第127話 幼馴染の様子が少しおかしい
俺の実家から芳樹の実家はかなり近い。
徒歩1分以内。正吾の家も似たようなものだが、芳樹の家の方がちょっぴりだけ近い。
よく、リトルに行く時は、俺が芳樹の家に行き、2人で正吾の家に行って練習に行っていたな。エナメルバッグ背負って、自転車で立ち漕ぎして急いで練習場に向かったっけな。
懐かしい思い出を描きながら、正吾にLOINを送りつけ、芳樹の実家を訪れる。
普通の1軒家。銀行員の父親とパートをしている母親。特にウチの母親と芳樹の母親は仲が良い。そして、中学3年生の妹との4人暮らし。
芳樹と一緒の高校に行くと決まった時、自分の息子のように喜んでくれた。怪我をしてしまった時、自分の息子のように残念がってくれた。俺の1人暮らしに、芳樹の両親も賛成してくれてたらしい。妹の方は大反対だったみたいだけど。
第2の家族というとおこがましいと思われるかもしれないが、それくらいに温かい場所だ。
慣れた手つきで、久しぶりのインターホンを押す。馴染みのある音が鳴ると、すぐにインターホン越しに女の子の声が聞こえてくる。
「こ、晃ちゃん!? ちょ、ちょ、ちょっと待ってね!」
酷く焦ったような声が切れると、芳樹の家の玄関が開いて、ショートヘアの女の子が出てくる。
「晃ちゃーん!」
ショートヘアの女の子は、そのまま犬みたいに飛びついてくる。
「うおっ」
ガシっと飛びついてきた女の子を受け止める。
「相変わらずパワフルな妹だな。芽衣」
「へへー」
芳樹の妹の、
彼女と最後にあったのは中学1年生の頃だったので、彼女も女性として色々と成長しているみたいだ。だが、根本はそうでもないみたいで、昔みたいに飛びついてくる癖は変わらないみたいだ。
「てか、晃ちゃん」
俺から離れると、先程まで嬉しそうに笑っていたのに、ムスッと怒ったような顔をしてくる。
「高校に入ってからあたしに会いに来てくれないなんてどういうこと?」
「遠距離中の彼女みたいな発言だな」
「違うの?」
「違うだろうがっ。はぁ……。いくつになっても、ノリが正吾と変わらないな」
「なっ!?」
芽衣は、「うう!」と犬っころが怒るような唸り声を出す。
「アホの正吾と一緒にしないでっていつも言ってるでしょ!」
この通り、芳樹と俺には、人懐っこい犬みたいなんだが、正吾にだけやたらと食いつく。その割に2人は似ている。同族嫌悪ってやつだろうか。
「はっ!?」
芽衣は思い出したような声を出すと、キョロキョロと辺りを警戒する。
「そういえば、アホの正吾は?」
「いないぞ」
「え、うそ……」
信じられないといった表情。
「晃くんがアホを散歩させてないなんて……」
「流石に正吾を犬扱いなんて、犬に失礼だろ」
「あ、そうだね。ごめんなさい。犬さん」
とりあえず頭を下げる芽衣は、頭を上げると、本気で驚いている顔をした。
「でも、基本的に2人は一緒にいるのに……。どうかしたの?」
「いやいや、流石にずっと一緒ってわけじゃないぞ」
「でも、お兄ちゃんのお見舞いに来たんでしょ? だから、来るなら2人で来ると思ってたのに」
彼女の発言に、ピクっと反応してしまう。
「やっぱり……」
「2人共」
玄関前で騒がしくしていると、家の中から芳樹が現れる。
相変わらず、顔は爽やか系なのにガタイがパンパンのアンバランスな体をしている。
「玄関で騒いでいたら近所迷惑だよ」
「ごめんなさーい」
芽衣は兄の注意を素直に受け止めて返事をする。
俺は反抗というわけではないが、彼の正論に返事をせず、心配する様子で彼を見てしまう。
怪我をしたと、芽衣が口を滑らせたが、外見的には怪我をしている様には見えない。
そんな俺の表情に気が付いた芳樹は、いつもみたいに爽やかな笑顔で……。
「や、晃くん。まさかキミも実家に帰ってきているとは思わなかったよ。流石は幼馴染。実家に帰ってくるタイミングも同じなんだね」
爽やかじゃなかった。
いや、側から見れば爽やかな笑顔なのかもしれないが、これはかなり無理をしている顔だ。俺にはわかる。
だって、俺が怪我をした時の無理している顔と全く同じような顔つきだったから。
「春休みで暇だし、どっか遊び行こうよ。芽衣も一緒に行かないか?」
「え……。良いの?」
「もちろんさ。みんなで遊びに行こう」
口調も、表情も、普通に見えるが、その心の奥底は曇って見えてしまう。
「晃くん。大丈夫だよね?」
「あ、ああ。うん」
柔らかい質問の本質に、断るなと言わんとする気迫が入っている気がして、頷くしかできなかった。
おそらく、芽衣の言う通り、芳樹が怪我をしているのは本当のこと。しかし、こちらから聞くのはどうかと思うので、遊んでいるうちに彼から事情を聞くことにしよう。
長くなりそうなので、有希にLOINを送って謝っておく。
「ゲーセンに行こう。行ってみたかったんだ」
基本的には受け身の芳樹が珍しく提案する。
俺と芽衣は顔を見合わせて、肯定的に頷いた。
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