第120話 多忙なメイドへどうやってプレゼントを渡すか

 結局、無難なところでキーホルダーを購入してしまった。


 有希へ初めての誕生日プレゼント。


 今ままで誰にも祝ってもらったことのない誕生日。俺が初めて祝ってあげる誕生日だからこそ、何か気の利いたプレゼントを渡してあげたい。理想の中の自分は、壮大なプレゼントを贈り、彼女との仲が更に深まる。


 だが、理想のプレゼントは遠過ぎた。


 そもそも壮大なプレゼントなんて漠然とした妄想の物なので、具体性がないため、なにをプレゼントしたら良いかなんてわからない。それに、俺は高校生だ。大人じゃないので、高価な物は買えない。そもそも彼女はお嬢様だから高価な物もいらないと思われる。


 そんな縛りの中、ぐるぐると考えた結果、校則に引っかからない物となってしまった。


 もちろん、そこら辺にある100均のキーホルダーではなく、少しお高めなキーホルダーで、意味のある物だ。


 これが今の俺の限界。もっと大人の男になって、柔軟な考えが芽生えたい。


 とりあえず、誕生日プレゼントは鞄の中に忍ばせた。


 家で2人っきりの時に渡すのも良いと思ったが、学校で渡すのもアリ寄りのアリではないだろうかと思った次第だ。絶対に学校で渡さないといけないわけではないので、渡す機会がなければ家で渡せば良い。選択肢は多い方が良いと思って持ってきた。


 なんて思っていたが、今日渡せるか不安になる。


 今日の彼女もかなり忙しそうだ。


 朝も生徒会が忙しいみたいで、先に学校に行ってしまった。


 休み時間はと言うと、席を外している。おそらく生徒会に行っているのだろう。


 そしてここ最近、有希は俺の家に来ていない。LOINですみませんの文章だけが虚しく送られてくる。プラスして、学校で会ってからの再度の謝罪。


 もちろん、彼女が忙しいのは重々承知しているし、そもそも謝る案件ではない。


 家に来られないのは寂しいが仕方ない。


「はぁ……」

「どしたい。晃」


 休み時間。


 自席で、恋する乙女みたいに窓の外に向かってため息を吐くと、爽やか系のバカが絡んできた。


「悩みがあるなら彼氏である俺が聞くぜ」

「……」


 振り返り、思いっきり睨みつけてやると、「おっと」なんてわざとらしい声を出して言い直してくる。


「彼女である俺が聞いてやるぜ」


 なんでこいつは恋人に拘っているんだろうか。


「どっちでもないわ……」


 ぼそっと返すと、「こおおお!」と暑苦しい声で叫ばれる。


「本当にどうしちまったんだよ! いつもの晃なら、『どっちでもないわっ!』ビシイってツッコミが入るのに! ツッコミのない晃なんて、ナツメグの入ってないハンバーグと一緒だぞ!」


 なんとも料理をしている奴しか出てこなさそうなわかりにくい例えだな。


「あれ? 正吾最近料理してんの?」

「将来は牛50パーセントの店を出そうと思ってな」

「ただの合いびきハンバーグ」

「晃のツッコミが……! 晃のツッコミがアアア!」


 その場で膝をついて、悲劇の男を演じる正吾の下へやってくる1人の可愛い系女子。


「なに叫んでんの?」


 白川琥珀が、セミロングを耳にかけながら、ジト目で正吾を見ていた。


 その視線に気がついた正吾が立ち上がり彼女へ手を挙げた。


「おっす元カノ」

「おい、まてごら。誰が元カノだ」


 ドスの効いた声に正吾は屈せずに返す。


「すまないな。やっぱ俺は晃しか愛せない」

「もしかしてフラれた件のこと言ってる? だったらわたし達付き合ってなくない? 元カノじゃなくない? てか! だからなんでわたしがフラれた感じになってんだよ!?」

「いや、俺は正吾を愛してはいないけど」

「のおおおお!」


 正吾はマジにフラれた男みたいな悲鳴をあげると、泣きながら白川に言った。


「白川ぁ……。同じ負けヒロイン同士、仲良くしようぜ」

「誰が負けヒロインだよ!」

「白川ってメイン寄りの負けヒロインだよな」

「近衛くんは土俵にも立ってない3枚目キャラだよ! ちくしょう」

「いえーい」

「てか! さっきからなにを悲劇のヒロイン風に座ってるの守神くん!」

守神晃しゅじんこうに気安く話しかけてくる負けヒロイン白川琥珀」

「くそっ! どいつもこいつも!!」


 ムキーと怒っている白川を見て、良い加減にしないとと思ったので正吾と共に、「ごめん、ごめん」と謝ってから、正吾が彼女へ言ってのける。


「晃の元気がないからどうしたって思ってな」

「元気がない話なのに、どうしてわたしをいじり倒すことになった?」


 呆れた声を漏らしながら白川は、切り替えるようにため息を吐くと、こちらを悟ったような優しい顔で見てくれる。


「ゆきりんのことでしょ」

「あ、わかる?」

「そりゃ。今日誕生日……? 今日で良いの?」


 白川は首を捻った。


 そうなるのも無理はない。有希の誕生日は2月29日の閏年。4年に1回しか来ない日。そうなると、2月28日に祝えば良いのか、3月1日に祝えば良いのかで悩むところだろう。


 一応、免許的な所の道路交通法で言えば、2月28日になるとネットで書いていたので、それを参考に今日祝おうと思っている。


「今日だな」

「うんうん。今日、誕生日だけど、ゆきりん忙しそうだもんね。いくら家が隣同士でも、相手が忙しかったら気を使うし、そりゃ、一緒にいられるか心配になるよね」


 優しい声かけのまま白川は続けて言ってくれる。


「誕生日プレゼントは買ったの?」

「ああ。一応、持って来てる」

「だったら話は簡単だよ。今日も生徒会なんだろうし、待ってあげれば良いじゃん」

「それも考えたんだけど、先に帰ってって言われるだろうし」

「守神くん。女の子はちょっと強引でも大丈夫。もちろん好きでもない人からの強引は嫌だけど、ゆきりんの大好きな守神くんなら、多少強引なのは嬉しいと思うよ」

「まじ?」

「まじ!」


 ビシッと親指を突き立ててくれる。


「だから、正門で待ち伏せからのサプライズプレゼントでゆきりんをメロメロにしな。旦那」

「白川……。めっちゃ良い子……」


 ブワッと涙が出そうになった。


 その隣で。


「よし。そんじゃ、待ってる間俺と人狼しようぜ。晃」

「ほんと顔だけだな近衛くん。負けヒロインは邪魔だよ。てか、2人で人狼って成り立たなくない?」

「白川もやる?」

「人の恋時を邪魔するなっ!」

「流石の俺でもそれはわかってるっての。俺達負けヒロインは大人しくマックスドリームバーガーで一服だな」

「達? 達ってわたしも入ってるの?」

「もち」

「よしわかった。そこら辺をじっくり話し合おうではないか」


 この2人ってなんだかんだお似合いだよなぁ。


 なんて思って眺めていると、白川が再度、がんばれの意味のグッジョブをくれたので、返しておいた。


 そうだな……。


 家で渡せるかもわからないのなら、早めに渡した方が良いよな。


 17歳の誕生日は今日だけ……。


 正門で待つのも良いかもだな。

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