第139話 3年になっても変わらない
朝から有希で一杯になる。幸福度がパラメーターとして可視化されたとしたら振り切れているだろう。
存分にイチャイチャした後に、新しいクラスへと足を運ぶ。
有希が予めクラス表を見てくれていたらしく、俺達は3年A組らしい。
今年も同じクラスになれた喜びを噛み締めるように、最後は頬へとキスをし合ってから3年A組へと向かう。
「それにしても今年も同じクラスになれて嬉しいな」
廊下を歩きながら有希に喜びを伝えると、彼女もまた喜びを伝えてくれる。
「はい。今年も1年お願い致します」
うん。よろしく。と言おうとしてやめた。
「そっか……。有希は1年だけよろしくなんだな。俺は一生よろしくなんだけどな……」
わざとらしく哀愁を漂わせると、「あわわ」と慌てて訂正してくる。
「違います! 一生です! 一生お慕いします!」
お慕いまでは言われると思っておらず、大袈裟な言葉に吹き出してしまう。
「な、なんで笑うのですか!」
「いや、そんなこと言われて嬉しいと思って」
「うう。晃くん如きがこの歴代最高の生徒会長をバカにしているのですか?」
笑いながら有希の頭へと手を乗せて撫でてやる。
「みんなから見れば歴代最高の生徒会長でも、俺から見れば可愛い彼女だよ」
「むぅ……。ムカつきます……。ですが、晃くんに頭を撫でられたいので甘んじて受け入れます」
頬を膨らませて拗ねながらも頭を撫でられる。
ついつい人目があるのを忘れてそんなことをしているもんだから、廊下にいる生徒達に白い目で見られてしまう。
その目が、「なんだ? あいつ」、「どこでなにしとんねん」、「場所わきまえろ」等の意味が込められているのがわかった。
「……コロス」
声に出しちゃう奴もいたわ。怖え。
まぁ、確かに、俺も1年生の頃の精神状態なら間違いなくあっち側だったろう。
学校でこんなことしてる俺が悪いのは間違いではないので、有希の頭から手を離そうとすると、ガシッと手首を握られる。
「大丈夫ですよ。なにかあったら私が晃くんをお守りします。ですので、存分に頭を撫でてください」
イケメン発言なのか、わがまま発言なのか微妙なセリフをいただき、容赦なく彼女の頭を撫でる。
「えへへ……」
凛とした表情が多い美少女が、こんなにもとろける顔もできるのに心から感心していると、有希が俺の耳元に息を吹きかけるように、こっそり言ってくる。
「いっぱいちゅーして、いっぱいなでなでしてくれたから、私、今日は頑張れるよ♡」
彼女の甘い息と言葉が脳に轟くと、一瞬で顔が歪む。
「ふふ。なんて顔してるんです。だらしないですよ」
「有希こそだぞ」
「私は今からゾーンに入ります」
いきなり表情をキリッとさせた。
「そして教室に入ります」
「ゾーンに入って教室に入った。凄い切り替えだ。流石は
♢
3年A組の教室に入り、黒板に張り出されている座席表を確認して着席する。
どうやら例年通り、窓際からの名前順らしく、有希とは離れ離れになってしまう。
守神なので後ろの方だとはわかっていたが、どうやらこのクラスでは1番最後らしい。小学生以来の1番最後の名前順である。廊下側の1番後ろの席に腰を下ろした時であった。
「こおおお!!」
「無理無理無理無理!」
さっきまで砂糖の暴力みたいに、やたら甘くてとろける様な時間を過ごしていたのに、いきなり熱苦しい奴が来るとか本当に暴力みたいなもんだ。
「なんでだよ!」
「こちとら朝から目の保養は済んでんだよ! イケメンゴリラに用はねぇよ!」
言うと、イケメンゴリラの近衛正吾はシュンとする。
「幼稚園の頃から高校3年までずっと一緒の最高記録達成の瞬間だったのに」
「ま、確かにめでたいのはめでたいな」
途端に明るく、「うええええい!」と訳のわからないノリになり、パチンとハイタッチを交わしておく。
なんだかんだ、この情緒不安定ゴリラが一緒なのは嬉しい。
「2人共。騒がしいですよ。もう少し静かにしてください」
正吾の騒音に流石の生徒会長である有希が注意してくる。さっきまで激しいキスをしていた相手とは思えないほどに凛とした表情をしており、そのギャップにやられそうになる。というかもうやられてる。
「ふふん。たかだか晃と2年連続で一緒なだけの
「なっ……!?」
なんか知らんが、正吾が有希に喧嘩を売り出した。
「こちとら15年連続で晃と同じクラスなんだわ。これがなにを意味するかわかるかい?」
「ぐぬぬ……」
「こらこら。そんなことで悔しがるなよ」
唇を噛み締めて悔しそうにしているのは演技なのか本気なのか。
「あ、愛は時間ではありません!」
「15年連続はもはや愛の塊だろ」
「ぐぬぅ」
「おはよー……。って、なに?」
「野球部マネージャー
「朝っぱらから喧嘩を売られている気がするんだけど……」
「いやいや。嬉しいね。
「ルビで遊ぶな! てか、今はっきりとモブって言ったよね!? ね!?」
「言った」
「どうせモブだよ! バァカ!」
白川は怒りを出した後、壮大にため息を吐く。
「朝から、
「おい待て。ゴリラをヒロイン扱いするな」
「あれは最早メインと争いを繰り広げるメイン寄りでしょ。愛が深いし」
「毛も深いしな」
「うまい。ゴリラなだけに愛も毛も深い。座布団1枚だね」
こちらの平和? 的やり取りとは対象に、向こうさんは激しい口論となっている。
「わ、私なんて今日は朝から晃くんから熱い時間を過ごしました! もう汗だくです!」
おい待て。今朝のこと言おうとしてない? この子、さっきのこと暴露しようとしてない?
「なに? おたくら朝からえっちなことでもしたの?」
白川がジト目で見てくるので、すぐに否定する。
「そんなことはしてない」
ぼそっと、ギリギリと付け加えておくが彼女には聞こえてなかったみたい。
「俺なんて晃と飯行ったら、ガリとか紅生姜とか、醤油とか生姜とか、めっちゃ取ってくれるぜ!」
ゴリラの抵抗は、あまりにもしょぼかった。
「うっ!」
それが有希には効果抜群であった。
「私だって……晃くんのガリとか紅生姜とか、醤油とか生姜が、欲しい……」
膝から崩れ落ちるくらいにショックを受けている。
「なるほど。最近、あまりにも愛が激しいから、こういうしょぼいことが逆に羨ましい的な奴か。反動ってやつ?」
「晃くんのカリって……。ゆきりん……えっちだね」
「白川の耳はエロくできてんのか? 明らかにガリって言ったろ」
「……」
白川は顔を赤くして黙り込む。
「白川が淫乱なのは良いけど、清楚系最強のうちの専属メイドを巻き込まないでいただきたい」
「だあああらああああ! コロスうう!」
白川を俺をポコポコと叩いてくるが、可愛いだけで痛くない。
「こらこら。そんなえっちなパンチじゃ俺をヤリチンにはできないぞ」
「やめてえええ! わたしをそんなキャラにしないでえええ!」
「はっはっはっ。3年になって心機一転。ビッチキャラに進化したね。モブヒロイン」
「はっきりモブって言うなああ!」
白川の嘆きと共に。
「俺の勝ちみたいだな。
「うう……。こんなゴリラに負けるなんて……」
「はっはっはっ!」
あっちはあっちで勝負が付いたみたいだ。完全敗北妖精女王は、その場で白くなっていた。
有希……。ディープキスと頭なでなでじゃ足りなかったのかな。次はもっと激しいのをしてあげて強力なバフを与えてあげないといけない。
……とにかく、どうやら3年生も楽しくなりそうな予感がした。
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