第141話 お姉様爆誕
3年生最初の学校は11時を過ぎた辺りで終了。本日は始業式と入学式だけだから早めのお開きとなる。
「晃くん」
「晃」
ほぼ同時に声をかけられると、目の前には有希と正吾の姿があった。2人は互いに顔を見合わせると、火花を散らす。
「近衛くん。私が晃くんに用事があるんですけど」
「俺の方が声をかけるの早かったぞ」
「タッチの差で私ですー」
いきなり現れた2人は人の席の前で言い争いを始める。
「おつかれー。って、なんで2人、バトってんの?」
白川が教室を出るついでに声をかけてくれるが、有希と正吾の言い争いを見て小首を傾げた。
「モテる男は辛いぜ」
「ほんと、守神くんって美形にモテるよねー」
苦笑いを浮かべられてしまうと、2人のバトルが白熱する。
「ただのお友達と恋人なら容赦なく恋人を取ります。見てください! この美貌を!」
有希の奴変わったなぁ。ナルシスト発言なんてあんまりしなかったのに、教室で堂々と申し出ている。
「俺と晃はそんな甘っちょろい関係じゃないぜ」
ムキっと上腕二頭筋を魅せつける。
「こういう関係だ」
「どういう関係?」
白川が指差して俺に聞いてくるので上腕二頭筋の下の部分にある上腕三頭筋を指差す。
「俺と正吾は上腕二頭筋と上腕三頭筋の関係。表裏一体」
「なるほど。つまりバカだ」
「そうともいう」
納得の白川を横目に、ガシッと有希と正吾が熱い握手を交わしていた。
「晃くんが好きな気持ちでは負けませんけど、近衛くんの愛もまた一興」
「そういう見方もできる大平よ、天晴れ」
数秒よそ見をしていただけで、
「「体は筋肉で出来ている!!」」
友好条約の契約か、当たり前のことを叫んで2人の友情は深まっていた。
♢
有希と一緒に帰ってお昼にしようと思ったのだが、正吾がお昼を誘ってくれた。
「みんなで行きましょう」
有希の提案に正吾は乗り気だったが、白川は両手を合わせて申し訳なさそうに謝る。
「ごめんね。わたし、部活あるんだ。夏まで時間ないし」
そりゃ野球部はマネージャーが監督してるみたいな部分もあるし忙しいだろう。有希は残念そうな顔をしていたが、切り替えて3人でお昼を食べに行くことになった。
「4人で勉強したりはあったけど、3人ってのは珍しいよな」
正門付近までやって来て、ふと思ったことを口走る。
テスト前に、今のメンツに白川を加えた4人で集まることはあったが、この3人ってのはレアな組み合わせだ。
「そういえばそうですね」
「ふっ。2番手に降格した俺が遠慮してたからな」
「いや、あたかも付き合ってたみたいな感じ出すのやめろよ」
「だが、3年となったら話は変わるぜ! 今日からはガンガン押していくからな! 晃。覚悟してよね! だぜ!」
押してくんなよ。ちょっとおねえも入ってるし。
「負けるわけにはいきません。正室として晃くんの隣に君臨するのは私です。私以外が晃くんの隣に立つことは許されません」
「ボロ勝ちだわ。有希のボロ勝ち。もうほんと隣に立つのは有希以外いないから」
その通りが過ぎるので有希の腕にしがみつく。
「「えへへ」」
お互い見合って微笑み合う。
「うん、いや、まぁノリでずっと喋ってたけどよぉ。まじでいきなりイチャつくのやめてくんない? 見てて胸焼けするぞ」
いきなり素に戻る正吾を無視して、ギュッと有希の腕にしがみつく。
「晃ちゃん!! 駄目だよ!!」
ふと、聞き覚えのある声が聞こえてくると同時に有希から引き剥がされてしま
う。
引き剥がす時に腕がなにかやたらと柔らかい物に当たっている。
「モテないからって生徒会長さんに抱きつくなんてセクハラだよ!!」
説教されているみたいだが、その柔らかい感触の方が意識近い。なんて言ってる場合ではなかった。
顔を見てみると、そこには見覚えのある女の子がいた。
「芽衣。おま……」
おっぱい大きくなったなぁなんて感想が出そうになるのを堪える。
「現実を見よう。ね? 晃くんにお似合いの人はきっと現れるから」
「何気に酷いことをいう奴だな」
芽衣の酷い発言の最中、正吾がネコを持つみたいにして芽衣の首根っこあたりを持って俺から剥がす。
「あ! 出たなアホ正吾! 離せ!」
シャアアと猫みたいな鳴き声で正吾へキックやパンチを繰り広げるが、届いていない。
「芽衣よ。見てみろよ」
「なにを?」
そう言って、くるりと芽衣を有希の方へ向けると、「ひっ!」と小さな悲鳴が上がり固まった。
蛇に睨まれたカエルなんて言葉がぴったりな状況で俺も有希の方を見てみる。
「こぉおぉくん?」
「ヒィィ」
笑顔が怖かった。
「……綺麗……」
さっきまで固まっていた芽衣が、美術館の作品に一目惚れするかのように声を漏らす。
「ええい。離せ、アホ正吾」
そう言って正吾を振り解き、芽衣は有希の前に立つ。
「本当に綺麗……」
「え? え?」
いきなり、綺麗を連発させて、言われ慣れているだろうが動揺していてる有希。そんな彼女へ容赦なく芽衣は続ける。
「入学式の挨拶の時、遠目からなんて綺麗な人なんだろうって思ってました。ですが、こうやって今目の前にいる生徒会長さんを見て改めて綺麗だと思ってしまいました。生徒会長、まじ
「あ、あはは。そ、そうですか。え、えへへ……」
「あの! 生徒会長さん! どうやったらそんなに綺麗になれますか!? あたし綺麗になりたんです!」
「え!? ええっと、どうやったらと言われても……」
「生徒会長さんの弟子にしてください!」
「なんのです!?」
「美貌弟子です!」
悪い気はしない雰囲気を出している有希は、顔を少しほころばせながら言った。
「弟子とかはちょっと……」
「では、せめてお姉様と呼ばせてください」
「良いでしょう」
即答だった。どうやらお姉様と呼ばれたかったらしい。
「お姉様!」
「なんです、可愛い子猫ちゃん」
「キュン♡」
芽衣は有希にメロメロになっていた。
「なぁ晃。俺達はなにを見せられているんだ?」
「今流行りの百合だろ。察しろよ」
「これを百合と呼んだらガチ勢にしばかれんじゃない?」
「知らねーよ。それより、このノリいつまで続くんだ?」
お姉様と子猫ちゃんの件は正門で15分続いたとさ。
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