第138話 美しさとホラーは紙一重。でも、結局彼女のことが好き

 緑地公園の桜も満開であったが、学校の桜も満開に咲き乱れている。


 正門から校舎に伸びた桜並木。前を歩く真新しい我が校の制服を着た女子の新入生を出迎えるように春の風が吹いた。


 桜の花びらと共にスカートが靡いてイチゴパンツがモロに見えた。


 その光景がやけに儚くて、ふと、俺の高校2年間は儚くも瞬く間に過ぎて行ったことに気が付く。


 もう、高校生活は1年しか残っていないと思うと感慨深い。


 それにしたって高校生にもなってイチゴパンツなんて中々のロリっ子が入って来たというものだ。


 人のパンツを勝手に見ておいてなんという感想を述べていると、前の人物がスカートを押さえながら辺りを、キョロキョロと見渡した。


「「あ……」」


 前の新入生と目が合うと互いに声を漏らしてしまう。その新入生が、パタパタとこちらに駆け寄って来る。


「晃ちゃん」

「芽衣じゃないか」


 岸原芽衣は幼馴染の妹。つまりは幼馴染ということになるのか。年は俺よりも2つ下で、今年から高校生になる年齢だ。


「お前、この学校受けてたの?」

「うん。春休みに言ったでしょ。『また学校で』って」

「ありゃこういう意味だったのか」


 言い間違いだと思っていたが、どうやら本当にまた学校で会おうという意味だったとは驚きである。


「お父さんもお母さんも、晃ちゃんと正吾がいるなら安心できるって言ってたからね」

「1年しか被らないぞ」

「2人を出汁にして目指せリア充」

「俺達から出汁を取ってもなにも取れるとは思えないな」

「そんなこと言わず、可愛い幼馴染後輩のために一肌脱いでくださいよ。先輩♪」


 部活をしていない俺に取って、高校生活で後輩なんてできないと思っていたが、予想外なところで後輩ができてしまったな。


 ま、後輩というよりは幼馴染の妹って感じが強過ぎるが。


 春休み以来の芽衣とばったり会って、お互いにクラス発表が行われている昇降口前まで歩いていると、ポケットのスマホが震えた。


 見ると有希から着信があった。


「もしも──」

『今すぐ生徒会室に来なさい』

「ん? なんか──」

『来なさい』


 電話越しの有希からもの凄い圧を感じる。


「えっと、まだ、クラス見てな──」

『つべこべ言わず、ご主人様はメイドの言うことを聞く。違いますか?』


 うん。立場的に逆だと思うんだけど。逆らうと怖いから、「はい」と返事をしてから電話を切った。


「晃ちゃん?」

「寄る所あるから俺は行くわ。新しい学校生活、楽しめよ」

「頑張るよ。初めが肝心だもんね。ぶちかましてくる!」

「あまりはしゃぎ過ぎると浮くぞ」

「その時は先輩達に寄生するから大丈夫」

「俺達はなんて都合の良い男なんだ」


 ま、がんばれよ。


 芽衣に改めて言って俺は急足で生徒会へと足を向けた。







 生徒会室に入ると、いつも通りの内装で、相変わらず片付いている。


 綺麗な部屋の接客用の対面ソファーに有希が優雅に座り、モーニングティーと洒落込んでいる。


 あまりにも美しい光景は、キラキラのエフェクトが見えた。


 俺が来たことに気がつくと、こちらを見ずに手を前に差し出す。


「どうぞ。おかけ下さい」


 彼女の声は異常なまでに綺麗であった。


「は、はい」


 なんだか嫌な予感がして自然と声が震えてしまう。


 有希の言う通りにソファーに座ると、ニコッと微笑んだ。


「さっきの子は誰ですか?」


 ゾクっとした。


 見た目こそ美しい妖精女王ティターニアであるが、その実、今にも呪い殺されそうな雰囲気を持っている。


 美しいを振り切り、もはやホラーと化している。


 めっちゃ怖い。綺麗。怖い。可愛い。怖い。好き。


 感情がめちゃくちゃになっていると、彼女が追求してくる。


「さっきの子は誰ですか? と聞いているのですが?」

「ひゃ、ひゃい」


 さっきの子というのは明らかに芽衣のことだろう。


 どっから見ていたのだ。生徒会室からさっきの場所は見えないはずだ。


 いや、今はそんなことはどうでも良い。妖精女王ティターニアなんだ。神眼で覗き見たと言われても信じる。


「え、えと、幼馴染の……」

「幼馴染ぃ?」


 ピキンとティーカップが割れた。なんなのこの子。神通力でも使えんの?


「ご主人様の分際で幼馴染なんていると仰いますか?」

「あ、い、いや」

「メイドとディープキス交わした数時間後には幼馴染とイチャコラですか? ええ? 良いご身分ですねぇ」


 怖い。綺麗な笑顔が今はめちゃくちゃ怖い。でも、好き。


 なんとか誤解を解くために俺は立ち上がる。


「あ、ご主人様の分際で! メイドが立って良いと言うまで立っちゃダメです」


 メイドの言うことを無視して、隣に座る。


「ん……!?」


 有無言わずに彼女の唇を奪った。


 早朝は有希からされたけど、今度は俺から深めのキスを仕掛けた。


「ん……。はぅ……」


 彼女はすぐ受け入れてくれて、そのまま時間を忘れて有希を感じる。


「ぷはぁ……」


 すっかりホラー感は消え失せ、ときめきな表情へと移り変わった。


「俺がイチャイチャするのは専属メイドの有希だけだから」

「うう……。ずるいです……。そんなことされたら、私、晃くんになにも言えないですよ……」

「じゃあ、もっと言えなくする?」

「……言えなくしてください♡」


 目を瞑ってキス顔をしてくれるので、迷うことなくもう1度有希とキスを交わした。


「ん……。あ……。この後、新入生に、挨拶……あるのに。脳がとろけて、なにも言えなくなっちゃいます」

「脳がとろけてなにも言えなくなるダメな有希も好き」

「えへへ……。じゃあ、私ダメになっちゃいます♡」


 入学式が始まる前に何度もキスを重ねるが、結局のところ、幼馴染の誤解が解けたかどうかはわからない。


 でも、生徒会室は甘い空気に包まれたのでヨシとしよう。

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