を作ってくれて、晩御飯の仕込みを俺の家でしてくれてからバイト先へと向かってしまった。
バイトの日くらいは大丈夫と言ってたのだけど、「私の生きがいですので」なんて言ってくれるので、もう手を組んで感謝することしか俺にはできない。
もはやメイドというより女神的存在になりつつある。
そんな彼女がいなくなり少し寂しい部屋。冬を越え、春になったと言ってもまだちょっとだけ肌寒い。
でも、窓を開けると春の暖かい風が入ってくる。春風と共にどこから来たのか桜の花びらが来訪してくれた。
ひらりはらりと俺の前を泳ぐ桜の花びらはそのまま俺の手のひらに着地する。
「桜か……」
そういえば生まれてこの方花見なんてしたことないな。桜が散るのは早い。
そこが儚くてオツなのかもしれないが、あまりにも散るのが早過ぎる気がする。これでは花見なんてできたものじゃない。
なんて思いながら桜の花びらをベランダに出て空に返す。
ひらひらと春の青空を気持ち良く泳ぐ桜の花びらは、ここから駅に向かう有希の後ろ姿を追うように泳いで行った。
花より団子なんてことわざがあるが、花よりも華がある少女よな。大平有希。桜の花びらよりも彼女の方をついついと見てしまう。
「ほんと。俺なんかがあんな美少女と恋人なんて奇跡だよな」
まだ現実ではなくて夢ではないのかと思うほど、有希の後ろ姿は綺麗である。通行人が少ない道なのに、道行く人が彼女を絶対に2度見するのが美しさの証だ。
ブゥゥゥ。ブゥゥゥ。
ふと部屋のこたつテーブルに置いてあるスマホが振動する音がして、ピクッと反応する。
「はいはいはーい」
誰に返事をしているのかわからないが、バイブレーションの長さから電話だろうと予想できる。
ベランダから部屋に戻り、スマホを手に取るとゾッとする。
「あの人……?」
スマホにはそう記されていた。
一体誰だ……?
俺はこんな名前で誰かを登録したことがない。
え? ってことは……メリーさん的な何か……?
「怖い、怖い、怖い」
怖いと思いながらも、好奇心旺盛な男子高校生は、ゴクリと生唾を飲んでから電話に出てみる。
「も、しもし?」
『……え? 男?』
電話越しに聞こえるのは女性の声であった。
『……あんた有希の彼氏? なんであの子男作ってんのよ。代わりなさい! すぐに! 男なんて許さないんだからね!』
「ヒイィ」
このメリーさんめっちゃ恐いんだけど。怖いんじゃなくて恐い方なんだけど。
メリーさん的な何かが俺と有希の関係を否定してくるので咄嗟に電話を切った。
「なんだよ……。学校の奴らにもまだ否定してくるやついるのに。メリーさん的な奴まで俺と有希を否定してくんなよ。まじで……。こえーやん」
なんて言いながら持っていたスマホに違和感を覚える。
「うん。これ。有希のスマホやん。気が付かなかったやん」
すぐに気がつけよと思われるかもしれないが、自分の家にあるスマホだから自分のものだと思ってしまった。それに有希がスマホを忘れるなんて珍しい。
「……って、有希のやつスマホ忘れてるやん」
これは一大事だ。現代社会に置いてスマホを忘れるなんて致命的なミス。財布を忘れるよりもやばい案件。
すぐにベランダに出て見るが、有希の姿は既になかった。
「……届けるか」
有希が電車でスマホをいじる際、スマホを失くしたと思い失望する姿を想像すると、居ても立ってもいられない。あと、久しぶりにメイド喫茶に行きたかったから。
「ヒィィ」
持っていた有希のスマホを震える。また画面には、『あの人』と記されている。
怖い、恐い、こわい。もう色んな理由でこわい。1回電話に出てるから尚のことこわい。これならメリーさん的な奴からの方がマシ。じゃないな。うん。霊の方が怖いよ。まじで。
しかし、『あの人』というのは有希の知り合いで、もしかしたら内容から有希のお母さんなのかもしれないな……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます