第119話 寂れたショッピングモールも誰といるかで状況が変わる

 白川琥珀と寂れたショッピングモールで、有希の誕生日プレゼントを探すことになった。


 閉店している専門店が多い中、少ないながらもできるだけオシャレな店に入り、あーでもない、こーでもない、なんて言いながらプレゼントを選ぶ。


 しかし不思議だ。


 さっきまで暗かったショッピングモール内が明るくなった気がする。


 この一瞬で蛍光灯がLEDにでも変わったんじゃないかと錯覚するが、そうではない。


 白川琥珀だ。


 彼女のひたすらに明るい性格が、モール内を明るく照らしている気がする。


 別に今は落ち込んでいるわけでも、病んでいるわけでもない精神状態だが、なんか元気が出た。


 3つ目の専門店に入ったところで、足を止め、ハンガーラックにかかっていた服を手に取った。


「白川」


 雑貨コーナーで商品を物色していた白川を呼ぶと、すぐにこちら側に来てくれる。


「良い服でもあったの? でも、プレゼントで服って相当ハードル高いと思うけど」

「んにゃ。そうじゃない。あんたに似合いそうな物があったんでな」

「わたし?」


 不意を突かれたみたいな顔をしている彼女へ、「ほら、これ」と言って持っていた服を見せた。


 提示した服を、まじまじと見つめると、白川はジト目で俺を見てくる。


「これが、わたしに似合うって言いたいの?」

「スッゲー似合うと思うんだよな」

「え、そのピュアな瞳はマジなのを物語っているんだけど、本気で言ってんの? 本気で言ってるなら、ぶつよ?」

「なんで殴られなきゃならんのだ」

「そりゃそうでしょうがっ!」


 白川は俺の持っていた服をぶん取って、気に食わないポイントを指摘する。


「なんでこの時期にTシャツ!?」

「夏を先取りだな」

「先取りが過ぎるよ! それになに!? このTシャツ!? 太陽じゃん!」

「夏を先取りだな」

「すげー夏を推してくる! 100歩譲って太陽だとしても、芸術的な太陽なんだよ! 太陽に顔があるんだよ! 怖いよ!」

「大阪の吹田に行きたくなっただろ?」

「関西のネタはもういいんだよっ!」

「まぁまぁ。そう言わずに」


 彼女がぶん取った太陽のTシャツをもらい、姿鏡の前に立ち、Tシャツを合わせてあげる。


「あら、お客様。とてもお似合いでございますよ」

「ちくしょうめっ! 自分でも似合うと思っている自分がいるよ!」

「文化祭実行委員感が出てて、とても青春なされておられまするするするっすよ」

「下手くそな接客と不愉快な敬語に腹が立つけどもらうわ。いくら? 1000円?」


 値札を見ると、目を疑った。


「どうやら定価の60パーセントオフで3200円するらしい」

「高っ! 嘘、え!? 高っ! 買うわ」

「買うの!?」







 白川琥珀はマジでTシャツを購入していた。


 ノリが良過ぎると言うか、ノリだけで生きているというか。


「にゃはは。ゆきりんに良いプレゼント見つからなかったね」


 ショッピングモールにある、ガラガラのフードコートに腰掛けて今日の成果を発表する。


 今回はあまり良い成果を得られなかったな。


「ま、そもそも、今日買う気じゃなかったから良かったよ。それに、近所に良いプレゼントがないということがわかっただけでも収穫だ。次の休みの日でも都心の方まで足を伸ばすことにするさ」

「ポジティブだねぇ」


 白川は、自動販売機で買ったジュースを飲みながら感心した声を出していた。彼女の横には、太陽のTシャツが入った袋があり、それに目が行くと少し罪悪感があった。


「それ、マジで良かったの?」

「ん? ああ、これね」


 言いながら視線を袋に向けると、笑いながら答えてくれる。


「にゃはは。悪ふざけだってわかってたけど、丁度部屋着が欲しかったんだ。わたし、暑がりだから、半袖率高いし」

「あ、いや、悪ふざけではないぞ。本当に白川にピッタリだと思ったんだ」

「ぬ?」

「いや、なんていうか、このショッピングモール寂れて暗い感じがしてたんだけど、白川と会った瞬間明るくなった気がしてさ。そんなこと思ってたら丁度太陽のTシャツ見つけて、白川って太陽みたいな女の子だなって思ったからさ」


 彼女は面食らったかのような面持ちで、数秒目を、パチパチさせた。


「ぷっ」


 途端、吹き出して笑いながら言ってくる。


「なにそれー。口説いてるの?」

「わり、俺、彼女いんだわ」

「それ、ほんとチートのセリフだよね」


 拗ねた声を出しながら、頬を膨らませて言ってくる。


「わかってますよーだ。あんたらバカップルに入る隙間なんてないだろうし。そもそも、入る気なんてありませーん」


 冗談めかして言ってくると、ジュースを一気に飲み干して立ちがる。


「そろそろ戻らないと、坂村くんが泣き出すかも」

「さかむらくん?」

「野球部のキャプテン。そろそろ、渡したメモの練習が終わってる頃だから、次になにしたら良いかわかんない、って泣きつかれるかも」

「それ、白川が野球部のキャプテンみたいになってない」

「ウチの男子共は頼りないからなぁ」

「マネージャーの尻に敷かれる野球部ってのも一興だね」


 中学の頃にはマネージャーなんて存在しなかったからな。高校野球からマネージャーの存在があって、ちょっと羨ましい。


「買い物。付き合うよ」


 立ち上がりながら言うと、白川は小首を傾げた。


「買い物?」

「スポドリの粉を買いに来たんだろ?」

「あー」


 ポンっと手を叩いて、思い出したような声を漏らしていた。


「忘れてた」

「おいおい」

「クラスメイトの男子との買い物が楽しくって、つい、ね」


 ベッっと可愛らしく舌を出してくるのが、ナチュラル過ぎて、この子はアイドルに向いているのではないだろうかと本気で思った。


「お、もしかして、ドキドキした? 今のはドキドキしたでしょ。でも、浮気はだめだぞ」

「わり、有希が美人過ぎて、白川のあざとさが薄いわ」

「くそ。小悪魔系でからかっても、彼女が絶世の美女だから、からかいきれない」

「はは。ゆきりんだからな」

「守神くんがゆきりんをゆきりんって呼ぶと、バカップルさが増すからやめときな」

「それは、否めない」

「あはは。ほらほら、買い物付き合ってくれるなら、さっさと買って戻るよー」

「へいへい」

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